PART.18 アレはバッドエンドを迎える
俺らがハグしていると、スマホから電話が来た。体を離し、相手を確認するとそこにいたのは精肉店の店主。電話に出ると店主は少し慌てた様子でこう言った。
「ケン坊!さっき警察から連絡が入った。影山和美が先ほど逮捕されたらしい。」
影山和美。
俺を殺そうとして辺りを巻き込む大火事を起こした犯罪者。そして、元俺の母親。
俺を殺そうとして今でも母親面をするつもりなのかは知らないけど、少なくとも俺は許すつもりはない。
…こんな話が来たからなんか感情が冷めた。それと、ようやく逮捕されたのかとかなり呆れていた。運だけは良かったからな…悪運か?どうでもいいが。
「分かった。で、ソレは結局死刑だろうけど、俺はどうしたらいいかな?」
「あー、一応、ケン坊が一言いえばアイツの罪は軽くなるらしいが…。」
「断固拒否するよ。」
「だろうな。」
店主はおそらく苦笑しているのだろう。少し笑っているような声が聞こえる。
「まあ、アイツはうちのお得意様だったが、ケン坊を自分勝手に殺そうとしたんだ。しかも、足が付かないように周りにも放火しまくったらしいしな。死刑程度で済めばいいが…。」
「まあ、少なくともこっちや冴島さんに『健也君!』…友里さんに飛び火さえしなければそれでいいんだけどな。」
「まあ、こればっかりは難しいんじゃないか?ケン坊にもアンチとかいう輩はいるんだ。最近、やけに配信中の距離が近いが、なんかあったのか?」
何だ、配信見てたんだ…。ってあれ?ってことは『ふにゃぁ…。』も見てたのか!?
…ちょっとお話しないといけないかな?
「何にもないって!…じゃあね、また肉買いに行くし、…いろいろ話すから。」
「間が怖えぇよ。ま、気が向いたら来いよ!また肉を仕入れておくぜ!」
「前みたいにいきなり国産牛盛り合わせを買わせようとしないでね?」
「しねぇよ!…もう切るぞ!」
通話は切れた。けど、店主が配信見てたのか…。いや、別にいいんだけど、どうだかなぁ…。
そ・れ・と!
「友里さん、流石に通話中に叫ばないでよ…。」
「え~!健也君を健也君って呼んでるのに、健也君が友里って呼んで悪い意味がないじゃん。」
「店主にバレたら恥ずかしいの!というか、バレてたか。」
「店主さん、初めの配信から見てたって。」
「…マジ?」
「マジ。」
何となくいつもの距離感に戻った感じがする。でも、これもこれで悪くないし、何となくしっくりくる。恋愛感情を抱いているという事実は覆らないけど。
どうせなら、もうしばらくはこの距離のままで…。
裁判の日等色々と、その日のメールに送られてきていた。遠山社長とか、丸山社長とか…。あ、本田さんからも来てる。
『独占配信!冴島友里の同居人、母親裁判RTA』って、流石にふざけすぎ。まあ、アイツへの愛情なんてもうとっくに無いからいいんだけどね…。
優しかったアイツ…。
俺の唯一の肉親。
俺の、世界でたった一人の、お母さん。
「えっ?…あれ?…嘘だよな。…っ………あれ?」
俺は泣いていた。悲しいわけじゃない。でも、何か唐突にこみあげてきた。心臓と何か冷たいものが入れ替わったような、そんな感覚がする。苛立ち、怒り、孤独感とも違う。ただ。ただひたすらに冷たいだけだ。
胸に手を当てる。
そこではいつものように心臓は鳴っている。鼓動が聞こえる。息も荒くはなっていない。胸は冷たくない。暖かい熱を放っている。でも冷たい。
死んでしまうのは確定事項だ。そんなの、今までの人生ではスパイスだのアクセントだの言って片付けてきた。誰かが死んだというニュースを見ても、データとしてしか『命』を見ることが出来ずにいた。そもそも、死ぬ前に何をすればいいかなんてよくわからない。当たり前のことだ。なのに、アイツを憎んでいた、恨んでいた、そんな俺が、…アイツが居なくなるのが辛く感じてしまう。
「健也君。」
後ろから友里さんが話しかける。俺は振り返ろうとしたが、振り返る間もなく後ろから抱きしめられる。
「大丈夫だから。」
友里さんは何に対して大丈夫と言ったかは分からない。でも、その優しさがただ辛くて、嬉しかった。
「今日は私が料理を作るからね。ゆっくりお休み。」
友里さんはそう言って俺から離れようとする。俺は回されている腕を優しく掴み、
「…一緒に、作りたいです。…料理。」
と言っていた。
小さく笑う声が聞こえ、彼女は、
「うん、いいよ。」
そう答えた。
俺は木本流牙、精肉店店主だ!
おっと、俺の話は別にいいんだ。最近のケン坊、ちょっとおかしくねぇか?
いや、冴島友里と同棲してるって話だったか?あれについてはマジでそうらしいが、未だに手を出していないのが少しおかしいと思っていてな?
ケン坊、理性が強すぎるせいでいろいろと誤解されがちだが、内面はガチの肉食系だぞ?全生徒に伝えておきたかったことだが、アイツ結構性癖歪んでるし、自由を尊重したり色々といい奴だろうが、今日俺と話していたのが基本的には本性だ。
え?普通じゃないかって?
アイツ、言葉に殺意だのなんだの無意識のうちに飛ばすから、たまに喧嘩売った奴が精神崩壊どころじゃ済まない大惨事になるんだ。普通に大怪我で済むこともあるが、大体はそのとき遭ったことについては皆『自分が、全部自分が悪かった』と言っちまってるレベルだ。多分、あの荒川とかいうヤツもそう言う目に遭ってるんだろうが、アイツに関してはただの自業自得だな。
さて、和美が逮捕されたのは良いが、どうやらケン坊からしたら嫌なタイミングで電話掛けちまったらしい。まあ、こりゃ俺が悪い。後で肉の割引券でも渡しておくか…。
はぁ、一応、俺は裁判には無関係だが、遠山の社長との面会があるしな。一応、ケン坊は俺の息子みたいなもんだしな。ま、俺にできる根回しとかはやっとくか。
うっかり小話(作者の雑談)…。
実は店主こと木本流牙、かなり昔その地区では有名なヤンキーのトップだった。ヤンキーたちは彼を慕っており、彼が卒業してからは悪事から足を洗い、見た目だけはそれのただの親切で真面目な優等生になっていた。実は、そのヤンキーの中には起業して大企業になった社長や海外からスカウトされるレベルのハッカーも数多くいたとか…。どんなのがヤンキーになってるんだ…。というか、何なんだよこの地域…。




