第10話 何か違う日
目が覚める。
カーテンの隙間から、光が入っている。
しばらく、そのまま天井を見る。
起き上がる。
リビングへ行くと、テーブルの上に朝の支度が並んでいる。
向かいには、妻。
少し遅れて、悠人も座る。
箸を取る。
味噌汁の湯気が、ゆっくり上がっている。
それを、少しだけ長く見ている。
食器の音が重なる。
隣を見る。
視線は、手元に落ちたまま動かない。
向かいから、短く視線が来る。
すぐに外れる。
それだけだった。
食べ終える。
「いってきます」
少し間があって、
「いってらっしゃい」
外に出る。
駅までの道を歩く。
前を歩く人の背中が、少しだけ目に残る。
電車に乗る。
窓に映る顔を見る。すぐには目を逸らさない。
会社に着く。
席に座り、パソコンを開く。
画面の中で、数字が並んでいる。
スクロールして、戻る。
同じ場所を行き来している。
「課長」
顔を上げる。
野本が立っている。
「例の件なんですけど」
「ああ」
「この条件だと、やっぱり厳しいと思います」
少し間があく。
そのまま、野本の方を見る。
視線が合う。
「……どうするか、ですよね」
もう一度、間があく。
画面に視線を落とす。
数字が並んでいる。
指でスクロールする。
止まる。
「……一回、出そう」
短く言う。
わずかに間を置く。
「このままでいい」
野本が止まる。
ほんの一瞬、言葉が途切れる。
「……このまま、ですか?」
「ああ」
視線を外さないまま答える。
さらに少し間があく。
野本が、小さくうなずく。
「……分かりました」
ほんの少しだけ、不思議そうだった。
それで終わる。
野本は自席に戻っていく。
その背中を、少しだけ見ている。
画面に戻る。
昼になる。
席で食べる。
周りの声が重なる。誰かが笑う。
午後も同じだった。
電話をして、メールを返して、資料を直す。
流れの中にいる。
夕方になる。
進捗表を見る。
数字は変わっていない。
そのまま閉じる。
席を立ち、会社を出ると、すぐに電車に乗る。
窓の外に、街の光が流れていく。
家に帰ると、テレビの音が先に届く。
着替えてリビングへ戻る。
テーブルに残った皿が目に入る。
妻が顔を上げる。
「ご飯、食べる?」
「ああ」
席に座る。
温め直された皿が置かれる。
一口、口に運ぶ。
テレビの音が流れている。
向かいに座っているが、特に何も話さない。
それでも、そのまま食べる。
食器を流しに運び、水を流す。
手を拭いて、リビングに戻る。
ソファに座る。
しばらく、そのまま画面を見る。
「……少し歩いてくる」
それだけ言う。
一瞬だけ、視線がこちらに向く。
「あ、うん」
短く返ってくる。
立ち上がる。
玄関へ向かい、靴を履く。
そのままドアを開ける。
夜の空気が、少しだけ冷たい。
ゆっくり歩き出す。
足音が続く。
同じ道を進む。
少し先で、足が止まる。
街灯の下に、影が落ちている。
それを見ている。
――
ふと、何かが浮かぶ。
すぐには形にならない。
そのまま、少しだけ立っている。
息を吐く。
もう一度、歩き出す。




