こうして彼は・・・
それは今日の朝、通学路で起こった出来事だった。
学校と家の距離が近い為、毎日徒歩で学校に来ている長谷川はいつも通り学校への近道である、路地を歩いていた。
その路地は家と家の間に造られた細い道で家や庭に生える木などの陰によりいつも薄暗い。そして、ほとんど人の通りがなく、今までそこを通って登校していて人に会ったことは数えるくらいしか無かった。
そんな道をただボーっと歩いていると、角を曲がった所で目の前に人影が見えて、こちらへ向かってくるのが分かった。
どんどん近づいてくる影を気にしながら歩き続けると、だんだんその影の人物が分かってきた。
影のシルエットから身長や体格が自分に似ていることは何と無く気づいていた、姿が分かるようになって、違和感を覚えた。自分と同じ制服を自分と同じように着崩していたのだ。
変だなと思って、向かってきた人物の顔を確認すると・・・
その人物は長谷川幸太。自分自身であった。
動揺が隠せない長谷川はその場で動けずにいた。
そんな長谷川に対して、長谷川の姿をしたドッペルゲンガーは長谷川に向かって走ってきた。そして、体に突進してきた。
「うぐっ!?」
腹に飛び込んで来られたので思わず声を上げてしまった長谷川だったが、そのお腹には特に衝撃も無ければ痛みもなかった。
「何だったんだ?」
お腹をさすりながら状態を確認したが、特に何もないのを良しと考えた長谷川は再び歩き出した。
しかし、すぐに体の異変に気付いた。
それはちょうど路地を抜けて、学校前の大きな通りに出た時だった。
周りの生徒たちの声の他に別の声が聞こえるのだ。いや、もっと正確に言うなら、耳から聞こえる声の他に頭の中、脳に直接響くような声が聞こえるのだ。
それにその内容は、耳に聞こえる生徒たちの声のように明るく楽しいものではなく、脳に響き声は、とても暗く、まるで陰口のように悪い内容ばかりであった。
「な、何なんだよこれ・・・?」
長谷川は怖くなり、教室に着いた後も何も考えないようにうつ伏せて耳をふさぎ、眠りに就こうとした。
「だけど、一時間目の授業が始まった位に耐えきれなくなって・・・」
「あの状況になったのか・・・」
「ああ」
顔を俯かせて長谷川は言った。
「大変だったな」
太陽は長谷川の肩をポンと叩いて励ました。
「ん?どうしたんだ?」
長谷川の話を聞いたうえで考え込む立花を見て、太陽は訊いた。
「おそらくだけど、長谷川君が得たのは、人の心を読む能力つまり「テレパシー」じゃないかしら?」
「テレパシー?」
長谷川の体調などを気遣うことなく、能力ばかり考える立花に若干呆れた太陽であったが、「テレパシー」については正直気になった。
「ええ、これなら最初に能力に気付いたのも、人通りのない路地から大通りに出た時っていうのもしっくりくるし、頭に響く悪い雰囲気の声っていうのも、人の心って考えると」
「まぁ、確かに怖いがしっくりくるな」
人の心が陰口みたいと言うのは怖い。しかも、それを聞こえてしまうという長谷川はもっと怖い思いをしている。
それを思うと太陽は自分にもこのような事態が近づいているというのが恐ろしく感じてきた。
「俺はずっとこのままなのかな?」
不安そうな声で長谷川は言った。
「分からないわ」
「そっか・・・」
立花の返答に少し残念そうに長谷川は言った。
「今後どうなるか分からない以上、その能力と向き合わないといけないと思うの。慣れれば、今みたいに見境なく人の心を読むというのはなくなると思うの」
立花は長谷川を励ますように言った。
「そう言えば、今は大丈夫なのか?俺たちの心とか?」
今まで普通に話せていたことが気になったので太陽は訊いた。
「確かに今、二人と話しているときも頭の中には声が聞こえてたよ。でも、さっきみたいに一気に大量の声ってわけじゃないし、悪い感じでもなかったんだ」
「それって」
「本当に俺の能力が人の心を読むものなら、少なくとも今は二人とも俺のことを本当に気にかけてくれたんだな」
少し顔をほころばせて長谷川は言った。
「ああ、もちろんだ」
「うん。仲間だもの」
太陽と立花も微笑んで言った。
「じゃあ、俺らはとりあえず教室戻るよ」
いつの間にか授業の始まる時間が近づいていることに気付いて、太陽は言った。
「ああ、ありがとう二人とも」
長谷川は最後は笑顔で嬉しそうに言った。




