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異世界救世譚―差し伸べるは救いの手―  作者: 明月
シア、異世界に立てり
25/40

知識の吸収①



 ――あの後一度家に帰った俺は、再び外へ出て"ある場所"へ向かっていた。



 相変わらず商業区域は人で溢れているが、今はそれを気にせず只々目的の場所へと足を運ぶ。ただ、足を運ぶのが些か面倒に感じるのは気のせいではないだろう。別に「今は動きたくない」というほどの物ではないが、やはり多少の疲れは溜まっている。それなのに何故外を出歩いているのかというと……



 ――シュタルクに「家に帰ってゆっくりする」と言ったが、今は真昼間(・・・)だ。


 あの後帰宅してからというものの、椅子に腰掛けながら暫くぼんやりとしたり食事を取ったりしてのんびりと休息していたわけだが――いかんせん暇だった。本来であればこの時間帯は違う依頼を受けるなどしているはずだが、オーガが出てきたためそうも行かなくなったしな。


 ……別に依頼を受けてもいいのだが、正直この倦怠感では仕事をするというのが辛い。

 それなのに、こう……何かやらないと手持ち無沙汰で仕方ない状態に陥った。


 そこで、このまま家でのんびりするのも良いことだとは思うが、どうせ時間が余っているのなら何か別のことをしようと思い立ったわけだ。

 そのとき"暇な時間を使って何をしようか?" と考え、真っ先に思いついたことがあったため俺はその"目的の場所"に現在向かっている。行こう行こうとは言いつつも結局足を運んでいなかった場所だからいい機会だろう。







 歩いていると次第に見えてくる実に大きな建物。そしてその施設とは――


「――ここが『国立図書館』か。流石に大きいな」


 元の世界では"市"ごとに建設されているが、そもそもこの国に"市"というものが存在しない。あくまで"区域"という分け方のためわざわざ個別の図書館を建てることがないのだろう。それ故、本が一部に集まることになる。それがこの場所というわけだが、だからこそ俺が求めている"知識"というものが潤沢にあると思いこの場所へ赴くことに決めた。



 ……オーガの時も、金を手に入れた時も、魔法を覚えようとした時もそうだ。


 現在の俺には圧倒的に世界の情報(・・・・・)が足りない。むしろ元の世界との情報の相違、そして混濁(・・)こそが問題点となってしまう可能性がある。

 だからこその図書館だ。知識を混濁させること無く、しっかりと知識を吸収して整理をしておかないといつかボロが出るかもしれない。





――館内へ一歩踏み込むと、あたりの空気が一変した。 


 具体的に言うと、外と比べ明らかに涼しく感じるんだ。 確かに本を保存する時に外気を低温に保つというのは需要なことだが電気なんてものは存在していないだろう。魔法の類で温度の調整をしているのだろうがその仕組みがわからないな。

 そんな事を考えながら歩いているとカウンターの女性に呼び止められる。


「――あら? ちょっとそこの貴方」

「はい、何か?」

「あら、もしかして初利用かしら? 入館するときは此処で許可を得ないとだめよ?」

「え?! あー……すいません、知りませんでした」

「次からは気をつけないと駄目よ? ――じゃ、此方にいらっしゃい」



 ……言われた通りに女性の元に向かい、許可申請を行なった。


 出入国する際に行うカードの掲示と同じように女性は手元にある水晶のようなものに俺の身分証をかざす。やはりその読み取る原理は分からないな。

 そしてカードを返してもらった時に、女性は「もう一つ」と言いながら……


「――入館する際に銅貨一枚を預けて貰う必要があるんだけど……持ってるかしら?」

「まぁ持ってはいますけど……どうして必要なんです?」

「書籍を破損させた場合や汚した場合に本を賠償してもらうことになるんだけどその規則の同意証明になるのよ。まぁ破損させたりしなければ銅貨は帰ってくるわ」

「なるほど。じゃあ……これで」

「確かに預かったわ。それじゃあ入って良いわよ」

「では失礼します」

「えぇ、貴方に良き本との出会いがあらんことを……」





――やっと入館した訳だが、まず調べたのは周辺国の情報だ。



 結論から言うと、どうやら周辺国としては四カ国存在することが分かった。当たり前だがそれぞれの国の特色があり、その国特有の産出物が存在するようだ。まとめると――



一 『ゲミューゼ王国』……土地の養分が豊富で、農業や畜産業が盛ん。


ニ 『エルツ王国』……鉱石資源が豊富で、主に武器や防具などの生産が盛ん。


三 『メーア王国』……海に面しているため水産資源が豊富で、漁業が盛ん。


四 『マギー王国』……魔法に特化し、魔石や魔道具の生産が盛ん。



 ――そして俺が今居る『レスク王国』となるわけだ。


 どうやらレスク王国を中心として東西南北の四方に存在しているため、レスク王国はいわゆる"中継貿易"の形で賑わっているようだ。勿論個別に貿易も行なっている。それ故に文化水準が高めなのだろう。


「……土地に関してはこんな物でいいか。次は『歴史』だな」


 もしかすると――此方に転生した人間の記録が残ってるかもしれない。それに先人の情報は欲しいものの一つだし、無いとは思うが先人のメッセージなんてものが有るかもしれない。

 

 神様曰く、現在敵対国はなく平和な場所である。

 が、過去がどうであったかはよく知らない。だからこそ知る必要があるだろう。過去に争ったりした事があればそれが怨恨となってまた悲劇が起こる可能性だって十分にあるはずだ。



