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第19話 牛乳

朝、会社へ向かう電車は今日も混んでいた。


吊り革につかまりながら、窓に映る顔を見る。


少し伸びた髪。

眠そうな目。


駅へ着く。


改札を抜け、いつものコンビニへ入る。

缶コーヒーを取って、レジへ並ぶ。


会社へ向かう人の流れも、いつも通りだった。


エレベーターの扉が閉まりかけたところで、野本が小走りで入ってくる。


「セーフ……」


軽く息を切らしながら、ネクタイを直している。


思わず少し笑う。


「朝から走るなよ」


「一本遅れると、部長うるさいんで」


「それはそうだな」


エレベーターが上がっていく。


会社へ着く。


パソコンを立ち上げる。

メールを返す。

資料を開く。


電話の声。

キーボードの音。

コピー機の動く音。


午前中は、ほとんど喋らなかった。


昼前になって、野本が席へ来る。


「課長、昼どうします?」


「ああ、行くか」


外へ出ると、少し風が強かった。


並んでコンビニへ向かう。


新商品の弁当が増えただとか、そんな話をしながら店内を回る。


野本がカップ麺を手に取る。


「それ、毎回食ってないか」


「飽きないんですよ」


「よく飽きないな」


「課長こそ、毎日コーヒーじゃないですか」


そんなやり取りをしながら、レジへ並ぶ。


会計を済ませて、ビル裏のベンチへ座る。


遠くで工事の音がしている。

昼休みの人の流れが、道路の向こうを過ぎていく。


しばらく黙ったまま食べる。


「今月、届きそうですね」


野本が、割り箸を止めながら言う。


「ああ」


缶コーヒーを開ける。


目標までは、あと少しだった。


「……でも、まだもう少しだな」


思ったより自然に、口から出る。


野本が小さくうなずく。


「ですね」


風が少し冷たい。


缶コーヒーを持ったまま、空を見る。


午後の会議が終わる。


窓の外を見ると、少しだけ空が赤くなっていた。


デスクへ戻る。


メールを返す。

数字を確認する。

資料を閉じる。


やることは、まだ残っていた。


会社を出る。


改札を抜ける。

電車へ乗る。


窓に映る顔を見る。


スマートフォンが震える。


妻からだった。


『牛乳だけお願い』


思わず少し笑う。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

気づけば、次回が最終話になりました。


大きく何かが変わる物語ではありません。

それでも、会社と家、その途中で少しずつ揺れていた時間を書いてきました。

最後まで、見届けていただけたら嬉しいです。

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