第10話
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ナホーティアの魔法儀当日。リハイヘヴン領はお祭り騒ぎになった。
町中で祝福の鐘が鳴り響き、道には露店が並ぶ。行商人や大道芸人達がたむろして、道行く人に声をかける。
魔法儀は成人の儀式でもある。キングウェル王国でも屈指の上級貴族であるリハイヘヴン家の令嬢ともなれば、領地を挙げてのお祝いとなるのも当然だった。
しかも、領民の間で大変声望の高いナホーティアである。祝辞が書かれた横断幕や旗等が、そこかしこの家や店に飾られている。
ナホーティアが天使様と呼ばれていることもあり、天使の仮装をしている民も多い。
魔法儀が行われる教会へ向けて、ナホーティアが乗る馬車がゆっくりと進む。領民の顔を一人ひとり見たいというナホーティアの希望によるものだ。馬車の窓から人々に向けて優しく手を振っている。
道の脇には民衆が大勢押し掛けて、お祝いの言葉と共に、馬車に向かって花を投げる。
時折、光魔法の使い手によって花火のような祝砲が煌めく。
舞い落ちる色取りどりの花びらと光が交差して、街は幻想的な彩りを見せた。
ーーーーーー
「それではナホーティア。こちらへ参られよ」
声をかけたのは、キングウェル王国の国教、リーヴェンレイ教の教主、アイシオスである。
七列卿の次期当主の魔法儀には、教主が立ち会うことが習わしとなっていた。トップであるアイシオスは流石に風格があった。ちなみに、彼自身も七列卿リーヴェンレイル家の当主でもある。
ナホーティアは魔法陣の上に進んだ。純白のドレスに身を包んでいる。女神も恥じらう美しさと清らかさだ。
周囲にはケイブやリミュ、リーフェ、キャロンを始め、リハイヘヴン家に縁のある貴族が集まっている。
もちろん、当主であるテングレスも魔法儀の行方を見守っている。
まず最初は魔法の適正を見極める儀式だ。魔法陣の中央に立ち、目を瞑って祈りを込めつつ蓮華を投げる。
蓮華が落ちた場所によって、どの属性に適正があるのかを見極めるのだ。
ナホーティアが蓮華を上に投げると、花弁が二つに分かれて落ちた。
ーー水と光。
歓声が起きた。光属性が、ナホーティアの性格にぴったりだったからだろう。テングレスも魔法には優れているので、ナホーティアの素質も保証されている。
そして、いよいよスキルを授かる儀式に移る。
「おお、これは、なんということか!」
ナホーティアが水晶玉に手をかざすと、目映い光が辺りを照らした。目を開けていることが出来ないくらいの、尋常ではない光である。
「聖女のスキルが授かりましたぞ! 千年間誰にも授かることあらざりし、聖女のスキルが!!」
リハイヘヴン家からは大歓声が上がった。その昔、大魔導士と共に世界を救ったという聖女のスキルである。リミュとリーフェは手を取りあって喜んでいる。
当のナホーティアは目をぱちくりさせていたが、皆が喜んでいるところを見て、頬を緩ませている。
「さすがは我らが天使様だ! 万歳! ナホーティア様万歳!!」
皆が一様に祝福している。ナホーティアはリハイヘヴン家だけでなく、世を救う光になるだろう。スキルはやがて、所持者の性格そのものになるからだ。
誰もが、ナホーティアへの祝福と愛募の気持ちで一杯になっていた、その時だった。
ぱりん
乾いた音が、聖堂に響いた。
水晶玉が、割れている。
先ほどまでの光は見る影もなく、どす黒く禍々しいオーラが濁流のように溢れていた。
慌てて駆け寄るアイシオスが、驚愕に目を見開く。
「これは……そんな、そんな……!」
「どうした! 何があったのか!」
「スキルが、あと二つ授かっている……なんと!」
「何のスキルだ! 早く言うんだ!」
テングレスも焦りを隠せない。貴族達も不安の色を顔に浮かべながら、アイシオスの言葉を待っている。
アイシオスが暗い眼差しで、重い口を開いた。
「狂化と、呪術士なり」
沈黙が場を支配した。
キングウェル王国で育った者なら誰でも知っているお伽噺がある。
千年程昔、ミファイルトスという大魔導士がいた。ミファイルトスは雷魔術を操り、聖女リンファールと手を携えて世界を救った。
