第53話
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リーフェの凱旋式当日。王都には王国中から民衆が押し寄せた。魔王と互角に戦える人間は千年前のミファイルトス以来絶えて現れなかったそうだ。千年振りの朗報で、王国が歓喜に沸いている。
集まった人数は凡そ一千万人。その誰もが、稀代の英雄リーフェ・ハイデルファンドを一目見たいと願っていた。
俺達は凱旋式に招待されている。ナホーティア、リミュ、リーフェと共に式が行われる広場へと向かっていた。
「すごいな。王都がリーフェ一色だ……」
街中にリーフェを讃える横断幕やポスターが貼ってある。ポスターには、リーフェが魔王を追い払った経緯が細かく書かれていた。
いわく、魔王と対峙する学園生達。あわや全滅の危機に英雄リーフェが立ち上がる。水魔法ウォーターストライクを放つとリーフェの掌から水の白鳥が飛び出した。魔王は白鳥に鎧を砕かれ命からがら退散した……だそうだ。
「嘘八百だな……リーフェは魔王から出された料理をモリモリ食べていたイメージしかないぞ」
「そうね。実際に魔王を攻撃したのはマリフィに間違いない。リーフェは魔法を放ってすらいないわ。サヴォージュの悪巧みとしか思えないわね。一体何を考えているのやら」
「リーフェちゃん、大丈夫……?」
「大丈夫さ、ナホーティア。奴らの計略には絶対に乗らない。むしろ、逆に利用してやるさ」
リーフェが力強く頷いて、ナホーティアを励ましている。
「に、しても……結構お前もノリノリじゃないか?」
ポスターには様々なポーズを取ったリーフェが載っていた。勇ましく剣を構えているのはまだしも、胸を寄せて色っぽい仕草をしている物まである。
「こ、これも英雄としての仕事なのだ! 仕方あるまい」
リーフェがやや恥ずかしそうにそっぽを向いた。
魔王を退ける実力を持ち(ということにされている)かつ美少女であるリーフェは、英雄として持ち上げるのに格好の存在なのかもしれない。
実際、リーフェに心酔する余り白鳥のコスプレをしたり、ポスターに載っているリーフェの格好を真似している民を何人も見かけた。
サヴォージュのたくらみは、かなり順調に進んでいるようだ。
ーーーーーー
リーフェの功績を讃える儀式が城の前の広場で行われる。その後、リーフェを先頭にした凱旋パレードが催される予定だ。
民衆が見守る中、儀式が厳かに始まった。
「リハイヘヴン家の寄子。リーフェ・ハイデルファンド。前に出よ」
七列卿のサヴォージュがリーフェの名前を呼んだ。
「はっ! 国王の忠実なる騎士。リーフェ・ハイデルファンドでございます」
リーフェは国王の前に進み、片膝をつく。寄親のナホーティアも、リーフェの後ろに控えている。
「汝がリーフェか。魔王に傷を負わせ追い払った功績を認め、英雄の称号を授ける。一層の忠誠を尽くし励むがよい」
国王の威厳ある声が響いた。闘技大会でお馴染みのエロ国王だ。
「ありがたき幸せ! 我が赤心をご照覧あれ」
リーフェは剣を抜き、国王に差し出した。爵位を授かる際に行われる伝統的な儀礼である。リーフェは眉目秀麗だけに大変様になっている……なんか腹立たしいが。
「鏡の如き刀身に映る我が身をご覧下さい。輝きはまさに青天白日。王国に捧げる忠義に一点の曇りもございません」
リーフェの口上はまさに立て板に水。可憐かつ堂々とした振る舞いに聴衆は見惚れている。こいつが実はアホとは誰も思うまい。
「汝の忠義は真実や否や」
国王とリーフェのやり取りは事前に台詞が決められているものだ。国王が型通りの返答をする。
「例え、刀身が魔族の忌まわしき血で染まろうとも、我が忠誠まで汚れることはございません。この身を王国の刃として、終生御恩に報いる所存でございます」
「よかろう。汝に英雄の称号と、通り名『白鳥』を授ける」
観客から万雷の拍手が起きた。英雄『白鳥のリーフェ』の誕生である。
拍手は何時まで経っても鳴りやまない。怒号にも似た歓声が響き渡る。この反応は、どう考えても異常だ。明らかに煽動されている。
この舞台はサヴォージュに操られているようだ。興奮する民衆。称号を授ける国王。そして、リーフェとナホーティア。全てが奴の筋書き通りに動く、悪意の戯曲。
絶対に、ナホーティアとリーフェはピエロにさせない! サヴォージュのシナリオは、俺が書きかえてみせる。
カラ、カラ、カラ……
車椅子の音と共に、目の前をその男が通り過ぎる。七列卿サヴォージュ・ロイドシャルマンである。
「お前は一体、何のつもりだ! サヴォージュ!」
サヴォージュは気だるげに顔をこちらに向けた。
「ああ、ケイブと言ったか。お前は何が不満なんだ? 王国に忠義を尽くす英雄。貴族としてこれ以上の名誉はあるまい」
「お前の嘘で塗り固められた名誉だろう。英雄の称号だって、裏があるとしか思えないな」
「嘘だと?! 目の前の状況をよく見てみろ! この民の熱狂は嘘なのか? 国王が偽者だとでも言うのか? 結果こそがこの世の全て。何だってそうさ。天災から逃げ惑う者。愛する者との死別に嘆き悲しむ者。人間は運命という名の結果に従わざるを得ない人形なのさ」
メイドのマリフィを促し、サヴォージュは車椅子を進める。
「覚えていろ。お前の下らない人形劇は、俺がぶち壊してみせる!」
「人形の扱いで私に勝てるとは思わぬことだ。若造」
マリフィが俺に目線を合わせてくる。整い過ぎた容貌からは、その心情が伺い知れない。
マリフィは何か言いたげな目線を外し、さらに車椅子を押してサヴォージュと共に去っていった。
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