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第41話

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 生態系の頂点。魔王はそこに君臨するにふさわしい存在であることを、その場にいる誰もが直覚的に理解した。


 魔王を前にして、身体が全く動かないのだ。蛇に睨まれた蛙のような状態、という表現が適切かもしれない。


 お互いに膠着状態となり張りつめる雰囲気の中、魔王はおもむろに口を開いた。


「我輩は魔王である。七列卿の次期当主が揃って魔界に来ると聞いたので、一言挨拶をしに来た……」


 地の底から響いてくるような、迫力のある声だ。俺達は全員武器に手をかけるが、誰一人として動けない。


「俺達の実力を測りに来たのか……?」


「違うよ、フォードン君。僕達が力をつける前に殺そうとしているんだよ。しかし、むざむざ殺されてやる訳にはいかない!」


 ボルガドフが鬼人化を発動させる。身長は魔王と同じくらいになったが、攻撃を仕掛けることは出来ない。じりじりと間合いを詰めることが精一杯だ。


「いや、普通に挨拶を……」


 魔王が呟こうとした瞬間、ボルガドフが飛びかかった。


「ウオオオオオオオオオッ!」


 鬼人化したボルガドフの渾身の一撃。魔王は防御する暇もなく、顔面で拳を受けた。


 しかし、魔王は微動だにしない。ダメージは皆無のようだ。


「く、くそぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ボルガドフがラッシュで畳み掛けるが、魔王は一歩たりともその場から動かない。攻撃は当たっているのだが、全くダメージになっていないのだ。これはまずいな。


ーー整理整頓スキルよ、魔王の実力はどのくらいだ?


『私のレベルでは見抜けません。少なくとも、マスターのパーティーでは太刀打ち出来ないと判断します。狂化時のナホーティア様がそこそこ善戦出来ますが、五分持てば良い方です。マスターが戦う場合は、パーティーが逃げる時間を稼ぐだけで精一杯です。お二人以外のメンバーだと、魔王に瞬殺される可能性が九十九パーセントです』


 なるほど。確かにその通りの結果になるだろう。しかし幸いにも魔王は攻撃をする素振りを見せていない。つけけむ隙があるとすれば、そこだな。


「人間の僕達が、魔王なんかに負けるはずないんだ! 正義は必ず悪に勝つんだ!」


 ボルガドフがラッシュをかけながら必死で叫ぶ。魔王はため息をついた。


「少年よ……そもそも、悪とは一体何だろうか。絶対的な善も、悪も、この世には存在し得ないと思うのだが」




 あれ?




 今度は別の意味で全員が固まった。あまりにも意外な答えだったからだ。


 俺が想像していたラスボスのイメージだと、


「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き弱ければ死ぬ」


 とか、


「やはりお前は人間だ……クククク……ごく短い時の流れでしか生きない人間の考え方をする」


 とか言うもんだとばっかり思っていたが。何だか哲学的な答えが返ってきたぞ。


「少年よ。我輩の話を……」


「うるさい! うるさい! うるさーーいっ!!」


「いや、だからちょっと……」


 ボルガドフが半泣きになりながら魔王に殴りかかる。どうやらボルガドフにとって魔族というのは許せない存在のようだ。少し子供っぽい気もするが。そして、魔王は何か言いたげだ。


「ハア、ハア、ハア……」


「少年よ。気が済んだだろうか。我輩が言いたいのは……」


「ちょっと待てーーい!」


 なんと、このタイミングでリーフェが立ち上がった。身を挺してボルガドフを護るつもりだろうか。


「ついに、ついにやって来たぞ私の出番が! これまで魔物に出会う度にケイブに電撃を食らわされ、活躍が出来なかったが……ケイブの腰が抜けている今こそ、私の良い所を見せる時だ!」


 違った。完全に私欲だ。


「電撃? 電撃とは、雷魔法のことだろうか。もしや、そなたらの中に使い手が……」


「食らえ! ウォーターストライク……」



 バリンッ!!



 リーフェがお馴染みの魔法を繰り出そうとした時、ガラスが割れるような音が響き渡った。


 魔王とリーフェの間の空間がひび割れている。その狭間から垣間見えたのは、銀髪、銀瞳の絶世の美女。氷のような眼で魔王を見据える。


 次の瞬間、空間の狭間から灰色のメイド服を纏う女が飛び出した。肌が雪のように白い。


 手には純銀の薙刀。長髪をたなびかせて魔王に接近する。


 一閃。魔王は受けずに飛び退いた。


「やるな。そなたは人間か? ならば名乗るが良い」


「私は心無き人形。名前などありません。仮の名を申し上げるならば、マリフィ・ロイドシャルマン」


 その言葉には一切の抑揚がない。確かに、感情の無い人形を思わせる口調だ。


「御命頂戴」


 魔力がこもった薙刀を頭上で旋回させる。空間のひび割れが波状的に広がっていく。


 薙刀を止め、切先を魔王に突きつけた。



「スキル特性『境界離断』」



 ひび割れていた空間が音を立てて割れた。



 屋敷が粉々に崩れ落ちていく。



 俺の意識は、そこで暗転した。

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