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第62話

5ヶ月ぶりの更新となってしまいました。


にも関わらず、評価やブクマを下さった皆さま、誠にありがとうございます。

 銀の薙刀を持ったマリフィが舞う。


 新体操のリボンのように、薙刀の後から帯状になった魔方陣が続く。人間離れした無機質な美貌と舞が艶やかな美を産み出していて、フォードンは心を奪われていた。


 少なくとも、背後に突如現れたマリフィへの対処が遅れる程には。


「何ッ!」 


「『次元遊泳』」


 咄嗟の判断で身を屈めたフォードンだが、マリフィの攻撃を完全に躱すことは出来ず、背中を浅く切り裂かれる。


「ううっ!」


 女性の身体と心になっている為、肌が一層露出することへの恥ずかしさを覚えてしまうが、そんな場合ではないと自らを叱咤する。


 切られた勢いを利用して、あえて前方に転がり少しでもマリフィとの距離を取る。再び魔方陣を展開しようとするマリフィが見せた隙を、フォードンは見逃さなかった。


「いけっ、ヴァーレンシア!!」


 ーーきっとあいつは、剣を使う俺から距離を取れば攻撃を受ける心配が無いと考えたのだろう。だが、それは甘い。


 ヴァーレンシアは剣そのものに膨大な魔力が宿っている神器である。ひとたび剣を振れば、強力な魔力波が放たれる。


 しかし、マリフィのスキルは、フォードンの思考の更に上を行っていた。


「『無幻離界』」


 ヴァーレンシアの強烈な斬撃は空間の狭間に吸い込まれ、あっけなく消えていった。そして、マリフィのスキル発動はなおも止まらない。


「『境界離断』」


 ーー何かが、来るっ!!!


 咄嗟にヴァーレンシアを構えた甲斐もなく、胸部と両腕に激痛を覚えて、フォードンは吹き飛ばされた。


「ぐわああああああっっっ!!!」


 痛みのあまり転げまわる。腕が動かせない。呼吸もしづらい。喉から溢れる血液は、絶望の味がした。


 かつて魔王の装甲にすら傷をつけたマリフィの『境界離断』。相手の防御力を無視して攻撃を叩き込むスキルは、ヴァーレンシアの魔力も掻い潜ったのだ。


 ーー手も足もでないとは……!


「これらは全て『次元織女《ディメンション・プリンセス》』の特性スキルです。あなたでは私に勝てないかと」


 スキルを解放したマリフィは圧倒的な実力を誇った。『剣王』のスキルを持ったフォードンが『戦乙女化《トランス・ヴァルキリー》』を使い、ヴァーレンシアを持ち出しても勝てない。もはや、フォードンに手は残されていない。


「そうだな。勝てる気がしない。しかし……負ける訳にはいかないのだ! 望みが完全に絶たれた時こそ、あえて希望を創り夢を繋ぐ。それこそが、男としての俺の矜持だ!!」


 ヴァーレンシアを杖に立ち上がるフォードン。口からは大量の吐血。言うことを聞かない腕。端からみると、フォードンの敗けは確定している状況だ。


 しかし、フォードンの思いが何者かに届いたのか、ありえないことが起こった。


 マリフィの背後から、軍勢がこちらに近づいてくるのだ。掲げる旗は、紛れもないレグシスレイト家のものである。


「ち、父上っ!!」


 先頭を率いるのは、フォードンの父親。レグシスレイト家の当主、サロネス・レグシスレイトである。


 堂々たる武人。一言で言い表すなら、この表現が誰より当てはまる男である。貴族としての高貴さと、騎士としての武骨さ。その二つが混ぜ合わされた風格は、他を圧倒するものだ。


「父上、どうしてここへ……?」


 父親が救いに来てくれたことの安堵、劣勢に立たされていることの恥ずかしさ、女性の身体になっていることのやましさがあわさった一言だった。


「フォードンよ。私は以前から口を酸っぱくして言っていたな。男たるもの、貴族たるべし、と」


 サロネスの表情は憮然としたままだ。マリフィの側を通り過ぎ、フォードンのもとへ近づいてくる。


「貴族とは、王国に尽くすべき者だ。お前がやっていることは、王国に弓を引いていることがわからんのかあ!!」


 驚愕を覚える暇も無く、剣の鞘で横っ面を打ち砕かれた。崩れ落ちるフォードン。


「ど、どういうことでしょうか……? この女は、領民達を殺したのですよ、父上っ……!」


「魔族は領民ではない。お前は王国のみならず、人間に対しても反旗を翻すつもりか! 馬鹿野郎!」


「父上……?」


 サロネスの目は赤く輝き、正常な意識を保っていないようだ。そして、それは背後の兵達も同様である。まるで、何者かに操られているようだ。


「お前など、もはや我が息子ではない。貴族でもなく、男ですらない」


 スキルによって女性となっているフォードンは、美しい顔つきでサロネスを睨んだ。


「父上! 今のあなたはおかしい! あなたは領民であれば魔族に対しても慈悲を垂れていたはず! いつもの父上に戻って下さい!」


「お前ら、あの女を連れていき、牢屋で監禁しろ」


 サロネスの軍勢がフォードンを取り押さえ、羽交い締めにする。


「それとな、その女、殺さなければお前らの好きにして良い」


「えっ……」


 フォードンは、獣と化した兵達に蹂躙された。

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