とある二人の受難
――その二人は必死の形相で走っている。
だが、何故か途中から二人の言い合いになってきた。そこで、助けようと思って踏み出した俺の足が一度止まる。よくよく話を聞いてみると……
「畜生、何でこんなことになったんだ……」
「だから森の奥は嫌だって言ったじゃない!」
「いやいやいや! もう森の奥でないと居ないって言ったのはお前の方だろ?!」
「それはあくまで最悪の場合だって言ったじゃ――」
「でも最初にこの森に入ったのはお前じゃ――」
そんな感じでお互いに喧嘩しながら走っているのだが……
「「――あぁ、もう鬱陶しい! これでも喰らえ!」」
時折二人が苛ついた様子で魔法をぶっ放したり剣でゴブリンを叩き斬ったりしているんだよ。なんとも近づきにくいんだよなぁ。
正直、俺が加勢しなくても良いんじゃないかと思い始めている。だってこんな状況で喧嘩できるんだぞ? こっちからしたらむしろ余裕にすら見えてくるんだよなぁ。このままだったら別に加勢しなくてもいいんじゃないかなーなんて……
――いや、それでも一応声はかけておくか。取り敢えず彼らの元へ走って行き、並走する形になってから話しかけた。けど、なんだか二人共変な顔をしているから、やっぱり助けはいらなかったのかな?
「――どうも。助太刀しましょうか?」
「「え?」」
「えっと、助けは必要ですか?」
「「あぁ、はい。できればお願いしたいですけど……」」
「わかりました」
とはいえ、どうやってこいつらを片付けようかな。結構な数がいるし、中には初めて見るやつ……多分オークだと思うんだけど、そういうのもいるからむやみに近付くのは愚策だな。――よし、とりあえずやってみよう。足止めできればそれで良いや。
……ふと思ったことなのだが風の魔法って「風」を操っているんじゃなくて「空気」自体を操っているんじゃないか? どうせなら今実験してみよう。
二人に頑張って走ってもらってある程度魔獣から距離を取ったあと、立ち止まりながら全力で魔素を使うつもりで体内へと取り込み、腕を真上に伸ばしながら自分の上にある空気を操ってみる。……どうやら成功みたいだな。
空気を圧縮しながら、徐々にその範囲を広げる。それを一定の位置で固定したあと近付いてくる魔獣から逃げるために俺も走りだした。魔獣がその下を通った時に――その塊を奴らめがけて落とす。
「よし、――『圧風』!」
想像的にはこう……擬似的な重力みたいなものを思い浮かべている。上から覆いかぶせることで足を遅くし、そのうちに風刃で切り刻む寸法だ。重力とは何の関係もないが、結構いい案じゃないか?
――と、俺は思っていたのだがここにも誤算があった。
魔獣が下を通る、ここまでは良い。魔法で塊を落とす、ここも大丈夫だ。そして肝心の魔獣の足を止めることだが……
「おぉ! 一応成功している「ミシッ……バキバキバキ」みた、い?」
……成功はしたな。魔獣がぺしゃんこになっているが。
悲鳴をあげる暇すらなく、魔獣らは息絶えた。そして残ったのは見るも無惨になった魔獣が血の海に沈んでいる光景。
なんだか少し気が抜けてしまったが、まだ倒し損ねた奴らが居る。そいつらを風刀で一匹ずつ片付けながら、さっきの男女のもとに向かった。二人共唖然とした顔でこっちを見ているが、そんなのお構いなしに治療を行う。
多分走っている時に草で斬ってしまったのであろう、腕や足の切り傷が見て取れた。一ヶ所ずつ治療するのも面倒だから、全身に回復魔法をかけてしまおう。
「さて――『ハイヒール』もういっちょ『ハイヒール』!」
「えっ?」
「はぁ?」
ずっと二人は呆然としっぱなしで、何やら理解が追いついていない様子だ。追いかけてきた大量の魔獣が一瞬でぺしゃんこになり、残った奴もいつの間にか見えない刀で斬られている。驚くのも無理はないだろうな。
「何が起こってるの?」
「俺にも分からん」
「えっと……もう終わりましたよ?」
「「ハッ?!」」
――それからは二人にお礼を言われ、何か恩返しがしたいという運びになった。
いろいろと話しをしたのだが、二人はオークの討伐に来たらしい。浅いところにもたまに出没するからそれを討伐しようとしたのだが、どうにも見つからず深いところまで入り込んでしまったらしいな。そこでさっきの集団に鉢合わせたとのことだ。
それで助けがほしかったのは確かなのだが、まさか本当に来るとは思わずそのまま頑張って森の外へと逃げる寸法だったらしい。ある意味予定が狂ったと二人は笑っていた‥
お礼に関しては、別に自分がやりたくてやったことだからいらないと言ったのだが、それでは自分たちが納得出来ないと固持され、仕方なしに一つだけ知りたいことを教えてもらうことにした。
それは薬草採取は何束持っていけば良いのかということだったのだが、それを聞いた時は今まで以上に二人は変な顔になっていた。結局のところ十束単位で収めるらしいのだが、その後に何故かランクの話になる。
「えっと、シアさんのランクは今何色なんですか?」
「白ですよ?」
「しっ、白ぉ?!」
「いや、ありえねえだろ……」
ちなみに二人は黄色らしい。オーク討伐は黄色から受注できるそうだ。それからずっと二人は「ありえない」を連呼していたが、それも落ち着いた頃にお互い一度ギルドへと帰るということで話が纏まった。
三人で警戒しながら森を抜け、やっと王国へ向かう道に辿り着く。そこからは談笑しつつゆっくりと歩いて道を進んだ。そして入国を済ましギルドへと向かう。
――ギルドにて、依頼の達成報告を行った俺は二人と別れを告げた。
おそらく依頼の未達成の件だろうか、ギルドの奥へと呼ばれた二人がとぼとぼと歩いていったのだが、帰ってくるとその顔が実に険しいものになっていた。お偉いさんに怒られたりしたのかな?
そして、俺も帰ろうかと思った時――受付が俺を呼び止める。
「シア様、少しお時間を頂きたいのですが……宜しいでしょうか?」
「はい? 別に構いませんが、何か御用ですか?」
「えぇ、少し上が「話を聞きたいから確認をとってくれ」と」
それを了承すると、受付嬢が何やら奥まで走って行き、別の人が現れた。そして俺に向かって「ご協力感謝します。それではこちらへ」と言うと、俺を奥の部屋へと連れて行ってくれた。そしてある部屋の前で停まる。そこの部屋名のプレートには――
――「ギルドマスター」とだけ書いてあった。




