波乱の予感
受付の人がドアをノックすると――ギルドマスターであろう男が中から返答した。
「ギルドマスター、シア様をお連れしました」
「おぉ、そうか。では部屋へ通しなさい」
そう言うと同時に、扉がひとりでに開く。恐らく何か魔法を使ったのだろうが、特段気にすることでもないので今は置いておこう。俺をここまで先導してくれた女性は部屋に入らず、何やら「どうぞお入り下さい」と言っている。
彼女は外で待機するのかな? なんて思いながら俺は部屋に一歩踏み入った。そして中に入った俺の後ろでバタンと音がすると同時に――妙な圧迫感が俺を襲う。
見えない何かが体にまとわりつくような、なんとも形容しがたい感触。それよりも気になるのは、眼前に座っている一人の老人。どうしてだか分からないが実に嬉しそうな顔を浮かべているんだ。
「おぉ、よく来てくれた。とりあえずそこに腰掛けなさい」
「ではお言葉に甘えて――失礼します」
「よろしい。どれ、茶でも用意しようかの――すまんが茶を頼む」
「畏まりました」
先程俺を連れて来てくれた女性に茶を入れてくれと言ったあとまた俺のことをニコニコと見つめてくる。正直に言って男と見つめ合うなど御免被りたいのだが、相手が相手だから口にだすことも出来ないし……それに、先程から圧迫感が少しずつ増しているんだよな。
恐らくこの老人が何かしているのだろうが俺には全くわからないから対処のしようもない。俺がそんな事を心の中で思っていると、老人が「ふむ、これでもか」と呟くのが耳に入った。
……完全にこの爺さんの仕業だな。
もう良い、直接爺さんに聞いてみよう。こんな状態で話をするにも落ち着かなくてやってられないしな。あっちがやってきてるんだから少しくらい無礼を働いてもいいだろ。
「……さっきから圧迫感が凄いんですけど」
「ほう、まだ圧迫感だけか。これならどうじゃ?」
「どう、と言われても――!」
突然さっきと比べて圧迫感が強くなり、皮膚が少しピリピリとし始めた。別に痛いというほどではないが、気分が良くはないな。ピリピリとした肌に対してではなく、それを行なっている目の前の爺さんに対してだが。
「少しピリピリしますね。ともかく、いい加減にして頂けませんか?」
「おぉ、すまない。少々戯れが過ぎたな」
「……ふぅ」
そう言った瞬間体を襲っていた不快感は消え去り元の状態へと戻る。どういう原理かは知らないが、教えてもらえるのなら是非。そう、是非に教えてもらいたいものだな。
「さっきの圧迫感はなんだったんです?」
「ふむ、ワシもやり過ぎた。詫びにどうやったのかを教えよう」
――原理は簡単で、魔法にする前の魔力を相手にぶつけるだけだった。
名前をつけるなら"魔圧"ってところか?
「試しにやってみるか?」 と言われたから爺さんに向かってまずは軽くぶつけてみた。爺さんが「出来ておるぞ」と成功していることを教えてくれたため、そこから徐々に魔力の量を増やし威圧感を与えるようにイメージを固めていく。
最初はニコニコしていた爺さんも、だんだんとその顔が崩れていく。ひりひりすると笑っていた爺さんは、俺が全開のうちだいたい半分ほど魔力をぶつける頃には汗を流して、最初のニコニコ顔とは異なった苦笑いを浮かべていた。
「す、すまんがそろそろ本題に入りたいのじゃが……」
「えぇ、わかりました。私も少し調子に乗りすぎましたね」
「ふぅ……分かってくれればいいんじゃ」
「それで、私がここに呼ばれたのは何故です?」
「その前に自己紹介をしておこう。分かっておるだろうがワシはここのギルドマスターじゃ。名をヴァクセンという」
やはりギルマスだったか。この部屋にいるのだからギルマスだとは思っていたが突然俺に対して魔法を行使するもんだから疑うのも仕方ないだろう?
「これでやっと本題に入れるわい。――時にシア、お主の活躍には目を瞠るものがある」
「ありがとうございます」
「それでじゃな、お主のランクをわしの権限で黄色に上げさせてもらう」
「それは……いいんですか?」
「依頼は一通り行なっておるし、結果も上々。その上オーガを倒した者が白のままでは示しがつかん」
ともあれ、ランクが上がるのなら嬉しいな。自分自身の成長のためにも上げないほうが良いとは一瞬思ったがギルマスの判断なのだからそれに任せるのが得策だろう。ランクを上げる事によって受けられる依頼も増えるしな。
「それが一点。もう一つは……お願い、じゃな」
「お願いですか?」
「今から一ヶ月後、深森における大規模掃討を行う予定なんじゃ。それに参加してもらいたい。すまないがご助力願えるかのう?」
「大規模掃討……ですか?」
曰く、最近魔獣の動きが顕著になってきており、早急に対処をしなければいけないらしい。このまま放置すると大襲撃に繋がる可能性があり、それを未然に防ぐには森へ入って魔獣の数を減らすことが必要だ、との見解だ。――しかし、俺はそこで疑問が生じた。
「魔獣を倒した時に発生する魔素でまた魔獣が生み出されてしまうことは無いんですか? 大襲撃の時は日光が浄化してくれると聞きましたが」
「それに関しては魔法で何とかなるはずじゃ。聖属性魔法でな」
「聖属性……魔法?」
「解呪や浄化を主とする魔法じゃよ。ちなみに回復魔法はその派生系じゃの」
「なるほど。どんな魔法か今見ることは……」
「魔法の講義をしているわけじゃないのでな。わしには無理じゃ」
――結局、俺はその大規模掃討への参加を承諾した。
聖属性魔法については図書館で勉強し直そう。他に何の属性があるかも詳しく調べる必要が出てきたしな。またレクテューレにお世話になりそうだ。
大規模掃討までに、俺も色々と鍛えなければならないな。魔法の制御を行うことや戦い方など、幾らでも改善点はある。出来ることはやっておかないと、後悔することが出来てしまってはあとが辛いからな。
――そうと決まれば今日から一ヶ月、色々と勉強や修行をしよう。




