依頼と安らぎ
――帰り道がてら、また串焼きとリゴの実を買って家へと向かう。
オーガの件で臨時収入もあったし、金に困ることはしばらく無いだろう。衣・食・住のうち、食と住の二つは問題ないから後は「衣」だな。流石に一着を着回しするのはそろそろ嫌になってきた。
……あぁ、血に関しては一応水魔法で綺麗に落ちたんだ。でも血っていうのは生物の体液だぞ? それに人間ではなく魔獣の体液だし……いや人間の体液だとしてもだ、正直な所気持ち悪くて仕方がない。今すぐにでも新しいものを買ってこの服を捨てたい。
が、今日はいろいろ事が起こって疲れたから後日にしよう。これから先は長いんだ、これくらいの我慢を覚えないとこれから先の生活をやっていけないと思うしな。依頼を受けようにも討伐依頼は避けられないし、絶対に血を浴びるようなことがあるだろう。
それに"一般的な服装"というものをまだ把握していないからな。いま着ている服装が目立っている……なんてことはなかったが、どうせなら此方の服装文化に合わせたほうが良いだろう。
――などとつらつら考えていると、家にたどり着いた。
いつもの如くベッドに腰掛け、串焼きとリゴの実を食べる。この時に使う魔法はバランス調節なんかの魔法自体の練習に使えるからこれからも続けていこうと思う。まぁ、毎回串焼きを買うことは無いだろうから場合によるがな。
この後は風呂に入って眠りにつくだけだ。この家には風呂がついていたのだが、魔火石と魔水石の2つともが必要だし、湧くまでに時間が掛かるから昨日は自分で生成したお湯で体を流しただけだった。
そういえば、お湯は魔法を使っている時に「温度調節できないか?」と思って試してみた時に成功したものだ。ただ、普通に水を出すときと比べて水の量が少なかった気がする。これも検証が必要だな。
今回はそれぞれの魔石を買ってきたから、思う存分風呂に入ることが出来る。「風呂は命の洗濯だ」と誰かが言っていたが全くその通りだ。温かい湯に浸かっているだけで体の芯から温まり、心が安らぐ。
そんなことを考えているうちに風呂が湧いたため、服を脱いで浴槽へと入る。最初に来た時に浴槽もしっかり清掃済みだ。最初こそ埃にまみれていて酷いものだったが掃除してみれば綺麗なものだった。――あぁ、心地いい。やはり風呂は良いな。
たっぷりと湯に浸かり、風呂で心と体を休めた俺は寝室に向かった。ベッドへと身を投げ、横になりながら今日という一日を振り返る。なんとも……濃密な一日だった。
試し切りと言いつつ森の奥へ行き、初めて……この手で人型の魔獣を殺した。それだけで精神的に疲れたのに、オーガの襲撃だ。そしてそれは、一歩間違えれば死ぬという命のやりとり。恐怖と焦りで生きた心地がしなかった。
だが、それも成長の糧となる。それには間違いない。
……そんな事を考えながら、次第に夜は更けていった。
――そして時は流れ、目覚めの朝。
窓を開け放ち、仄かに温かい陽の光と清々しい風をその身に浴びながら、手にした赤く瑞々しい果実を頬張る。シャク、シャクと咀嚼するたびに溢れだす果汁が、喉の渇きを潤すと同時にぼんやりとした頭をある程度目覚めさせた。
その後魔法で出した水で顔を洗い、後は自然乾燥に任せる。その間に眠気は無くなり、完全に意識が覚醒する、という寸法だ。完全に乾いたら次に剣をベルトへ差しギルドへと向かう。
朝だからであろうか、少々人が少ない中を通って掲示板へと向かう。見ると、いくつかの依頼書があったが昼間と比べて明らかに量が少なかった。取り敢えず二つの依頼を受けた後、俺はギルドを出る。
