第14話
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キングウェル王国の王都は人口五百万人と言われる。大量かつ雑多な人種が出入りする、経済、政治、芸術、宗教の中心地である。
学園はキングウェル王国中の貴族の子弟が集まる。基本的には階級によってクラス分けがされるのだが、リハイヘヴン家の寄子であるリミュ、リーフェ、俺も同じクラスに編入される。
そして、寄親、寄子でひとつのパーティーとなって、授業を受けるシステムである。パーティーメンバーは、基本的に寝起きも共にすることになっている。
「おお! なかなか良い家じゃないか。掃除のしがいがあるぜ」
「うん、全員に部屋があっていいわね!」
俺達は王国にあるリハイヘヴン家の借家に着いた。キャロンを含め全員に部屋がある豪華な邸宅だ。日本人の俺としては、浴室が広い事が何より気に入った。
明日は学園の入学式である。
「いよいよ明日は入学式ねっ! ドキドキするなぁ」
「そうだな。他の貴族達には初めて会うな」
「リハイヘヴン家と同等の家格の貴族が同じクラスなのよね? どんな奴らなのかしら?」
「ミュエルハウゼン家、レグシスレイト家、ドナーヴゼーレ家、リーヴェンレイル家、ロイドシャルマン家、ルーラルヴォーラ家、これにリハイヘヴン家を加えて、キングウェル王国の七列卿と呼ばれているわね」
「それぞれに寄子がいるわけだな。面倒事にならないようにしないと、御家同士の争いになってしまうってわけか」
「でも、手出しをされたら黙っている必要はないわ!」
「そうだな。ナホーティアは何としても守らないとな」
ナホーティアは聖女のスキルを授かっている。千年に一度のスキルであり、キングウェル国王からも注目されている為、リハイヘヴン家にとっては大いに政治利用が見込める。
それは逆に、他の七列卿から見れば面白くない事実だ。勢力争いの為に、ナホーティアの邪魔をしてくることは大いにあり得る。
「ナホーティアは、俺が命を懸けて守ってみせる」
「ケイブくん……ありがとう」
ナホーティアが目を潤ませて答えた。一方、キャロンが密かに目を伏せていたことに俺は気づかなかった。
ーーーーーー
「さて、食後の風呂に入るとするか!」
浴室は大変広く、金銀細工の豪華な飾りが随所に見られる。
身体を流す為に、湯を手桶に汲もうとしたところ……
「お坊っちゃま! それはキャロンにお任せください♪」
どこからともなく背後にキャロンが現れ、俺から手桶を取り上げた。
おかしい。浴室に誰もいないことはきちんと確認したはずだ。どんな手品を使ったのか……
「一体、どこにいたんだよ?」
「まあまあ、堅いことはおっしゃらないで~」
「お、おい、ちょっと待った!」
キャロンが身体にお湯をかけてくれる。チラッと振り返ってみると、フェイスタオル一枚で大事な所のみが隠れている状態だ。
豊かな谷間はタオルを持つ手で少し寄せられて、形がより強調されている。頬が赤く染まっていて、目も潤んでいるようだ。
「お坊っちゃまは、最近とてもたくましくなられました」
俺の背中を流しながら、つぶやいた。顔の距離が近いので、温かい吐息が俺の首筋に当たっている。
「あんなに小さかったお坊っちゃま。それが今では雷魔法を使いこなし、オークジェネラルでさえ相手にならない程です」
小さい頃から一緒に暮らしているので、キャロンにとって俺は息子みたいなものなのだろう。しかし、今の俺の心には三十二歳の近藤雄二の意識が住んでいる。どうしても、キャロンを異性として見てしまう。
「キャ、キャロン、もういいよ。あとは俺が洗うから、出ていってくれ」
このままでは、俺の『雷棒』が放電を開始してしまう! いや、むしろ漏電と言うべきか……。
「うふふふふっ」
これまで聞いたことがないような、艶美な笑みを漏らす。ゆっくりと、俺の背中をタオルで洗い始めた。
「忘れてしまったのですか?あ~んなことや、こ~んなことのお世話をすると申し上げたはずですが」
「で、でも、キャロンは俺の保護者みたいなものだし……」
「ふふふっ。そうですねえ……では、保護者としてお伝えしたいことがあります」
俺の背中を洗う手が、ピタリと止まった。
「どうか『影から』ナホーティア様を護って頂きたいのです」
「言われなくても護るが……影からというのは?」
「お坊ちゃまは、天才です。もちろん、ナホーティア様よりも」
先程までキャロンが浮かべていた悪戯っぽい笑みが消えた。キャロンは他の皆に聞かれたくない話をする為に、俺の入浴を邪魔してきたのだろう。
「お坊ちゃまはあくまで執事として、目立たずにナホーティア様を護るべきです。ただでさえ、お坊ちゃまの雷魔法は目立ちます。天賦の才があると解れば、悪巧みをする者の格好の餌食ですよ」
「ナホーティアではなく、俺に目をつける奴らなんているのか?」
「いますよ。確実に。真の悪党とは、金より才を欲しがるものです」
キャロンの目が一瞬だけ氷のように冷たくなった。俺の背筋が少しだけ凍るのを覚える。キャロンは本気で言ってるのだろう。
「ですからお坊ちゃま。何かあった時は、ナホーティア様よりも、ご自身の身を護って下さい」
「そんなことが出来るか! ナホーティアは俺が護ると決めたんだよ」
「……そう仰ると思ってましたよ」
キャロンはそう言うと優しく微笑んで、俺を抱き寄せた。豊か過ぎる胸にずぶずぶと埋もれていく。
「それなら、お坊ちゃまは私が『影から』護ります。どんな時でも。どんな手を使ってでも。そのことだけは、忘れないで下さいね。約束ですよ」
俺の額に口づけをして、きつく抱き締めてくる。なんて温かいんだろう。そして、なんて優しいんだろう。しかし、同時に氷のような冷たい決意が、キャロンの心に息づいているのを俺は感じていた。
その日のキャロンはまるで、温かく、柔らかく、優しく、そして冷たい氷のようだった。
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