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Ep.39 「悔いなきように」

──あらすじ


澄嶺とネグレが、地下室で解錠に苦労している頃。

京夏、フィーナ、ジェットの3人は上の階へと探索域を広げていた。(京夏視点でお話が進みます)

「なんだか、思っていたよりも退屈だね」

「気を抜いてはいけないよ京夏。いつどこからか人工知能が襲ってくるかわからない」

「そのときは、私がお二人をお守りしますよ」 

「はいはい」


 1から4階は事務室ばかりで、このフジサワというやつがどれだけ巨大だったかを如実に示していた。だがまあ、トーダイと比べて探索のしがいはない。誰かが死んでいるわけでも、面白い新発見があるわけでもなかった。


 ……誰も死んでいないことは、喜ぶべきはずだよね?


「次は5階ですか」


 パラパラと瓦礫を落とす、不安定な階段を登っていく。粉塵が肺を擦るこの感覚にも、ある程度慣れてきたところだった。


 5階は、期待を裏切る。


「あれ? 開かない」


 階段から5階へと続く扉は固く閉ざされていた。金属でできた無表情な彼は、私になにか見せたくないものがあるようだ。


「京夏、後ろへ。目を瞑っていてくださいね」


 フィーナが一歩前に出た。

 ガツン! と聞いたことのない音が鳴る。 

 私がなにか聞く前に、彼女は金属の扉を蹴破っていた。


「どうぞ、これで通れますよ」

「うわ……」

「フィーナ、あまり乱暴はよくないよ?」

「これが一番効率的でしたので」


 元軍人と言う奴は、みんなこうなのだろうか?


 穴を潜ったあと、5階の探索を始める。

 どうやらここは食堂階だったようで、フロア全体にテーブルと椅子が並べられていた。枯れ果てて俯いた観葉植物が時の流れを感じさせる。


「ここは随分、綺麗なようだね」


 異様だったのはそれだった。

 1階のあの散らかり具合と比べると、違和感を覚える。

 

 注意しながら探索を続けると、「食糧室」と書かれた部屋を見つけた。


「ここだよね」

「ああ」


 先ほどと違い、扉は簡単に開いた。


「あ……あぁ……!! また、また私は──」

「フィーナ、落ち着いて」

「これは……凄惨だね」


 扉の向こうには山のように積み重なった、肉の剥げた死体が点在していた。鼻を刺す腐臭と空気に混じった血と湿度が、ここを地獄たらしめている。


 今まで数多く死体を見てきたけれど、ここまで食い荒らされているのは初めてだ。もう骨が見えてしまっている者もいる。

 しかし、ここに来るまでに鼠や烏は見なかった。


「まさか、だよね……」


 一番マトモな風体をしている男の口を開いてみる。詰まった排水溝のような匂いが部屋に充満した。


 やっぱり。

 私の想像通り、男の犬歯は赤黒く染まっている。


「ねえフィーナ、言いたくないんだけれど……」

「私も同感だ。ここで共食いが起きていたことは間違いないだろう」

「ゔっ……そう、でございますか……」


 フィーナは黒いドレスの裾を強く握りしめながら、フロアを抜けていった。

 

 彼女を見ていると、私の感覚が麻痺していることを思いしらされる。澄嶺の言う通り、人工知能のほうがよっぽど人間らしいのかもしれない。


「それにしても、共食いか」

「他の場所に逃げれば良かったのにね」

「それができなかったんだろう。逃げる勇気も、死ぬ覚悟もない人間は往々にしているものだ」


 男のほかにも、歯が赤黒い者は2、3人いた。

 一番奇妙だったのは、包丁で自分の胸を貫いているエプロンを着た女の死体だった。その女も、歯が赤く染まっている。


「この人は……?」

「あまり詮索してあげるな。後悔が人を殺せることは、京夏ならよくわかるだろう?」


 ああ、わかるよ。

 痛いほどよくわかる。

 この女もきっと、そうだったのだろう。


「向こうでは元気でね」


 私はその包丁を抜き取って血を拭き、そっと女に握らせてやった。


────


「フィーナ、もう終わったよ」


 踊り場で蹲るフィーナに、ジェットがそう声をかける。 


「あ、あぁ……申し訳、ありません。これではついてきた意味が……ローゼも、お守りできなかったのに」

「そりゃローゼを守れなかったのは悔しいかもしれないけど……あなたはここにいるだけでいいんじゃない?」

「なる、ほど……?」


 私でも、私の言葉をあまり理解していない。私は私が思うより賢くないということが、この場面でようやく理解できた。


「まあなんかその、私はフィーナが来てくれて嬉しい……と思うよ」


 フィーナの目線が私から離れないのに気がつくまで、数秒かかった。黒いドレスと金髪の彼女は、千冬が持ち帰るのを諦めた人形に似ていた。


ドゴン!!


「!?」


 本日2度目の変な音。フィーナが何かを突破した音ではない。まさか……


「澄嶺!?」

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