番外編:七列卿『サヴォージュ・ロイドシャルマン』
今回で番外編は終わりです。
次話から本編に移ります。
これで、七列卿が全て出揃いました。
コツ、コツ、コツ……
カラ、カラ、カラ……
巨大な洋館に響く、乾いた足音と車椅子の音。
廊下の両脇に数メートル間隔でメイドが並んでいる。よく見ると、皆不自然な程に容貌が整っている。それぞれが手に持つ燭台が暗い洋館を仄かに照らす。
絶世の美女であるメイドが車椅子を押す。長身にロングの銀髪、銀色の瞳、生気が無い程の真白い肌。灰色がかったメイド服を着ている。
車椅子に乗っているのはげっそりと痩せ、常に軽い咳をしている不健康な男だ。気難しそうな雰囲気と相まって、年齢より大幅に老け込んで見える。
キングウェル王国の外れに彼の領地はある。七列卿にして『警護卿』の役割を持つロイドシャルマン家の当主、サヴォージュ。両親が謎の不審死を遂げ、十八歳にして家督を継いでいる。
健康上の理由で学園を三年間休んでおり、その間屋敷に引き込もっていたという。歩行が困難で、常に車椅子を使っている。
コツ、コツ、コツ……
カラ、カラ、カラ……
「聞いたか、マリフィよ。ついに私が長年求めていた呪術士スキルの持ち主が見つかったそうだ」
「いえ、聞いておりません。サヴォージュ様」
「学園に忍び込ませておいた密偵から連絡が入った。確かに呪術士の特徴を備えていたと」
「またこそこそと監視をしていたのですね。悪趣味ですわ」
「ふん、メイド風情には解るまい。我々ロイドシャルマン家は、こうして影から王国の平和を護っているのだ」
警護卿であるロイドシャルマン家は、王国の治安を司る警察のような役割を持つ。また、王国中の監視や不満分子の暗殺等、王命を承けて影の任務を行う事もある。
コツ、コツ、コツ……
カラ、カラ、カラ……
「呪術士スキルの持ち主は魔界へ旅立つそうだ。私も同行することにした」
「サヴォージュ様が同行されても、足手まといでは?」
「抜かせ。私のスキルは唯一無二。魔物など瞬時に蹴散らしてみせる」
「車椅子は誰が押すのでしょうか」
「お前以外におるまい、マリフィ」
「お断りしますわ」
「主人の言うことが聞けぬか」
「恐れながら。サヴォージュ様が呆気なく魔物に殺される様は見たくありませんので」
「取り消せ、マリフィ」
「嫌でございます」
コツ、コツ、コツ……
カラ、カラ、カラ……
サヴォージュの顔が怒気を孕んだ瞬間、腕輪が剣の形に変化した。切先はマリフィの胸を貫く。マリフィは無表情のまま、その場に崩れ落ちた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
攻撃に魔力を使ったサヴォージュは息切れを起こしている。その時、倒れたままのマリフィが、目だけギョロッと動かしてサヴォージュを見据えた。
「サヴォージュ様。修理を要求します」
「ハァ、ハァ……ならぬ。罰としてしばらくそのままでいるがよい」
「理不尽です。私が反抗的な態度を取るように設定されたのはサヴォージュ様ご自身です。私の言葉がお気に召さないのなら、初めから従順な性格となるように造ればよろしいものを」
「ハァ、ハァ……人形め……」
マリフィの胸に開いた穴からは血液の他に、針金や歯車のようなものが見える。
サヴォージュのスキルは傀儡化である。無生物を意のままに操るレアスキル。人の形に近ければ近い程操りやすい。
サヴォージュがパチンと指を鳴らした。途端に、廊下に並んでいたメイド達が一斉に倒れる。マリフィやメイド達は、サヴォージュのスキルで動いていた人形だったのだ。
倒れたメイド達から集まった魔力がマリフィに流れこむと、あっという間に胸の穴が塞がった。
「ありがとうございます。サヴォージュ様」
「マリフィ、魔界について来い」
「……かしこまりました」
人形であるがゆえに感情が無いはずのマリフィだが、ほんの少しだけ、サヴォージュを憐れむような表情を見せた。
コツ、コツ、コツ……
カラ、カラ、カラ……
サヴォージュの車椅子は、マリフィの足音と同等に無機質な音を響かせていた。
サヴォージュ自身もまるで人形であるかのように、これから暗く長い廊下を進んでいくのだ。
自らの感情とは関係なく、機械仕掛けの運命に操られるままに。
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