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第35話

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 夜が明け、リミュ、リーフェと俺は朝食をとっていた。


 リミュは昨日の特訓の成果が出た為か、嬉しそうにルンルンしている。今日も自主練をするそうだ。


 一方、リーフェはブツブツと独り言を呟いている。


「……覚えていろ、ケイブ…………いつか、必ず……お前の…………股間を……」 


 昨夜のスパルタ特訓をかなり根に持っているようだ。不意打ちで白鳥を股間にぶちかまされないように気をつけよう。


 朝食も終わりに近づいているが、ナホーティアはまだ現れない。


「ちょっと心配だから、俺が呼んでくるよ」


「お坊ちゃま、私が参りましょうか?」


「いや、キャロンは皆に給仕を頼む」


「かしこまりました。最近ナホーティア様は、お寝坊が多いご様子です」


「そっか……」


 昨夜の暴食が気になった俺は、ナホーティアの部屋へと向かった。


 ドアの外から様子を伺うと、安らかな寝息が聞こえる。ノックをしても反応が無い。まだ眠っているようだ。


 部屋へと入り、ナホーティアを起こしにかかる。


「おい、ナホーティア。朝ご飯だぞー」


「むにゃむにゃ。もうちょっとー」


 ベッドの上をゴロゴロして起き上がって来ない。以前はこんなことは無かったのだが……。


『マスター。ご心配の通り、これは狂化スキルの影響です。理性が徐々に奪われている為、食欲、睡眠欲に勝てなくなりつつあるのでしょう』


 整理整頓スキルが的確な分析をしてくれる。リーフェのゴミスキルとは雲泥の差だ。


ーー何とかならないのか? 狂化スキルをコピーして、狂化を抑える手段を模索するとか……。


『検討しましたが、それは止めておくべきです。一度発動したが最後、マスターが狂気に囚われる可能性が62%と計算致します』


ーーくそっ、俺に何か出来ることはないのか?


『聖女スキルをコピーしておき、狂化スキルの発作が起きた時に発動させれば、ある程度は抑えることが可能です。狂化スキルと聖女スキルは対極にあるもの。今、ナホーティア様が正気を保っていられるのは、聖女スキルをお持ちであるお陰なのです』


 すると、ナホーティアが突然ガバッと起き上がった。


「ケイブくん……おはよう。えへへへっ」


 言うやいなや、いきなり俺に抱きついてくる。


「お、おい、どうした!?」


「ケイブくん、カッコいいなあって思って……えへっ」


 自分の身体を擦り付けてくる。狂化スキルのせいでナホーティアの筋力がアップしており、振り払うことが出来ない。


『どうやら、今度は性欲に振り回されているようですね。しかし幸いなことに、ナホーティア様は具体的なやり方をご存知ないようです』


 ナホーティアはさっきから身体を擦り付けてくることしかしない。その続きは知らないのだろう。良かったというべきか、残念というべきか……。


 超美少女がとろんとした目で、魅力的な身体を密着させてくる。壮年男子に取っては、なかなか理性を保ち難い状況だ。


 ナホーティアの顔が近く、熱い吐息が頬に当たる。胸がとても柔らかい。プラチナブロンドの髪から石鹸の良い香りがする……。


ーーこれはいかん……。もしここで手を出そうもんなら、俺達四人の関係もギクシャクするし……リーフェに俺の股間を潰す正当な理由を与えてしまう! 聖女スキルをコピーして、発動させてくれ!


『かしこまりました。聖女スキルをコピー完了。マスターのケイブ様に代わり、聖女スキル(劣化版)を代理発動します』


 スキル発動の直後、俺に小さな天使の羽が生え、金色のオーラに包まれた。すると、心の中が慈愛で満たされていく。


ーーああっ、この世の中の何もかもが、愛おしいっ!


 俺の心は、愛そのものになっていた。目に映る全ての物が輝いてみえる。


「うん、うん、良くってよ、良くってよ! ナホーティア! 私の腕の中でお眠りなさいっ♪」


 心の中ではおかしいと思いつつも、オネエ言葉になるのが抑えられない。仕草もクネクネと女っぽくなってしまっている。


『補足しておきます。聖女スキルは強力なスキルの為、発動の度に人格が大きく影響を受けます。簡単に言うと、心が聖女そのものになってしまいます』


 もはや、整理整頓スキルの言葉は俺に届かない。俺はナホーティアを愛でたい気持ちでいっぱいだ。身体を抱き締めて頭をナデナデする。


「うれしいっ、ケイブくんっ、ケイブくんっ!」


「ナホーティアっ! 良くってよ、良くってよ~!!」


 抱きついてくるナホーティアにスリスリと頬擦りをする。俺の心中は愛そのもの。邪な気持ち等一切無い。


 しかし傍目から見ると、あまりにも不可解な状況だ。ベッドの上で、美少女とイチャイチャするオネエ系男子。深く関わらない方が賢明だろう。


 ドアの隙間から覗いていたリミュ、リーフェ、キャロンは、俺達の世界の邪魔をしないよう、こっそりとドアを閉めて立ち去っていった。

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