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異世界救世譚―差し伸べるは救いの手―  作者: 明月
シア、異世界に立てり
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武器と力の片鱗


 ――シュタルク達と別れ、自宅へと歩みを進める。

 その際に商業区域を通って家へと向かうが、辺りはもう薄暗くなってきているため人通りは極端に少なくなっていた。


 帰宅の道中、前のように裏路地で女性が――何てことは無く、至って普通に家へとたどり着いた。鍵を開けて家へと入ると寝室へと向かい、そのままベッドに腰掛ける。一息つくと同時に空腹感に襲われたため、取り敢えず店で買ったリゴの実と屋台の串焼きをバッグから取り出した。


 ……串焼きがまだ少し温かいな。どうやらバック内の時間が完全に止まる、なんてことは無く、少々時間の流れが遅くなる程度のようだ。少し残念だとは思うが物事そんなに上手く行かないと思って諦めることにしよう。便利なバックであることに変わりはないしな。


 まずは串焼きだが、魔法が使えるんだし食べる前にちょっと温め直す事にしよう。魔法はイメージだと本にも書いてあったし何とかなると思う。


「魔法名は……適当でいいか。――よし、『種火』!」



 ――魔法名を発した瞬間、いつも通り掌から靄が出てくる。それが収束すると、たちまちのうちに掌から炎が現れた。オレンジ色の炎だから温度はそこまで高く無いか?


 適度に肉を炙っているとタレの匂いが鼻腔をくすぐり、空腹感を加速させる。耐えられずに齧り付くと、相変わらずの旨さに俺は舌鼓を打つばかりだった。

 串焼きを食べ終わると次にリゴの実に手を伸ばす。取り敢えず一口かじってみたが、少々酸味が強いと感じただけで元の世界の林檎と大差はないようだ。肉を食べた後だから余計に口の中がさっぱりした気がする。


 ……さて、食事も済んだしそろそろ寝よう。少し早いとは思うが明日の約束もあるし、何にしろ疲れてしまったからな。思えばスライムを倒したり、全力で治療したりと一日でいろんな事をやったな。

 ただ、これは嫌な疲れではない。むしろ心地よい疲れとでも言おうか? 充実感とともに来る疲労だ。そんな事を思いながらベッドへ横になると、次第に意識は遠くなって行った。





 ――翌朝、目が覚めた俺は窓を開け放つ。疲れは消え去り実に清々しい気分だ。


 新鮮な空気が部屋に入ってくるのを感じながら、朝食代わりにリゴの実を齧る。空気といい口の中といい、実に爽やかだな。

 食事を終えた俺は今日やることを思い出す。シュタルクと武器を買いに行く予定なのだが、そこで一つの問題が生じた。

 昼頃に集合とは言ったが、今の時間すらわからないということだ。今が朝なのは確かなのだが正確に何時かということがわからない。一応室内に時計はあったが動作は既に停止しているため意味を成さないことは明白だ。


 色々と思考していると、あることを思い出す。"ギルド内には時計が設置されていた"、ということだ。どうせ昼まで時間があるのだし、適当に依頼でも受けて時間を潰そうかな。……よし、そうと決まれば行動開始だ。


 ――ギルド前へと赴くと、何故かそこにはシュタルクの姿があった。背中には何やら大きな武器を背負っており、その立ち姿は歴戦の勇士の風貌を醸し出している。


「お? シアじゃねえか。何でこんな時間に来たんだ? 約束は昼のはずだろう?」

「シュタルクも人のこと言えないだろ。俺は昼まで暇だから依頼を受けに来たんだよ」

「シアも考えることは同じか! 俺も暇だから適当に受けようかと思ったんだが……どうせだならこのまま武器買いに行くか?」

「それでいいなら行きたいな。購入後に試し切りもしたいと思ってたから好都合だ」

「……俺も試し切りに付いて行っていいか? 怪我でしばらく動けなかったから体が鈍っちまったんだよ」

「おう、シュタルクなら大歓迎だ。それにかなり強そうだしな」

「そりゃあどうも。……試し切りのためにもそろそろ買いに行くか?」

「あぁ、道案内頼む」



 ――シュタルクに付いて行きながら、背中に背負っている武器について聞いてみた。武器種は"ハルバード"らしい。名前くらいは聞いたことがあるが、武器に詳しい訳じゃないから実物を見るのは初めてだ。

 シュタルクは「昔からこの武器を使うのが憧れだったんだぜ」と言っていた。どうやら武器の中でも扱いが難しいらしい。何年も鍛錬して扱えるようになったと誇らしげに話してくれた。


 ……シュタルク曰く、最初はショートソードを使うのが無難らしい。扱いも簡単だから初心者におすすめ、だそうだ。なら俺も取り敢えずはショートソードを使おう。それに慣れたら新しい種類の武器を新調するか?



