第69話
アーリシャ・ドナーヴゼーレは幼少期から天才の名を欲しいままにしてきた。
外見も容姿端麗。才能と抜群のスタイルを併せ持つ彼女の名声は、キングウェル王国中に知れ渡っている。
七列卿にして魔法卿を務めるドナーヴゼーレ家は、文字通り魔法のスペシャリスト揃いである。
なかでもアーリシャは、歴代のドナーヴゼーレ家で最高の才能を持つ魔術士であると期待されていた。彼女は産まれた直後から身体が七色に輝き、さながら、膨大な魔力の産着に身を包んでいるかの如くであったという。
魔法の適正を見る魔法儀の際にも、前代未聞の結果が出た。通常であれば一つの属性しか適正がないはずが、地、水、火、風、光、闇、全てに適正があったのである。また、授かったスキルも、彼女の魔術士としての実力を大幅に強化するものであった。
彼女に欠点があるとすれば、そのスキルに伴う『副作用』くらいのものであろうか……。
ーーーーーー
「お、魔族を見ーつけた♪ ……って、ボルガドフ君も一緒かぁ」
ワイバーンに乗るアーリシャは地上で魔族とボルガドフが戦っているのを発見した。魔族は二体。対するボルガドフは押されている。
「ワイバーン君。今までありがとう!」
アーリシャはワイバーンから飛び降りた。風魔法を使い、軌道を修正。弾丸のような速度でボルガドフ達に突っ込んでいく。
「個別攻撃には風魔法が一番だねえ。『風烈斬』!!」
二体の魔族に対して風の刃が発射されるが、長大な日本刀を持つ魔族により受け止められた。
「チクゼン、人間がもう一体来た」
「奇襲とは卑怯なり。人間よ! 名を名乗れ!」
「私はドナーヴゼーレ家のアーリシャ。ボルガドフ君、助太刀させてもらうよ! 死にたくなければ『硬質化』を全力で発動させなさい!」
「アーリシャ! 僕を巻き添えにするのか!」
「君なら大丈夫! 男だったら文句言わないの!」
空中に浮き、両手を頭上に上げながら亜麻色のポニーテールをたなびかせるアーリシャ。目を見張るのは、その爆乳である。Iカップ程はあるであろうか。
「くっ、あの『大きさ』は、かなりまずいぞ……」
ボルガドフはスキル『硬質化』を発動させ、防御力を格段に向上させた。ボルガドフが凝視しているのはアーリシャの胸部である。しかし、邪な目で見ているのではない。どちらかといえば、恐怖に戦く目である。
ボルガドフとアーリシャは七列卿同士ということもあり、幼少期からの知り合いであった。しかし、お互いが魔法儀を終えた十五歳の時、ボルガドフは異変を感じた。
魔法儀を終えた直後、アーリシャの胸がとてつもない程肥大化していたのである。魔法儀により授かったスキルの影響によるものだった。
「『女神の双丘』!!」
アーリシャの豊かな二つの丘が隆起し、膨張する。それに伴い、頭上に掲げた手の上に、直径十メートル程の火球が出来た。アーリシャの身体全体から異様な熱気が発せられる。
アーリシャのスキル『女神の双丘』は、胸に魔力を貯蔵出来る特性を持つ。
大気中に存在する微かな魔粒子を身体に吸収し、胸に蓄えるのだ。当然、魔力が溜まれば溜まる程、胸は大きくなる。現在のアーリシャの実力だと、Iカップ程の魔力貯蔵が限界であった。しかし、Iカップでも通常の魔術士の二十倍以上の魔力量を貯蔵出来る。
圧倒的な魔法のセンスと常軌を逸する魔力量。これが、アーリシャが天才と呼ばれる所以であった。
「なんと……人間ごときが、これ程の魔力を!」
「チクゼン、危ない。私の後ろに」
チクゼンと呼ばれた巨体の魔族を、フードを被った幼女の魔族、パームが庇った。いずれも魔界四将の一員である。
アーリシャは大きく振りかぶったあと、両手を魔族達へ向ける。
「『天国への送り火』!!」
あり得ないほどの容量を持った魔力の塊が、炎の波となって魔界四将へと襲いかかった。
本来であれば歴戦の魔術士十人がかりで行使するレベルの、上級広域殲滅魔法である。炎の海がチクゼン、パームの二人とボルガドフをあっという間に飲み込むと、半径百メートルの範囲が瞬間的に大爆発を起こした。
爆発が収まると、地面が大きく抉れ溶解している。ボルガドフは何とか耐えたが、かなりのダメージを負ってしまったようだ。
チクゼンは身体に大火傷を負い、ガクリと膝を付いた。パームは杖を構えている。大きなダメージは避けられたようだが、かなり消耗しているようだ。
アーリシャは空中から地上に降り立った。胸の大きさがDカップ程に萎んでいる。
「なるほど。お前はキングウェル王国で名高い『爆乳のアーリシャ』だな」
貧乳のパームは、なぜか敵意を含んだ目でアーリシャを睨み付けている。
「拙者も聞いたことがあるでござる! 『デカメロン公爵令嬢』、または『大豊作のアーリシャ』の二つ名は伊達ではないようであるな……」
チクゼンは、別の呼び名を知っているようだ。アーリシャの巨乳は魔界でも有名なのだろう。
「う、うるさいなぁ! 不名誉な二つ名で呼ばないくれっ。他に呼び方はないのかな? せめて『爆炎』とか、『爆風』とかさぁ……」
アーリシャは顔を真っ赤にして胸を押さえている。
「いえ、聞いたことないわね。私が知ってるのは、アーリシャという魔術士が爆乳ということだけ。どんな魔法を使うのかは知らない」
「拙者もでござる。アーリシャという魔術士の胸は、春夏秋冬、いつでも大豊作であるということしか……」
「くたばれーーーーっ!!!」
恥ずかしさと怒りで涙目になっているアーリシャが『女神の双丘』を発動させた。
大気中の魔粒子を取り込むにつれ、胸がEカップになり、そしてFカップになっていく。
「や、やめるんだ! アーリシャ。僕もまだここにいるんだ!」
ボルガドフの悲痛な叫びは、アーリシャには届かない。
アーリシャの胸は、無情にも巨大化し続けるのであった。
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