第4話 六人
扉を開けるまでに、ずいぶん時間がかかった気がした。
実際には数秒だったかもしれない。
外にいたのは三人。
最初に目に入ったのは、大柄な男だった。
五十代くらい。
短く刈った髪。
立ち方が妙にまっすぐだった。
その後ろに若い女性。
もう一人は、小柄な老人。
老人と言っても六十代くらいだろう。
三人とも腕に白いバンド。
大柄な男が両手を見せた。
「武器は持ってない」
蒼真はバールを持ったままだった。
航平もナイフを隠さない。
少し嫌な空気。
最初にそれを崩したのは老人だった。
「まあまあ。殺し合うには早いだろ」
笑った。
誰も笑わない。
老人は肩をすくめた。
「大庭宗一郎」
手首には、
E-11。
大柄な男。
「榊原礼司」
E-02。
若い女性。
「片瀬朱里です」
E-08。
これで六人。
小屋へ入った。
簡単に状況を共有する。
彼らも別の場所で目覚めた。
互いに近い位置だった。
最初は四人いた。
「一人は?」
澪が聞いた。
朱里が目を伏せた。
榊原が代わりに答える。
「死んだ」
その言葉が小屋の中へ落ちた。
「ロボット?」
蒼真。
榊原は頷く。
「壁の方へ走った」
「壁?」
「見たの?」
朱里が言った。
「あっちにあります。かなり遠いですけど……大きい壁」
彼女が指差す方向は、蒼真たちが来た側とは違う。
「高さは?」
「分かりません。少なくとも普通のフェンスじゃないです」
「で、その人は?」
航平。
朱里が唇を噛んだ。
「ロボットからは逃げ切ったんです」
「じゃあ何で」
朱里の目が揺れた。
「上から来ました」
「上?」
「小さいのが」
ドローン。
という単語を、彼女は少し遅れて口にした。
「音がして。気づいたときには……」
それ以上言わなかった。
二人目の犠牲者。
蒼真は水を飲んだ。
味がしなかった。
逃げても。
壁へ向かっても。
別の機械がいる。
「囲われてるってことか」
航平が言う。
榊原が答える。
「まだ分からん」
「でも壁あるんだろ」
「一方向だけだ」
「三方向にもあったら?」
榊原は航平を見た。
「確認する」
「外出んの?」
「ここにいれば安全だと思う理由があるのか」
航平が黙った。
正論だった。
ただ。
榊原の言い方には、妙な慣れを感じた。
「榊原さん、こういうの慣れてるんですか」
澪が聞いた。
一瞬。
榊原の表情が固まった。
「警備員をやっていた」
それだけ。
蒼真は何も言わなかった。
嘘かどうか判断する材料がない。
大庭がバールを持ち上げた。
「これも最初から?」
「そうです」
蒼真。
老人はバールの重さを確かめるように振る。
「ふうん」
「何か?」
「いや」
大庭は笑った。
「機械を壊すなら、こんなんじゃ足りんと思ってな」
冗談にも聞こえなかった。
「壊すつもり?」
航平。
「向こうが殺しにくるなら、逃げ続けるにも限界あるだろ」
「相手ロボットだぞ」
「だからだよ。機械なら壊れる」
大庭は当たり前のことのように言った。
その横で朱里が懐中電灯を分解している。
「何してるんですか」
澪。
「見てるだけ」
「何を?」
朱里は電池部分を指で触った。
「これ、かなり新しい」
「懐中電灯が?」
「外側は古いけど、中の回路は新しいです」
航平が笑う。
「何それ」
「だから変なんです」
朱里は顔を上げた。
「わざと古く見せてるみたい」
蒼真は小屋を見る。
錆。
汚れ。
古い机。
古い棚。
そして。
中身だけ新品に近い救急箱。
水。
保存食。
「誰かが作った舞台みたいだな」
航平が呟いた。
誰も否定できなかった。
そのとき。
遠くから。
ガガガガガ。
全員の顔が変わった。
榊原が立ち上がる。
「来た」
「何で分かる」
「音が近い」
「逃げる?」
朱里。
榊原は窓から外を見る。
「六人なら、少し様子を見られる」
「戦う気かよ」
航平。
「違う。観察する」
榊原の言葉に蒼真は違和感を覚えた。
怖くないのか。
いや。
怖くない人間なんているはずがない。
榊原の右手。
わずかに震えていた。
そのことに気づいたとき、少しだけ彼が普通の人間に見えた。
六人は小屋の裏から林へ移動した。
ロボットが現れる。
同じ型。
キャタピラー。
武装。
蒼真たちが最初に見たものと似ている。
機体は小屋の前まで来た。
止まる。
周囲を見回す。
大庭が小声で言った。
「遅いな」
「何が?」
「首振る速度」
上半身の旋回。
確かに遅い。
朱里も見ている。
「もっと速くできそうなのに」
蒼真は二人を見る。
「どういう意味?」
「見た目に対して動きが鈍すぎる」
朱里。
「こんなの作れる技術があるなら、あの速度は変です」
ロボットがこちらを向く。
六人が息を止めた。
しかし。
何も起きない。
数秒後。
機体は逆方向を向いた。
見つからなかった。
少しずつ離れていく。
大庭が呟く。
「目も悪い」
朱里。
「違うかも」
「何が」
「悪いんじゃなくて」
彼女はロボットを見つめていた。
「……悪くしてある、とか」
その言葉だけが。
妙に耳に残った。