 ……結果、他国との争いはここ数百年間無いことが確認できた。

 しかし、あくまで"他国との争い"はないのであってそれ以外に詳しく知る必要があるものが出てきてしまった。それは、ギルドへ登録した際に聞いた「緊急依頼」に関したことなのだが、曰く数十年周期で大規模な魔獣や猛獣の大規模進行が発生するらしい。それについても調べてみた。


 そもそも「魔獣の大行進」というものが何かと言うと、今日倒したゴブリンやその他スライムのなどの"魔獣"が集結して国に迫ってくることで発生する国家の非常事態らしいな。

 その際にはただの"猛獣"が魔獣に追い立てられることで国へと向かい、被害が増える場合もあるらしい。それを食い止めて国を守るのが「国軍」と「ギルド構成員」な訳だ。




 ……国軍の存在は初めて聞いたな。名前の通り"国の軍隊"であろうか?


 まぁ、異世界なのだから軍があってもおかしくはないか。前の商業区域の一件でも荒くれ者を「治安隊」とやらに差し出した上、人間に対して敵対的な魔獣なんてものも存在するんだから軍が存在してもなんら不思議はない。


 だが軍隊がギルド員と共同で闘う姿があまり想像できない――と思っていたが、どちらかと言えば共同というよりも役割分担がなされているようだ。もちろん、国民からしたら「信頼度」は治安隊を含めた"軍隊"のほうが断然高い。


 故に、軍隊は国民から見える位置……城壁や門の周辺で守りを固め「前線から抜けて来た敵を殲滅する」ことや、怯えている人を安心させること。また物資の調達に徹するらしい。その物資はギルド構成員が受け取り前線で敵対勢力の殲滅を行う仕組みだ。



 要するに――軍隊は「バックアップ」を中心に、ギルド員は「敵勢力の殲滅」を中心として働くということだ。これがそれぞれに与えられた"指令"となっている。それを元にこれまでの魔獣の大行進を退けてきた訳だな。その記録が本に纏められていた。



……その中でも特に激戦だったのは――約二百年前の大進行だ。


 それは"記録"に残っており、またそれは"伝承"となった。それ以前の大進行やそれ以降の大進行と比べても、相当な規模の大きさだったことが書籍から伺える。そしてそこで起きた"奇跡"が共に描かれていた。その中の一節を記述しよう。


"

 ――暗雲垂れ込める中、我ら防衛軍勢は劣勢に立たされている。


 先陣を切るギルドの軍勢は魔獣へと進行するが、魔獣の数は減る様子を見せず。より一層数が増えゆき、我らがギルド軍を壊滅へと追いやってゆく。故に、国軍の出動も行い我らが混合軍を持って敵対勢力に立ち向かう運びとなった。


 ……されど、魔獣の進行は止まらず。


 我らは魔獣に押されその尊き命を散らすばかりであった。城壁により地面の魔獣が進入することは無かれども、空より飛来する影に対応を追われること数知れず。


 我らが軍の魔法を持って飛来する敵を殲滅し、地面へと蔓延る敵を殲滅す。しかし、いくら倒せどその数は殆どの減少を見せない。次第に我らは疲弊してゆく。……そして均衡が崩れ、魔獣が流れ込まんとする時――



 ――空より一筋の光が差し込んだ。

 その中心へ佇むは名も知らぬ人。その神々しき姿でもって我らが前に現れたのだ。然してその姿しか見ることは叶わずその顔は誰にも知られていない。後姿から、女性であろうということだけが分かった。



 その者、眩き光をその身に纏いて魔獣の元へ歩まん。

 ひとたび腕を振るえば、魔獣が光の奔流に飲まれその姿を跡形もなく消す。勇敢にも魔獣が彼の者へ飛びかかろうものならば、その纏いし光に触れた途端に跡形もなく消滅す。手を空に掲げると暗雲が瞬時に裂け空からは光が降り注ぎ、飛来する魔獣を消滅させていった。



 突如現れたその者の姿を見た人々曰く――


「神のご慈悲」 「神の使い」 「救いの神」


――そして、『彼の者は麗しき女神である・・・・・』と。


 魔獣はその姿を消してゆき、ついにその姿を見せなくなったが……彼の者も突如としてその姿を消してしまった。大きな損害はあったものの我が国に平穏が訪れたのだ。


                                       "



 以上が書籍の一節だ。他の大進行に関しても書かれているが、この部分だけはやけに強調して書かれている気がするな。それだけ当時は大変なものだったのだろう。……これが「奇跡」か。実にその名にふさわしい出来事だな。


 とすると、以前の大進行と照らしあわせていつ頃進行が起こるのか知る必要があるかもしれない。前の進行から時間が経っているのなら尚更だ。これは後に確認しよう。


 そもそも、何故魔獣が発生するのかに関しては諸説あるが、魔獣を倒した時に発生する魔素が森に吸収されていき、限界に達するとそこから単体の魔獣が発生するらしい。それが積み重なり、魔素がどんどん濃くなっていくことで多くの魔獣が発生する。


 大行進の際は森などから出て平原での戦いになるため、魔素が吸収されずに霧散する上、光で浄化されるとのことだ。専門家の意見であろうが……正しいことは判らないな。



 ――そんなことを考えていると、後ろから何者かが近づいてきた。その主は……さっきの受付か?


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