そんなミファイルトスを殺そうとした愚かな悪役もいた。狂化のスキルを持ったガイルディアと呪術士のマリーベである。
ガイルディアが使った狂化のスキルとは、全てのステータスが十倍化する代わりに理性を失くす効果を持つ。
呪術士の使う魔法は詳しく伝わっていないが、敵を深く呪う心を持つことにより、絶大なる威力を誇ったそうだ。
一説によると全ての物体を腐らせる魔法を使っていたらしい。
ガイルディアは狂化のスキルに蝕まれて理性を完全に失くし、ミファイルトスによって消滅させられた。
マリーベも無差別の殺戮を繰り返した後に、ミファイルトスとリンファールによって殺されている。最期は自らの魔術が暴発し、身体が腐り果ててしまったらしい。
狂化も呪術士も、千年間誰にも現れることの無かったスキルだ。それが、あろうことか二つともナホーティアに授かってしまった。
「封印!!」
アイシオスがナホーティアにスキル封印の魔法をかけた。
「我のスキルで、ナホーティアの狂化と呪術士のスキルは封印せり。しかれど、これも長くは持たぬ」
「一体、どうすれば良いというのだ!」
「恐らく、これらは元々魔界にありしスキルなり。 魔王が治める魔界に行けば、何か手がかりが掴めるやもしれぬ」
「わかった。我が配下で手練れの者を向かわせよう。ナホーティア、安心するのだ」
とは言うものの、テングレスを始め貴族達は動揺を隠せない。ガイルディアもマリーベも、歴史に残る程の凶悪な人物なのだ。
そのスキルが、ナホーティアに宿ったということは……
「ナホーティア! 私達は何があってもナホーティアの味方だからね!」
「その通りだ。安心するんだ。私の分析スキルもレベルを上げれば、何か対策が見つかるかもしれない」
「うん、ありがとう! 大丈夫だから、心配しないで」
リミュとリーフェが代わるがわる慰めている。ナホーティアは気丈に振る舞っていたが、唇を噛み締めていることにケイブは気づいていた。
ーーーーーー
ナホーティアを乗せて教会を出ていく馬車に、再び民衆から祝いの花が投げられる。
魔法儀前の美しさとは打って変わって、ケイブは葬式の献花のようだと思った。
ナホーティアは馬車の中で俯いている。ベールを深く被っていて、表情は見えない。
「ねえ、ケイブくん」
「どうした、ナホーティア」
「わたし、お伽噺にあるような、悪者になっちゃうのかな」
「そんなわけないだろ! 聖女のスキルだって授かっているんだから、大丈夫だよ」
「不安で不安で、仕方ないんだ。ぎりぎり耐えていたんだけど、お父様や皆の表情を見ていたら、我慢出来なくなってしまって……!」
「大丈夫だ!心配するなよ、だって……」
言い終わらないうちに、ナホーティアが身を預けてきた。嗚咽が込み上げている。ただでさえ細い身体が、一層頼りなく見えた。
「みんなに、ひどいことをしちゃうかもしれない。大好きな、大好きなみんなに。わたしは、一体どうしたらいいの?」
「俺に任せろ。ナホーティア。俺が命を懸けてお前の側にいてやる。例えお前が狂ったとしても。そして、誰からも愛される聖女になれるよう、護ってやる。約束するよ」
もう絶対に、前世の過ちを繰り返さない。ナホーティアのために、この人生の全てを懸ける。俺のいない所で最愛の人が苦しむのは、もうごめんだ。
「ううっ、うわーーーーーーんっ!!!」
ナホーティアの号泣は領民の歓声にかき消されている。心の叫びを受け止められるのは、ケイブだけなのだ。
ナホーティアの悲しみを無視するかのように、鮮やかな花吹雪が、光を帯びて軽やかに舞う。
祝福の鐘が再び町中に鳴り響く。
ゴーン、ゴーンと。
それは、何かの終わりを告げる音なのか。それとも始まりを告げる音なのか。
それが解るはずもないケイブに出来るのは、ただ、ナホーティアを優しく抱き締めることだけだった。
これにて、第1章は終わりです。
これより小説のタイトルを、以下のように修正します。
異世界転生執事とヤンデレ狂化令嬢~最強チート『整理整頓』で、今度こそ君を幸せにしてみせる~
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