第51話
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「お願いですから、やめて下さい! ここから出して!」
王都にあるキングウェル教会総本部。その暗い地下牢に魔族の女性が閉じ込められている。身体には既に多数の傷があった。
牢の外から見つめるのは、白いローブを纏った三名の男。キングウェル王国の国教であるリーヴェンレイ教の紋章を付けている。
「神は全知全能なり。然れども余りに高貴な存在なるが故に、汝ら下等な魔族には尊き御手を触れること能わず。然るに、我ら使徒に全能なる権限の一部を与え給うた」
最も装飾が施されているローブに身を包んだ男が前へと進み出た。
「すなわち、汚れ多き人外の徒を昇天させる権限なり。喜ぶべし、魔族の女よ。汝は神の慈悲に浴する機会を得たるなり。神は、汝に歓びに満ちた死を許したもうた」
「いや! やめて!!」
怯える魔族の女性に、ローブの男はゆっくり近づいていく。片手を差し出し、詠唱を始めた。
「リーヴェンレイ教典第一章三節二項。神は語りたまふ。人外の徒よ。死して汚れを祓うは喜ぶべきことなり」
突如、魔族の女性の動きが止まり、その場に倒れた。瞳孔が開いているようだ。既に息絶えている。
スキル『則天許死』。リーヴェンレイル家当主が教主を拝命した瞬間に授かる特殊スキルである。
本来のリーヴェンレイ教は平和で愛を重んじる宗教だ。だが、千年程前から一部の聖職者により、教典の拡大解釈が為されるようになった。『則天許死』は、悪意による解釈を現実化させるスキルである。
七列卿にして四十二代目リーヴェンレイ教主でもあるアイシオス・リーヴェンレイル。彼も教典を悪意に染める一人であった。
ーーーーーー
「そうか、それは大変だったね……」
俺が父親から国外追放を食らった経緯を聞き、ミファイルトスは深く同情してくれた。流石は人類を救った大魔導士。優しい心を持っているようだ。
「なんてことだ……そんなことがあって良いのか! それでも実の父親か! お前は、ナホーティアの為、ひいては人類の為に戦おうとしているのに!」
おっと、もっと優しい奴がいた。魔王である。見かけによらず人情派の魔王が、俺の為に心底激怒してくれている。
「クオーツカス家の屋敷を教えろ! かつての強敵、死霊王を葬り去った禁呪魔法で領土丸ごと火の海にしてくれるわ」
「いや、それは止めてくれ……ともかく、落ち着けよ」
「落ち着いていられるかあ!!」
魔王の怒号に空間が震えた。三つある目が怒りで釣り上がっている。
「まあまあ。魔王がクオーツカス家を滅ぼしたら、キングウェル王国と戦争になってしまうよ」
ミファイルトスが苦笑しながらフォローに入る。
「でも、父親を見返す良い機会じゃないか。ケイブ君はもっともっと強くならねばならないからね。それこそ、たった一人でリハイヘヴン家を滅ぼせるくらいには」
「そんなに強くなれるものなのか……?」
「もちろん。魔王だって、僕だってそれくらいは朝飯前だよ?」
爽やかな笑顔で語るミファイルトスに凄みを感じる。
「その為には、まずはこの周辺の魔物の駆逐からだ。一通り終わったら、戦闘の中で何を学んだかを教えてくれ。魔王もフォローを頼む」
「解った。我輩は厳しいので覚悟をしておけ。おお、そうだ少年よ。お前も晴れて辺境伯となったのだから、家来も必要だろう。我輩が一人見繕っておいた。おい、ヘンリー、入ってこい」
「おお! 気が利くな、魔王。ありがと、よ……」
ヘンリーを見て俺は絶句した。入ってきたのは元人間のアンデッドだ。髪の毛がほとんどなく、片目も無くなっている。肌も完全に土気色だ。また身体のあちこちが腐っており骨が露出している。上手く歩けないらしく、よたよたと進んでくる。
「元人間の方が何かと都合が良いかと思ってな。お前が帰ってから探しに探して、やっと人型が見つかったのだ。さあヘンリー、喋ってみろ」
「アイ、ゴシュジンサマ……」
ヘンリーがにっこりと笑う。凄く良い笑顔だ。皮膚が腐ってて頬骨見えてるけど。
「おお! バッチリだな! こいつは舌が腐っておるゆえ上手く喋れなかったのだ。お前の為に一生懸命練習したのだぞ? 可愛がってやってくれ。あ、それと生前の未練を果たすと成仏してしまうから気をつけてな」
突っ込みどころが多すぎる……。
「人間が良い! 人間を出せ~!」
魔王の胸ぐらを掴んで抗議する。
「愚か者! 魔界に人間がいる訳がないだろう。人型のアンデッドを探すだけでも散々苦労したのだ……ああっ、ヘンリーがしょんぼりしているぞ! ヘンリーよ、ケイブの言葉など気にするでない! おい、ケイブ! ヘンリーに謝るのだ!」
「お、おう、悪かったな、ヘンリー……」
「アイ、ゴシュジンサマ……」
再びにっこりと笑うヘンリー。百万ドルの笑顔だ。まあ、キモ可愛いから許してやろう。悪い奴ではなさそうだしな……。
「流石は魔王だね。ケイブ君、魔王は僕が会ったどんな人間よりも、世話好きの心配性でお人好しなんだよ」
「ふん、そんな訳がなかろう。我輩は暴虐無比の魔王であるぞ。居城に帰るので、後は勝手にするがよい。何かあればヘンリーに知らせるように。食べ物は地下の倉庫に十分あるはずだ。しっかり窓を閉めないとコウモリの魔物が飛び込んでくるのでせいぜい注意するのだな。あと、トイレは下の階に降りて突き当たりを……」
うん。完全にお人好しだな。
こうして、カイゼット辺境伯としてミファイルトス、魔王、ヘンリー、そしてキャロンと共に過ごす、愉快な日々が始まったのだった。
修行がちゃんと進むのか、心配だ……。
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