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第44話

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「我輩の居城に着いたぞ。この地に人間がたどり着くのはミファイルトス以来千年ぶりだ。カイゼット地方は、ここより更に奥地になる」


 ホーンズの郊外からの移動時間は一瞬だった。物理的にはかなりの距離があるはずだが、スキルによるものだろうか。やはり魔王は底知れない実力を持っているとみていい。


「カイゼット地方のどこに城があるんだ?」


「魔界との境界にある。すぐそこだ」


 魔王が指差した先に、西洋風の立派な城が聳えていた。砦も複数あってかなり堅固に造られている。所々に蔦が絡まっていて古びてはいるが、まだまだ十分に使えそうだ。


「元々カイゼット地方は魔界とは言い難くてな。言葉を解する知能がない魔物ばかりが住んでいる場所だ。我輩とミファイルトスで良く魔物狩りの競争をしたものだ」


 懐かしげに語るその横顔には、いまだ寂しさが漂っている。


「カイゼットは魔界ではないのか?」


「ああ、そうだ。我々が支配したとしても不毛の大地なのでな。利益が無いのだ。まあ、魔物の肉は旨いがな。我々の支配下に無い魔物が住んでいる地域だ」


「魔物って……お前達と同族じゃないのか?」


「全然違うぞ。お前達人間と家畜は同じ生き物か? それくらいの違いがある」


 成る程。俺達から見ると同族に見えるのだが。そんなもんか。


 程無くしてカイゼット城に着いた。魔王と共に中に入る。カビ臭さが充満しているが、調度品は一流のものばかりだ。


「一番上の階に、ミファイルトスの工房がある。奴はそこに籠って様々な発明品を作るのが趣味だった」


 ギギギっと錆びた音を立ててドアが開く。工房に入ると、何に使うのか解らない機械でいっぱいだった。


 ふと見ると、一番奥にステージのような場所があり、中央の上部とステージ両端に映写機が取り付けられている。ステージの前には、電極のような物が設置されていた。


『マスター。この電極を握りしめて、軽く電撃を流して下さい』


 やはりそうか。この電極に電気を流すと恐らく映像が映るのだろう。整理整頓スキルの誘導により適度に電流を流していく。思ったより、かなり魔力が吸われていくのが解る。


 すると、三つの映写機から光が出た。ブーン、という音と共に現れたのは立体映像のミファイルトスである。


 先ほどの映像通り歳は恐らく三十代。金髪に鳶色の瞳。背が高くすらっとした細マッチョだ。白銀色に輝く鎧をつけている。


「やあ、よく来てくれたね。転生者君と、我が親愛なる魔王。私はミファイルトスだ」


 先ほどの映像とは違い、やつれた面影は見えない。爽やかに笑っている。これが大魔導士ミファイルトスか。白い髭をたくわえたお爺さんを想像していたが、意外にも普通の好青年である。


「ミファイル……トス」


 魔王はと見ると、目頭を抑えてそっぽを向いている。


「どうしたんだい? 魔王よ。随分と久しぶりだというのに僕の目を見ないなんて。もしかして、泣いているのか?」


「そ、そんな訳があるか! 目に魔界の蠅が何匹か入ったので、一匹ずつ瞬きで殺しておったところだ」


 魔王が解りやすい強がりを言うと、ミファイルトスはふふふっと笑う。二人は本当に良い友達だったのだろう。


「初めまして。俺の名前はケイブ・クオーツカス。これは……ただの映像ではないな?」


「その通りだよ。地球の技術とキングウェル王国の魔術を複合させて作った特別な機械さ。この装置が動いている間は、僕と自由に話すことが出来る。生前の記憶を持ったままの僕とね」


 道理でかなりの魔力が吸われる訳だ。この装置を動かし続けるには膨大な魔力が必要だと思われる。このままだと長くは持たない。


「部屋の様子を見るとかなりの時が経ったようだね。僕はやはり殺されてしまったのだろう。生きている間にこの装置を作ったから、何で死んでしまったのかは解らないけどね」


 ミファイルトスは困ったような微笑を浮かべて首を振る。


「そうだ、ミファイルトス。お前は王国の何者かに、卑怯にも暗殺されたのだ。正々堂々と戦うこともせず。誰よりも、深く人間を愛したお前が……同じ人間の手で……何と哀れな……」


 魔王は顔を伏せ、再び魔界の蠅を瞬きで殺し始めた。殺した蠅の血が目から滴り落ちている。魔界の蠅の血は、水のように透明なようだ。


「苦労をかけたな、魔王よ。よく約束を護ってくれた」


「ああ、お前との約束が無ければ、我輩は間違いなくキングウェル王国に侵攻していた。魔界の総力を集めてな。お前の敵討ちの為に」


 強大な力を持つ魔王が総力戦をかけたとしたら、恐らくキングウェル王国は滅んでいたに違いない。王国に対する怨みを乗り越えてまで護った約束とは何だろう。


「ケイブ君。見たところ君の魔力はそれ程長くは続かないようだ。大切な事は早目に話すとしよう。君に、託したいことがあるんだ」


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