Vol.2 夢人 ー空夜の旅 Ⅳ ー
「おーい生きてるかー?」
学校の休み時間、朝から猛威をふるい続ける
睡魔と格闘していた廉は、亮太の声ではっと
我に返った。
「ふぁ……何だよ?」
廉は眠い目をこすりながら、
あくび混じりに言った。
「何だよはこっちのセリフだっつーの!
お前今日ちょっと変だぞ?なんか朝から
上の空だしめっちゃ眠そうだし…………
スゲー頭揺れてたぞ、さっきの授業」
それもそのはず、廉は昨日から一睡も
していなかった。一昨日見た夢のせいで、
寝るのが恐いのだ。あの銀髪男に掴まれた時の
感触は、まだ鮮明に覚えている。
夢にしてはいやにリアルだった。
馬鹿馬鹿しい………ただの夢だ。
そう何度も自分に言い聞かせたが、
真岡のこともあって、どうしても嫌な予感を
拭い切れなかった。
よっぽど亮太に言おうかと思ったが、さすがに
高一にもなってこんな子供っぽいことを
ほざくのはプライドが許さなかったので、やめた。
「……昨日の晩は剣道の本を読んでて、
寝るのが遅くなったんだよ」
廉は嘘をついた。
亮太が呆れて言った。
「ったく、剣道バカめ……程々にしろよ?
この前の部活の試合も熱あるのに行こうと
しただろ」
その時ちょうど、担任が教室に入ってきた。
それを見て、亮太が自分の席に戻っていく。
廉は目を覚まさせるために、パン!と
両手で頬をたたいた。
眠ったら終わり、眠ったら終わり、眠ったら…
と、心の中で呪文のように唱えた。
数時間後、やっとのことで全ての授業が終わった。
廉と亮太は部活を終え、校門に向かって歩いていた。
「………何だ?」
校門のところに、数人の女子が群がって
なにやら騒いでいる。
「ここで何してるんですかぁ~?」
「超イケメン~‼もしかして彼女待ち?」
次々に質問を浴びせる女子高生に囲まれて、
一人の男が困ったような顔をして立っていた。
その男の顔を見た瞬間、廉の眠気は吹っ飛んだ。
同時に、背筋が凍りつくのを感じた。
「あ」
男はこちらに気づいて、近づいてきた。
「君……空木廉くんだよね?
ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
横で聞いていた亮太が驚いて言った。
「廉、知りあいか?」
だが、廉はそれに答えることが出来なかった。
知りあいなんてもんじゃない。
その男はまさしく、夢で見たあの銀髪男だった。




