家族の笑顔、そして約束
二人が涙を流しつつ熱い抱擁を交わしていると、ドタドタと何者かが走ってくる音が聞こえた。まぁこの状況で走ってくる人間なんて――
「――お父さん、お母さんどうしたの?! お父さんの怪我は?!」
「あぁ……ライン? 父さんの怪我はちゃんと治ったよ。治ったんだよ……」
「じゃあ、また一緒に買い物に行ける? 剣の稽古もできるの!?」
「ああ! ラインと一緒にまたいろんな事を出来るんだよ!」
「よかった……よがっだぁぁぁぁ!」
今度は三人で泣き始める家族。だがその表情は前とはまったく違う。優しい笑みに満ち溢れ、しっかりと子共をその胸に抱いた父親と母親の姿があった。なんと微笑ましい光景なのだろうか。思わず俺も熱いものがこみ上げて――
「ははっ、なんでシアまで泣いてるんだよ。治してくれたのはお前だろ?」
「いや、ちょっと昔のことを思い出してしまって……」
――そう、俺は水野のことを思い出していた。
勿論シュタルクの場合は怪我で、水野は病気だったから状況は違うだろう。だが今の俺は治すための力を手に入れた。回復魔法とは別物だと本には書いてあったが、おそらく病気すらも治せるだろう。もう無力だったあの頃とは違う。だからこそ――悔しい。
「昔シアに何があったのかは俺には知り得ない話だ。だが、今俺を救ってくれたのは確かなことだ。……本当にありがとうな」
「夫を治してもらい、なんとお礼を言ったら……」
「お兄ちゃんありがとう!」
三人からはそれぞれの感謝の言葉。俺が返す言葉はたった一つ――
「いえいえ。私もちゃんと怪我を治すことが出来て良かった」
そう、本当に良かった。やはり感謝の言葉というのは気持ちが良いものだ。勿論、感謝の言葉を求めて人を救っているわけではないがな。
「――もう諦めかけてた俺を治してもらったんだ。シアには何か恩返ししないとな」
「いえ、お気遣いなく。私が勝手に治させてくれと頼んだんですから。ただ……」
「ただ?」
「もし怪我のことを聞かれた際に私の名前を出さないで頂きたいんです」
「あぁ、分かった。あれだけの魔法を使えるんだ、バレたら面倒なんだろ?」
「えぇ。まぁそんなところです」
「元よりそのつもりだ。でもそれだけじゃあ俺が納得できん」
シュタルクが何やら考え込んでいる中、リーベさんが俺の腰のあたりを凝視している。視線の先は……俺のナイフ? 流石に屋内では携帯せずに鞄の中へしまったほうが良かったか? 今更気づいたが家の中で武器を携帯するのは配慮が足らなかったな。
「……シアさんはギルドに登録しているんですか?」
「えぇ。まだ入ったばかりですが」
「えっと……そのナイフしか得物が見当たらないのですが、主武器はお持ちで?」
「主武器? 持っているのはこのナイフだけですが?」
「……シュタルク、ちょっと良いかしら?」
「おう。なんだ?」
リーベさんが何やらシュタルクに耳打ちをする。流石に俺の耳でもあれだけ小さい声では聞き取れないな。別に聞こうとも思わないが。そんなことを思っているとシュタルクが頷き、再度こちらに話しかけてくる。
「良し分かった。シア、ギルド員ならせめて主武器の一つは持ってないとこれから先色々とつらいだろう。てことで俺が武器を一つ買ってやる」
「武器……ですか? でも、武器って高価なものじゃ?」
「何言ってんだ。俺にしてくれたことに比べりゃ安いもんさ! それにいい店を知ってるからな!」
……正直なところ武器のことは今まで考えてなかった。魔法があるからそっちで代用しようかとは思っていたが、もしかすると魔法が効かない敵が現れるかもしれないしな。用心するに越したことはない。
「……それならお願いします」
「おうよ! あとその口調は何とかならねぇか? 治療したときみたいにもっと気楽に話そうぜ」
「わかりま……分かった。じゃあそうさせてもらう」
「おうよ。それじゃあ今から、と言いたい所だがもう外も暗くなって来ちまってるし今日は無理だな。シアは明日暇か?」
「あぁ、特にすることもない」
「よし分かった、じゃあ明日もう一度会おう。場所は……ギルドの前に昼頃に集合で良いか?」
「わかった。じゃあまた明日会おう」
……家から出るとラインが「お兄ちゃんありがと~!」と言って手を振ってきたため俺も振り返す。ラインの後ろに立っているシュタルクとリーベさんも、会った時と違い実に晴れやかな表情だ。
俺はその笑顔と満足感を背に帰路へと着いた。明日が本当に楽しみだ――




