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第68話

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 魔界四将の筆頭、ヴィータ。圧倒的な魔力量と攻撃力は魔界において抜きん出た存在である。魔王からも篤い信頼を勝ち取り、一騎当千の強者揃いの魔界四将を束ねていることからも、彼女の実力は伺いしれるというものだ。


 そのヴィータが思う。このナホーティアという娘は何かがおかしい、と。


 ナホーティアが光魔法の使い手であることは一目瞭然。だが、攻撃力が高すぎる。光魔法とは本来、地水火風の四大属性に比べて補助的な役割しか持たない。バフやデバフ効果を与える働きが主なのである。


 しかし、ナホーティアの光魔法は、四大属性を凌ぐ高い威力を誇っている。さらに、空中から地面に叩きつけられても無傷でいられるだけの防御力も兼ね備えているのだ。ナホーティアの見た目はか弱い少女そのもの(ただし、胸だけは大人)。あのタフさは異様である。


ーー何かカラクリがあるな。もしくは、余程特殊なスキルの持ち主か。


 並の使い手であれば、迂闊に手を出さず遠距離からの攻撃で様子を見ていただろう。しかし、ヴィータは百戦錬磨。得体の知れない実力を持つ相手である程、攻めの一手で仕掛けるべきだと知っている。


ーーこの攻撃で、奴のスキルを暴く!


 魔族の中でも一際身体能力が高いヴィータ。ナホーティアとの距離を瞬時に詰め、近接戦闘を仕掛ける。目にも止まらぬ速度の殴打、蹴撃を繰り返す。


ーー『狂化』10%!!


 ナホーティアは再び『聖女』スキルを解除し、『狂化』スキルへと切り替えた。『聖女』と『狂化』は大変相性が悪く、同時発動が出来ないのである。


 狂化状態になると、ナホーティアのステータスが圧倒的に高まる。仮に100%狂化スキルを使いこなせる場合、幸運と知性以外の全ステータスが10倍化される。


 しかし、ナホーティアが使えるのは30%まで。30%を超えると理性を保てなくなり、魔力や体力が尽きるまで破壊を繰り返す狂戦士となってしまうのだ。


 何故かと言えば、狂化を使えば使う程、身体だけでなく心までも狂っていくから。敵への憎悪、闘争心、破壊衝動、殺戮衝動に抗えなくなってしまう。


 全てを慈愛の心で包む『聖女』スキルとは正反対の悪意が、可憐な美少女であるナホーティアに棲んでいるのだ。


「ううっ! 重いっ!」


 ヴィータの渾身のラッシュは強烈だ。10%の狂化でもダメージは完全に防げない。ましてや、攻撃に転ずることなど出来なかった。


 しかし、焦っていたのはヴィータの方である。


ーー私の本気の攻撃を防がれているだと!?


 いくら攻撃を繰り返せども、ナホーティアの防御を崩すことが出来ない。


ーー身体能力を向上させるスキルの持ち主だな。遠距離だと強力な光魔法を放ち、近距離ではスキルを使ってフィジカルを強化するということか……。


 遠距離でも近距離でも隙の無いナホーティア。弱点を見いだせない相手に対しては、自分の最も得意な戦法をゴリ押しするに限る。そう判断したヴィータは一転して距離をとり、闇魔法を発動させる。


「『悪夢の暗幕(ナイトメア・カーテン)』!!」


 辺りを暗闇が包む。闇魔法も光魔法と同様、直接的な攻撃よりも補助魔法としての側面が強い。


 一寸先が見えない濃い闇が訪れ、ナホーティアは動転した。


「『風来撃』!!」


 ヴィータも視界は奪われているが、広範囲の攻撃が可能な風魔法を繰り出す。集中力が切れていたナホーティアに少くないダメージを与えた。


「かはっ!」


 動揺のあまり狂化を解いてしまった為体力は大きく削られて、10メートル程吹き飛ばされる。ヴィータにとってはまたとないチャンス。この機を逃す手はない。背後に回り、風魔法を連発する。


「きゃあああっ!」


 視界を奪われ、さらに遠距離から風魔法を連発されたナホーティアは、反撃の手を失っていた。


 この様子を見て、ヴィータはニヤリと口許を緩める。


ーーこの小娘の弱点が解った。


 ナホーティアは明らかに戦闘経験が不足しているのだ。視界を奪われたり、敵の位置が解らなくなるなど、何が起きるか解らないのが戦いというもの。それだけに、戦闘時には平常心や、臨機応変、当意即妙の応用力が求められる。ナホーティアには、それがない。


ーーこの小娘は危険だ。まだ力を隠し持っているように見える。魔王様に近づかせるべきではない! ここで殺してくれる!


「『圧し掛かる憂鬱《メランコリック・グラヴィティ》』!!」


 ナホーティアの身体が突然重くなる。ヴィータが放ったのは、敵の身体にかかる重力を増幅させる闇魔法だ。視界を奪われた上に行動まで防がれて、ナホーティアは完全に混乱してしまった。


「うわああああっ!!」


 『狂化』を解除し、『聖女』スキルを発動。スキル効果によって威力が増幅された光魔法の矢を四方八方に乱射した。ヴィータの位置が捕捉出来ない以上、ナホーティアは闇雲に攻撃するしかない。


 しかし、そんな攻撃がヴィータに当たるはずもない。さらに、真暗闇の中で光の矢を乱射している為に、ナホーティアの位置が丸解りである。


「『風来撃』!!」


「あうっ……!」


 『聖女』状態では防御力が上がらず、ダメージは軽減されない。まともに攻撃を受けたナホーティアは、その場に倒れ伏してしまった。

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