薬草と魔法
――お爺さん曰く薬草は基本どこにでも生えているらしい。
ただ、比較的日が照っている高所に生えていることが多い。なぜ高所に生えているのかと言うのはお爺さんにも分からないらしいが、日が照っている所に多いというのは何となく分かるな。光合成とかいろいろな要因があるのだろう。べつに薬草の学者ではないから気にすることではない。
……ということでまたあの森まで馳せ参じた次第だ。
今度は奥の方まで行かずに比較的浅いところで薬草を探すことにしよう。というより、奥の方に行くと光が遮られるから見つかる率が下がり、そもそも薬草自体が育ちにくいなど何もいいことがないだろうしな。もうあんな思いをするのは懲り懲りだ。
そんなこんなで森の中を歩き回っていたわけだが、鑑定の能力があることをすっかり忘れていたことに気付き、取り敢えずそこら全体の草に鑑定を掛けてみる。
「えっと……ここらでいいや。――『鑑定』!」
《 =雑草= そこらに生えているただの草》
そりゃそうだよな。と思った次の瞬間――俺の視界はウィンドウで埋め尽くされた。
《 雑草雑草雑草雑草雑草雑草…… 》
「うぉあ?! ……あーびっくりした。一個一個じゃないくて全体にも鑑定を掛けられるのか」
次は驚かないと心に決め、その後何回かそれを繰り返す。そうやって見た目が違う草があるたびに鑑定していたのだが違う表記の草が現れた。
《 雑草雑草雑草雑草クラウ草雑草…… 》
「お? さっきなんか違うのがあったな。何々……クラウ草?」
《 =クラウ草= 薬効効果のある薬草の一種。すり潰したものを抽出する》
これが薬草だな。お爺さんに教えてもらった薬草の見た目にも合致するし……あぁ、依頼の用紙にも名前が書いてあった。きっとこれをいくつか持っていけば依頼達成になるのだろう。何束持って来いとは言われなかったから個数によって報酬が変動するタイプの依頼だろうか?
普通受ける前に確認しろって話だが受付嬢に何も言われなかったからそのまま来てしまった。あっちの説明不足なのか、俺が元から知っているというのを願ってのことなのかは分からないが、取り敢えず数十本か持っていけば間違いはないだろう。
――それから数十分探し、二十本くらい見つけた頃だ。
漂って来る異臭と、緑色の皮膚を持つ魔獣……ゴブリンが現れた。三匹の群れのようだが、まだこちらに気付いていない様子。先手必勝だと思い剣を抜こうとしたのだが、どうせなら魔法を使って倒してみようと思いついた。
基本は草刈りの時に使った『風刃』だが、それを少し改良してみよう。拾った棒の先にまずは草刈機と同じような小さな刃を発生させ、それを横に伸ばしていく。そして二匹を纏めて倒せるくらいの大きさにすると……
「『風刃』――射出!」
――ゴブリンに向かって飛ばす。ただそれだけ。
ほぼ不可視、少しだけ空間が歪んで見えるくらいの刃がゴブリンへと飛んで行く。ただ飛んで行く時の音はするようで、ゴブリンがこちらを振り向くが……もう遅い。風の刃はゴブリンの体に当たった瞬間、するりと後ろへ抜けていく。
「あれ、通り抜けた?!」
「グッ……ガガガ!」
俺に気付いたゴブリンが走りだす。――その上半身を置いて。
どうやら斬られたことにも気付かなかったようだ。走りだした瞬間体が上下にずれて切り口から鮮血が溢れだす。何が起こっているのかわからない……そんな顔をしてゴブリンは息絶えた。
残り一匹は怒りの顔を浮かべて、俺へと向かってくる。俺は次に持っていた枝を短く切り魔力を集中させた。思い浮かべるのは"刀"。
「――『風刀』……いけそうか?」
手に持つ棒の先から風の刃を伸ばしてゴブリンと正面から対峙する。そのまま向かってきたゴブリンは棍棒を振り上げ俺に襲いかかる。その棍棒を刀で防ごうとしたのだが思わぬ事が起こった。
……棍棒が真っ二つに切れたんだ。
思わず俺は後ろに下がるが、ゴブリンはその勢いを殺すことが出来ずに俺へとそのまま向かってくる。そして刀の届く範囲内に来た瞬間、俺は思いっ切り斜めに刀を振リ下ろした。
不可視の刀はゴブリンの体をすり抜け、またもや体を両断する。綺麗に、斜めにずれて地に崩れ落ちた姿……そして広がる血、目の前に広がるスプラッタな光景に思わず後ずさってしまうが、これで魔法が戦闘に使用できることが確実となった。
その後は薬草を当てもなく探し、見つけたら水を出して洗いバッグにしまうという作業を繰り返し行なった。取り敢えず五本ずつ束にして纏めたりなどやれることをやりながら、ついに四十本ほど薬草を見つけた時だった。
俺が気付かぬうちに、どうやら少し深いところまで潜り込んでしまったらしい。辺りは光があまり差し込んでおらず、暗くジメジメとした物に変わっていた。
戻ってもう一度浅いところで探そうかと考えていると――何やら遠くから声が聞こえてくる。それは切羽詰まった男と女の声。
「――クソッ誰か他にいないのか?!」
「助けてください! このままじゃ死んじゃうぅぅ!」
――彼らは後ろから大量の魔獣共に追い立てられていた。




