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バンッ……ッ!!
バルコニーの重厚な扉が激しく叩きつけられるように開かれ、鋭い閃光が夜風を切り裂いた。
「シオンに気やすく触れるな、リシェイン……ッ!!」
リオンの激昂とともに放たれた銀の長剣が、月光を反射して冷たい刃音を響かせる。
光の衝撃波で態勢を崩していたリシェインとの間にすばやく割り込むと、リオンはその身を挺して詩織を完璧に背後へ庇い隠した。
夜会用の洗練された正装越しにも伝わってくる、リオンの荒い呼吸と怒りに跳ね上がる激しい鼓動。
彼の金色の瞳は嫉妬と激情で燃え上がり、剣先を迷いなくリシェインの胸元へと突きつけていた。
「……相変わらず容赦がないな、兄上」
リシェインはバルコニーの手すりからゆっくりと身体を離し、乱れた漆黒の礼服を優雅に整えた。
口元には冷ややかな笑みを浮かべているものの、その黒い瞳の奥には、シオンの持つ聖なる光を受け止めきれず、自身の闇が弾かれてしまったことに対する切ない屈辱が揺らめいている。
「シオンを光の表舞台に連れ去り、私から遠ざけたあげく、剣まで向けるのか。……王国の『誇り高き第一王子』が形無しだな」
「黙れ。俺はお前がシオンにどんな歪んだ執着を抱いていようと関係ない。……俺の命がある限り、シオンの髪一筋さえお前に触れさせはしない!」
リオンが一歩踏み込み、刃先をさらに押し込む。
バルコニーを包む静寂の中、触れれば切れるような緊張感が二人を支配した。
「リオン……待って……!」
詩織は痺れるような手首を押さえながら、リオンの背中にそっと手を重ねた。
「お願いです、剣を引いてください……。私の痣が光ったのは、リシェインが危害を加えようとしたからじゃありません。……私が、彼の抱える孤独を想って、手を差し伸べようとしたからです」
「……っ!?」
リオンが息をのんで振り返る。
その金色の瞳に、動揺と嫉妬の色が強く走った。
「シオン……きみは、あいつを庇うのか……? 俺以外の男を……受け入れようとしたのか……!?」
「違います! 私が愛しているのは、後にも先にもリオン、あなただけです! だからこそ……前世と同じように争って、誰かが傷つくのを見たくないんです……!」
詩織の必死な言葉に、リオンの胸が激しく上下する。
リシェインはその二人の交錯する視線を冷たく見つめていたが、やがて静かに背を向けた。
「……フッ、興が削がれたよ。今日のところは退くとしよう。だがシオン……きみがいくら兄上を選ぼうと、私たちが囚われた前世の呪縛からは逃れられない。……また逢おう」
リシェインが暗がりへと歩みを進めると、彼の身体が黒い影のように夜の闇へ溶けて消えていった。
◇
大広間の喧騒を抜け出し、辿り着いたのは城の奥深くに位置するリオンの自室。
重厚な木製の扉が閉ざされ、錠が下りた瞬間──リオンは耐えかねたように詩織を抱きすくめた。
「あっ……ん……っ」
背中の扉へと押し付けられる身体。
リオンは正装の上着を床へ投げ捨てると、詩織の華奢な腰と背中に回した腕に、壊さんばかりの強い力を込めた。
「離さない……絶対にきみを……あいつのもとへなんて行かせない……っ!」
首筋に吹きつける、灼熱のように熱い吐息。
薄いドレス越しに伝わるリオンの体温はやけどしそうなほど熱く、彼の大きな手が詩織の髪を優しく、けれど乱暴にかき乱す。
「嫉妬で正気が保てなかった……! きみがあいつの悲しみに寄り添い、あいつのために涙を流すのを見て……胸が引きちぎられそうだったんだ。……私を見てくれ、シオン。俺だけを……!」
普段は凛々しく過保護な騎士である彼が見せる、あまりにも無防備で激しい独占欲。
その切実な愛の重さに心が震え、詩織は自分から彼の首へと腕を回した。
「リオン……。私の体も、心も、魂も……全部あなたのものです。私が寄り添おうとしたのは、あなたと一緒に現代の未来へ帰るため……。私の愛する人は、世界で天ヶ瀬涼……リオン、あなただけです」
「シオン……ッ……!」
耐えきれなくなったように、リオンの唇が詩織の唇を塞いだ。
「ん……ぁ……っ」
深く、熱く、互いの存在を確かめ合うような濃厚な口づけ。
リオンの舌が詩織の口内を優しくすくい上げ、絡み合うたびに熱い体温が体中を駆け巡っていく。
彼の指先が詩織の背筋を撫であげ、耳元や首筋へと甘く激しい唇の痕を刻んでいく。
「はっ……ん……リオン……っ」
息が絶えだえになるほどの熱量に身を任せ、互いの鼓動を重ね合わせていた、その時だった。
ドクン……ッ!!
詩織の左手首の痣が、突然胸を刺されたかのような激痛とともに激熱を発した。
すでにある三日月型の痣から、まるで毒の蔓のような漆黒の紋様が、じわじわと白く滑らかな腕の皮膚へ向かって侵食を始めたのだ。
「あぐっ……痛……っ!?」
「シオン……!? なんだ、痣から広がるこの黒い影は……!?」
詩織の苦悶の声に、リオンが弾かれたように身体を離す。
顔を蒼白にしたリオンが、詩織の手首を優しく、だが震える手で包み込んだ。
「あいつはきみに触れただけなのに……なぜこんな呪いのような真似を……!?」
「違います……リオン……」
詩織は途切れる息を整えながら、激痛に耐えて深く目を閉じた。




