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異世界救世譚―差し伸べるは救いの手―  作者: 明月
シア、異世界に立てり
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神の与え給うた力


 ――手を引かれるままに男の子についていくと、住宅街の一区画へと辿り着く。


 どうやらこの付近に男の子の家があるらしい。相変わらず同じような形の家が連立しているな。こう……都会の一風景を思い出す。流石に高層住宅はないがな。


 ――家はすぐに見つかった。周りに建設されている家と比べ遜色ないが、所々ガラスが割れてたり塗装が剥げているようだ。


「ここがぼくの家だよ! すぐにお母さん呼んでくるからまってて!」


 そう言うやいなや、男の子が家の中に走っていった。少しだけ待つと男の子が母親らしき女性の手を引いてこちらに走ってきたが、あまり手を引いたまま急いで走るのは辞めたほうがいいな少年よ。母親が転びそうになっているじゃないか。


 それはさておき、連れてこられた女性はかなり混乱している様子が見て取れる。恐らく男の子は事の顛末や俺のことをくわしく話していないのだろう。俺に対して警戒の色すら浮かんでいるようにも見える。

 ……そりゃあ突然手を引かれ連れ出されたと思いきや知らない男に対面したのだから、その反応にも頷ける。むしろこのような反応でないないほうが問題では無いだろうか?


 このままでは埒が明かないな。こっちから話しかけよう。



「――はじめまして。突然の訪問失礼致します」

「え、えぇ。はじめまして。……何のご用件でしょうか?」

「お宅の息子さんから旦那さんが怪我をしたとお聞きした際、治療ができればと思い立ったんですよ。回復魔法に関しては心得があるものでしてね」

「ほ、本当ですか?! それはありがたいです!」

「ただ使ったこ……前に使った以来長らく使用していないもので、成功するか未知数なんですよ」

「……それでも、夫が治る可能性があるなら。是非お願いします!」

「わかりました。全力で治療しましょう」


 急かすような男の子とその母親の後に続き、家の一室に辿り着いた。仄かに血の匂いがするのは怪我のせいだろうか? こっちに来た際に嗅覚まで強化された気がする。


「お母さんこの人とお話したいから"ライン"はお茶でも持ってきてくれない? 何処に仕舞ったか忘れちゃったから探してくれると嬉しいな」


 どうやら男の子は"ライン"という名前のようだ。ラインは「うん! 探してくるね!」と言いながら歩いて行った。子供には見せたくないものが有るのだろうか?


 ――部屋の中では一人の男がベッドに横になっていた。右足に巻いてある包帯には血が滲み、怪我の酷さがよく分かる。それに……足が途中から無かった。俺に気付いた男が不思議そうに話しかけてくる。


「誰だ? 知らない顔だな」

「あー……まだ名乗ってなかったか。私はシアといいます。多少回復魔法の心得があるので、貴方の治療を行いたいと思ったんです」

「アンタは治療院の人間じゃないのか?」

「えぇ。治療の心得があるただの一般人です」

「……なら良いんだ。俺はあまり治療院の人間を信用してねぇからな」

「ん? 治療院は信用に値しないと?」


一呼吸の間もおかず、男は烈火のごとく怒りを表した。わなわなと身を震わせ、血を吐くような憎悪と憤怒に空気が震え、ピリピリと幻痛が走る程に。


「あぁそうだよ! どいつもこいつも自分が偉いなんていう考えに驕って患者から金をむしり取っていく。弱者を救うのが治療院の役目じゃないのか?! あのクソッタレな金の亡者共が!!」

「お、落ち着いて下さい! 」


 少しの間宥めながら待っていると、やっと男は落ち着いた。俺が質問したことで気を悪くしてしまったと思い少し申し訳なくなる。


「……すまない、取り乱してしまった。まぁそういうわけで俺は治療院を信用していない。昔の友のことを思い出してしまってな」

「治療院はそんなに酷いのか……」

「おっと、まだ俺の名前を言って無かったな。俺は――」



 聞いた話によると、男の名前は"シュタルク"と言うらしい。妻は"リーベ"さん。

 一緒に狩りに行った友人がひどいケガを負った際に、治療院が巨額の治療費を請求したのにも関わらず、怪我を治しきれずに命を落としたことが治療院を嫌うようになった理由とのことだ。

 一応金は帰ってきたが治療費として半分以上が持って行かれたらしい。そう話すシュタルクの目には涙が浮かび、体は小刻みに震えている。


「だからよぉ……俺は悔しいんだ。友を守れなかった自分が。それなのに突っ走って俺が怪我して妻にも迷惑かけて……」

「……」

「――シア。お前は俺を治せるのか?」

「……わからない。でもやれるだけはやろうと思う」

「まぁ、治してくれるんなら表面の傷だけでも治してくれればいい。無くなっちまったもんは仕方ないさ、誰にも治せんよ」


 そう言いながら包帯を外すが、その下は傷だらけで酷いものだった。治療してあるのかどうかも疑わしいような簡素なモノ。きっとそのまま何もしなくても痛いのだろうと思わせるような生々しい傷に思わず俺は顔を顰めてしまう。


「ははっ、酷いもんだろ? これじゃあ子供に見せられねぇ。どうだシア、これを治せると思うか?」

 

 ――愚問だ。

「舐めるなよ? 俺は人を救うために命を投げ打ってここまで来たんだ。シュタルクさん、これくらいの傷すぐに直してやるよ」


 刹那的に俺は周囲の魔素をすべて使い切るつもりで取り込む。普通に使おうとしても多分発動はしないだろう。俺の限界、出来得る限りすべてをかけるつもりで腕に集中した。

 俺が求めたのは絶対的な癒やしの力。救済のために求め、神が俺にくれた力だ。

今使ってる右手だけでは足りない、両手に力を集中させる。


 ――現れたのは光。

 今までの半透明の靄なんかじゃない、圧倒的な光が手から溢れ出て室内を満たしていく。


「シア、お前本当に俺を……」

「――俺を舐めるなと言ったろう? 」


 溢れ出る光は収束し、俺の手を纏っていく。次に綴るは魔法名――


「――『リザレクション』」


纏う光は男の脚へと吸い込まれ、瞬時に脚が輝き始める。光が消えた時、男の脚は完全に治っていた。失敗など、ミス等微塵もない。傷一つ無く完全にだ。俺は目を見開いているシュタルクとリーベを見ながら言ってやった。


「言ったろ? 俺を舐めるなって」


 ――二人はお互い抱き合い、ひたすらに涙を流していた。


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