第18話 日程表
家に帰ると、テーブルの上に何枚か紙が広がっていた。
リビングではテレビが流れている。
悠人はソファに座ったまま、スマートフォンを見ていた。
「おかえり」
キッチンから妻の声がする。
「ああ」
鞄を置きながら、テーブルへ目を向ける。
学校名。
説明会。
提出書類。
そんな文字が並んでいた。
「もうそんな時期か」
思ったまま口に出る。
妻が小さくうなずく。
「来月、説明会あるんだって」
「ふーん」
返事をしたのは悠人だった。
スマートフォンを見たまま、あまり興味がなさそうに返す。
「ちゃんと見てるのか?」
「見てるって」
「絶対見てないでしょ」
妻が苦笑いしながら言う。
そのやり取りを聞きながら、テーブルの紙を一枚手に取る。
教室案内。
受付時間。
持ち物。
細かい字が並んでいる。
「制服って、大きめ買うんだろ?」
妻が紙を見ながらうなずく。
「今はみんなそうみたい」
「すぐ小さくなるって」
「へえ」
悠人は、まだ実感がなさそうだった。
テレビではニュースが流れている。
京都駅の映像が映っていた。
「修学旅行、すごい人だったって言ってたもんね」
妻がそう言う。
「あー、どこ行っても並んでた」
悠人がスマートフォンを置く。
「清水寺とか、やばかった」
「今、外国人多いらしいからな」
そう返しながら、もう一度日程表を見る。
その頃には、もう中学生になっている。
当たり前のことなのに、少しだけ不思議だった。
「説明会、平日か」
「うん」
妻が答える。
「おとうさん、無理しなくていいよ」
悠人が何気なく言う。
その言い方が、少し大人びて聞こえる。
午後からだった。
会議を一つ動かせば、たぶん行ける。
紙をテーブルへ戻す。
「その日、俺も行く」
妻の手が少し止まる。
悠人も、一瞬だけ顔を上げる。
「え?」
「説明会」
そう言うと、悠人が少し笑う。
「別にいいのに」
「お前が決めることじゃないだろ」
「いや、そうだけど」
妻が小さく笑う。
「じゃあ、お願いしようかな」
その言い方が、少し柔らかかった。
食事が終わったあと、気になっていたメールだけ返すことにした。
自室へ入る。
パソコンを開く。
返信を二通。
確認を一件。
それだけ済ませて、部屋を出る。
リビングへ戻ると、妻がまだテーブルに書類を広げていた。
悠人はソファで、いつの間にか寝かけている。
テレビの音だけが、小さく流れていた。
「寝るなら、お風呂入ってからにしなさい」
妻がそう言うと、悠人が面倒そうに返事をする。
そのやり取りを聞きながら、テーブルの日程表をもう一度見る。
時計を見る。
いつもなら、そろそろ歩きに行く時間だった。
それでも今日は、そのまま椅子に座っていた。




