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第7話 出かける理由

テーブルにつく。

向かいには、妻。

少し遅れて、悠人も座る。


湯気の立つ味噌汁に手を伸ばす。

箸が触れる音だけが続く。


隣を見る。

視線が一瞬だけ合う。

すぐに逸れる。

それだけだった。


向かいから、短く視線が来る。


静かな時間が続く。


「……明日、どこか行くか」


言ったあとで、自分でも少しだけ違和感があった。


向かいから、もう一度だけ視線が来る。

少し間があく。


「いいけど」


それだけだった。


箸の音だけが、また続く。


向かいと隣の間で、視線が交わる。


それで終わった。


どこに行くかは、決まっていない。

何をするかも、決まっていない。


それでも、そのままにしておいた。

無理に決める気にはならなかった。


食事を終える。

それぞれが、いつもの動きに戻る。


いつもの天気予報が、流れてくる。

同じような時間が流れていく。


それでも、どこか少しだけ違っている気がした。


理由は分からない。

ただ、そのままにしておいた。


夕方、上司に呼ばれる。


封筒が、目の前に差し出される。


「これ、もらったんだけどさ」


中を見る。


「行く予定ないなら、使うか?」


水族館の招待券だった。


「……いいんですか」


「期限近いしな」


それだけだった。


特に、何も考えなかった。


いつもより、少しだけ早く会社を出る。


電車に揺られる。

窓に映る顔が、昨日と少しだけ違って見えた。


理由は分からない。


家に戻る。

着替えて、リビングに入る。


テーブルには、すでに悠人が座っていた。

妻が少し遅れて、最後の皿を持ってこちらに来る。


何も言わずに、それぞれの場所に座る。


「……そういえば」


立ち上がる。

戻ってきて、チケットをテーブルに置く。


「これ、もらった」


「水族館のチケット」


向かいから、短く視線が来る。


隣を見る。

一瞬だけ、視線が合う。

そのまま、また逸れる。


「期限、今週末まで」


それだけ言う。


少し間があく。


向かいが、隣の方を一瞬だけ見る。


「……そうなんだ」


短く返ってくる。


それだけだった。


テーブルの上のチケットに、もう一度目がいく。


今夜は、外に出なくてもいい気がした。

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