今回受けた一つ目の依頼は"庭の草刈り"だ。他の人にとっては「どうでもいいこと、なんとも思わないこと」だったとしても、依頼を出した当人にとっては「由々しき事態」だということもある。だからこそ、手伝いに関する依頼を俺は受けることにした。
――そんなこんなで住宅街の一件の家に辿り着く。
家の入り口にある鐘のようなものを鳴らすと、かなりお年を召した老夫婦が出迎えてくれる。そして依頼の受理をしたことを話すとひどく感謝された。
理由を聞いてみると……どうやらこの依頼を数回出したが、ついぞ自分の依頼を受理してくれる人が居なかったらしい。随分と年をとったから前は自分でしていた草刈りも思うようにできなくなってしまったが故に依頼を出したそうだ。息子に頼ろうにも別の国で夫婦水入らず過ごしているらしい。
取り敢えず依頼を達成しようとしたわけだが、老夫婦に許可をもらって魔法で刈る練習をさせて貰えることになった。というわけで「風」の魔法を使って草を刈ることにする。
まず、そこら辺に落ちている棒を拾いその先端に魔力を集中させる。身体強化の場合は腕などに集中させるが、棒にだって強化は出来るらしい。だから剣にも強化は出来るのだが、オーガ戦の時はそこまで頭が回っていなかったんだ。
ともかく、それを利用……とまではいかないが遠隔で何もない場所に刃を発生させるよりも棒で魔力の「通り道」を作ったほうが楽だという事を思いついたため、実行に移してみる。
手に持つ棒の先に高圧を掛けた風で刃を作り出すが……正直原理は分からない。アニメとか漫画で「ウィンドカッター」なるものがあるから「できるかな?」位の感覚でやってみたら成功してしまったものだ。
魔法名は『風刃』とでも言っておこう。そしてそれを回転させて草を刈るというものを創りだしてみた。イメージ的には手持ちの草刈機だな、あの先に刃が付いてるやつの、刃が半透明にっているのを想像してみればすぐに分かるだろう。
それを使って草刈りを始めたら、あの草刈機独自の石を巻き込んだ時とかに鳴る甲高い音が鳴ってお爺さんが外に出てきた。草刈りでそんな音が出ることがないから何かあったのかと不安になって見に来たそうだ。
一応どんな魔法かを見せてみると「発想が面白いのう」と朗らかに笑っていた。それに草刈りの時に漂うあの草の香りが懐かしいと言っていたな。昔は薬草などを使って薬を作っていたらしく、すりつぶした時などに漂う匂いと酷似しているそうだ。
ちなみに刈り終わった後の草は風で一ヶ所にまとめて炎で燃やした。
と、そんな感じで仕事を終えた俺は何故か老夫婦に茶をご馳走になっている。
「……はぁ、美味しい」
「おぉ、それは良かった。さぁさぁ遠慮なさらずに菓子も食べてくだされ」
「ではお言葉に甘えて」
「それにしても、茶が好きとは物好きな御仁じゃ。最近の若人は味が苦手だと言って飲まん人がおおくてのぅ……」
「確かにそうかもしれませんね。でも私はこの苦味が好きなんですよ」
「ほっほ、やはり面白い御仁じゃ」
――暫くはそんなことを話しながらゆっくりとしていた。
が、二つ目の依頼のためにも御暇させてもらうことにした。正直もう暫く居たい所だがそうも行かないからな。それに有用な話も聞けたしそれで満足だ。
その有用な情報というのは"薬草"についてだ。見た目や群生地などを教えてもらったため、それだけでも儲かったといえよう。今から向かう依頼にも関係していることだ。
確認を貰った書類をバッグにしまい、俺は門へと向かう。門番に挨拶して外に出た俺は森へと向かうのだが、再確認だ。俺がもう一つ受けた依頼は"採取"の依頼。初めての試みだが、これも避けては通れないものだ。
――さあ、いまから"薬草の採取"に向かおう。