 ――店の場所はギルドの近くだった。きっと近場で武器を新調して依頼へ向かうために配慮されているのだろう。数店の武器屋のうちの一件に辿り着くと、シュタルクが徐ろに扉を開き、誰かの名を呼び始める。店主の名だろうか?


「アイゼン! 今居るか?」

「はい、お呼びになりま――シュタルク殿?! ご無沙汰しております!」

「あぁ、久しぶりだな。どうだ、元気にやってるか?」

「えぇ、お陰さまで。――そちらの方はどちら様で?」

「あぁ、シアには少し世話になってな。お礼に武器を買いに来た」

「畏まりました、シア様ですね。――武器種は如何なさいますか?」

「取り敢えずショートソードを一本頼む。シアは初心者らしいからな」

「承知いたしました。――それでは此方へどうぞ」


 ……そう言って店内の一区画へと案内された。そこには数本の長さの異なった剣が置いてあり、各人の好みで長さを選べるようになっているようだ。それに武器の重さも考慮せねばならないだろう。


「さてシア、とりあえずこれを持ってみろ」

「おう。――あれ?」


 とりあえず渡された武器を持ち上げてみたはいいが、とにかく軽い。むしろ軽すぎるくらいだ。こう、持った感じがしないというか、なんというか……


「――どうだ? シアに合いそうなのを選んだつもりなんだが」

「軽すぎるな。もっと重いほうがいい」

「……軽すぎる? 見たところそんなに筋肉もないし丁度いいくらいだと思うんだが。――それならこっちはどうだ? 」



 そう言ってシュタルクが差し出してきたのは、俺が手に持っているものよりも大振りな剣。今持っている剣を一度棚に置き、シュタルクから剣を受け取る。……相変わらず軽いが、前のよりかはマシだな。


「……まだ軽いな。さっきのよりはマシだが」

「マジかよ。――それじゃあコレならどうだ?」


 シュタルクから受け取り、また剣を持ち替える。――今度は納得がいく重さだな。反応だけ見ると俺が可笑しいのだろうか?


「おぉ、まだちょっと軽いがいい重さだ。これくらいがいいな」

「……そうか。これ以上の重さだとロングソードになる所だったが、シアならロングソードでもいけそうに思えるぜ」

「はは、初心者ならショートソードなんだろ? 基本が大事なんだからコレでいいよ」

「それなら良いんだがな……アイゼン、コイツをくれ」

「畏まりました」



 ――その後、武器屋の裏で軽く素振りをしてみたが、全然問題はなかった。剣を扱う上での使いやすさというのが重要だから素振りは必須、とのことだ。そのまま購入したが、シュタルクに突然こんなことを言われる。


「ちなみに……その剣を全力で振ったらどのくらいの速さなんだ? 軽いって言うなら剣を振る速度は速いと思うんだが」

「分からんな。とりあえずやってみるか?」

「おう。見させてもらうぜ」

「じゃあやるぞ。 ――疾ッ!」


 全力の一閃。刀を使う時のような踏み込みながらの一閃は自分で思うよりもかなり鋭いものだった。これはかなりいい線いってるんじゃないか?


 ふとシュタルクとアイゼンさんを見ると、二人して呆けた顔をしていた。何故そんな顔をしているのか分からず困惑していると、引きつった顔で――


「シア、お前マジで何者だよ……剣筋が全く見えなかったぞ?!」

「魔法の併用はしてないしまだ本当の全力じゃないんだが……」

「……これ私の作った剣が保つかな?」

「あ、あはは……大事に使わせてもらいます」



 とりあえず武器の購入が終わったため、アイゼンさんにお礼を言ってシュタルクとギルドへ向かう。アイゼンさんに「これからもご贔屓に」と言われたが、その顔は少し引きつっていた。……多分お世話になるだろうな、すぐに壊しそうだし。


 ――その後、シュタルクとともにギルドへ向かう。試し切りとのことだが、受けた依頼は『ゴブリンの狩猟』だ。いよいよ異世界らしくなったが、正直不安だ。

 ……何かを救うのではなく、己自身で命を奪う行為がなんと恐ろしいことか。そんな事を考えながら、シュタルクの後ろに付いて行く。



 ――今回は今まで以上に気を引き締めていこう。


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