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NINE GRID ―ナイン・グリッド―  作者: asnt2026


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第4話 六人

扉を開けるまでに、ずいぶん時間がかかった気がした。


実際には数秒だったかもしれない。


外にいたのは三人。


最初に目に入ったのは、大柄な男だった。


五十代くらい。


短く刈った髪。


立ち方が妙にまっすぐだった。


その後ろに若い女性。


もう一人は、小柄な老人。


老人と言っても六十代くらいだろう。


三人とも腕に白いバンド。


大柄な男が両手を見せた。


「武器は持ってない」


蒼真はバールを持ったままだった。


航平もナイフを隠さない。


少し嫌な空気。


最初にそれを崩したのは老人だった。


「まあまあ。殺し合うには早いだろ」


笑った。


誰も笑わない。


老人は肩をすくめた。


「大庭宗一郎」


手首には、


E-11。


大柄な男。


「榊原礼司」


E-02。


若い女性。


「片瀬朱里です」


E-08。


これで六人。


小屋へ入った。


簡単に状況を共有する。


彼らも別の場所で目覚めた。


互いに近い位置だった。


最初は四人いた。


「一人は?」


澪が聞いた。


朱里が目を伏せた。


榊原が代わりに答える。


「死んだ」


その言葉が小屋の中へ落ちた。


「ロボット?」


蒼真。


榊原は頷く。


「壁の方へ走った」


「壁?」


「見たの?」


朱里が言った。


「あっちにあります。かなり遠いですけど……大きい壁」


彼女が指差す方向は、蒼真たちが来た側とは違う。


「高さは?」


「分かりません。少なくとも普通のフェンスじゃないです」


「で、その人は?」


航平。


朱里が唇を噛んだ。


「ロボットからは逃げ切ったんです」


「じゃあ何で」


朱里の目が揺れた。


「上から来ました」


「上?」


「小さいのが」


ドローン。


という単語を、彼女は少し遅れて口にした。


「音がして。気づいたときには……」


それ以上言わなかった。


二人目の犠牲者。


蒼真は水を飲んだ。


味がしなかった。


逃げても。


壁へ向かっても。


別の機械がいる。


「囲われてるってことか」


航平が言う。


榊原が答える。


「まだ分からん」


「でも壁あるんだろ」


「一方向だけだ」


「三方向にもあったら?」


榊原は航平を見た。


「確認する」


「外出んの?」


「ここにいれば安全だと思う理由があるのか」


航平が黙った。


正論だった。


ただ。


榊原の言い方には、妙な慣れを感じた。


「榊原さん、こういうの慣れてるんですか」


澪が聞いた。


一瞬。


榊原の表情が固まった。


「警備員をやっていた」


それだけ。


蒼真は何も言わなかった。


嘘かどうか判断する材料がない。


大庭がバールを持ち上げた。


「これも最初から?」


「そうです」


蒼真。


老人はバールの重さを確かめるように振る。


「ふうん」


「何か?」


「いや」


大庭は笑った。


「機械を壊すなら、こんなんじゃ足りんと思ってな」


冗談にも聞こえなかった。


「壊すつもり?」


航平。


「向こうが殺しにくるなら、逃げ続けるにも限界あるだろ」


「相手ロボットだぞ」


「だからだよ。機械なら壊れる」


大庭は当たり前のことのように言った。


その横で朱里が懐中電灯を分解している。


「何してるんですか」


澪。


「見てるだけ」


「何を?」


朱里は電池部分を指で触った。


「これ、かなり新しい」


「懐中電灯が?」


「外側は古いけど、中の回路は新しいです」


航平が笑う。


「何それ」


「だから変なんです」


朱里は顔を上げた。


「わざと古く見せてるみたい」


蒼真は小屋を見る。


錆。


汚れ。


古い机。


古い棚。


そして。


中身だけ新品に近い救急箱。


水。


保存食。


「誰かが作った舞台みたいだな」


航平が呟いた。


誰も否定できなかった。


そのとき。


遠くから。


ガガガガガ。


全員の顔が変わった。


榊原が立ち上がる。


「来た」


「何で分かる」


「音が近い」


「逃げる?」


朱里。


榊原は窓から外を見る。


「六人なら、少し様子を見られる」


「戦う気かよ」


航平。


「違う。観察する」


榊原の言葉に蒼真は違和感を覚えた。


怖くないのか。


いや。


怖くない人間なんているはずがない。


榊原の右手。


わずかに震えていた。


そのことに気づいたとき、少しだけ彼が普通の人間に見えた。


六人は小屋の裏から林へ移動した。


ロボットが現れる。


同じ型。


キャタピラー。


武装。


蒼真たちが最初に見たものと似ている。


機体は小屋の前まで来た。


止まる。


周囲を見回す。


大庭が小声で言った。


「遅いな」


「何が?」


「首振る速度」


上半身の旋回。


確かに遅い。


朱里も見ている。


「もっと速くできそうなのに」


蒼真は二人を見る。


「どういう意味?」


「見た目に対して動きが鈍すぎる」


朱里。


「こんなの作れる技術があるなら、あの速度は変です」


ロボットがこちらを向く。


六人が息を止めた。


しかし。


何も起きない。


数秒後。


機体は逆方向を向いた。


見つからなかった。


少しずつ離れていく。


大庭が呟く。


「目も悪い」


朱里。


「違うかも」


「何が」


「悪いんじゃなくて」


彼女はロボットを見つめていた。


「……悪くしてある、とか」


その言葉だけが。


妙に耳に残った。

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