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第9話

 突進してくる数百体のオーク達。俺は逃げることに決めた。全てを殲滅する頃には魔力切れを起こしてしまうだろう。


 全力で走って逃げる。しかし、オークの体力は無尽蔵であり足も早い。


「雷光!!」


 追い付かれそうになったら振り向いて雷光を撃つ。そしてまた走る。この繰り返しになった。


ーーヤバいな、このままだと魔力切れだ。


 そう思いつつ走っていると、前方に人影が見える。どうやらこちらに向かって走って来ているようだ。


「ケイブ! 助けに来た!!」


 バカでかい声で叫ぶのはリミュだ。


 あっという間に俺とすれ違うと、オークの群れに突っ込んでいく。身長の二倍はあろうかという大剣を携えて。


「うりゃああああああああっ!」


 怪力のスキルを持つリミュは大剣を片手で振り回している。想像してみてほしい。中学三年か高校一年生くらいの女の子が、身長の二倍ある剣を使ってオーク達を蹂躙する姿を。


ーーすごい迫力だ。惚れそう。


 俺が女だったら恋に落ちてしまいそうな勇姿だ。


 しかし、普段のリミュは実は繊細で、ナホーティアやリーフェに比べると精神的に弱いところがある。そのギャップも男として惹かれるものがある。


 さらに、今のリミュはびっしょりと汗をかいているようだ。ピンクのキャミソールがぴったりと華奢な身体に張り付いて、身体のラインが際立っている。


 ここで力説しておきたいのだが、美少女と汗という組合せは幾重もの矛盾を内包している。


 まず、美少女は綺麗で清潔なものであるという条件を持つ事は論をまたないだろう。しかしである、そこに汗という泥臭い、人間臭さが加わることにより、何とまあ官能的なギャップが……


「ちょっと! あんたは何をボーッと私のことを見てるのよ! 手伝いなさいよ!」


 リミュはオークだけでなく、俺の妄想も切り裂いた。


「ごめん、ちょっと色んな分析をしてた。ケイブは分析する」


「ふざけてんじゃないわよ! あんたが心配で助けに来たのに。私がオークに犯されてもいいわけ??」


「とんでもございません!」


 慌てて戦闘体勢を取る。リミュのお陰でオークの群れは残りわずかだ。


 ふと見ると群れの一番後ろに、一際大きなオークがいた。


「オークジェネラルね。あいつを倒せば、もうオークは追ってこないはず!」


 残るはオークジェネラル一匹になった。ツインテールをたなびかせ、突撃するリミュ。


 ガキィン!と剣戟の音が聞こえ、鍔ぜり合いになった。


「雷閃!!」


 俺は近距離戦闘用の切り札を発動する。雷のエネルギーを凝縮させて剣の形にした魔法だ。


 雷閃を握り、オークジェネラルに切りつける。あっけなく、首がごろんと落ちた。


 リミュも俺も深いため息をついてその場に座りこんだ。体力も魔力もかなり限界だったのだ。


「やったわね! でも今回は私が来なきゃどうなってたかわからないわよ? 感謝しなさいよね」


 リミュがウインクしながら、いたずらっぽく笑った。


ーーーーーー


 オークジェネラルの耳が揃い、ナホーティアの料理も完成した。


 ナホーティア、リミュ、リーフェ、キャロンと俺で食卓を囲んでいる。


「オークジェネラルのミミガーが美味しいわね! ケイブくんとリミュが頑張ってくれたお陰ねっ。ありがとう」


 ナホーティアの労いは何よりも嬉しい。


「まあ、リミュが血まみれで、オークジェネラルの生首をぶら下げて玄関に現れた時はびっくりしたけどな」


 リーフェは死ぬほど驚いていた。血が苦手なのかもしれない。


 リハイヘヴン家の皆も、俺とリミュの二人でオークジェネラルを討ち取ったことに驚愕しているようだった。中級の冒険者単体では、まず倒せない魔物だからである。


「久しぶりに暴れられてスッキリしたわ! 運動の後のご飯は美味しいわね」


「一応、俺も頑張ったんですけどね~」


「嘘ばっかり! 途中ずっといやらしい目で私のこと見てたくせに」


「同意。たまにケイブから熱視線を感じる。魔法儀が終わった後からそのような目で見られている気がする」


「ケイブくんはそんなことはしないよっ! ねえ、ケイブくん? かわいそうにねえ」


 ナホーティアがよしよししてくる。えへへへへ。リミュとリーフェの言う通りだが、ここはシラを切っておく。


「ナホーティアはケイブに甘いよなあ。言っとくけど、ナホーティアもよくジロジロ見られてるんだからね?」


「そ、そんなわけがあるか!」


 キャロンはニコニコしながら俺達のやり取りを見ている。まだ十代後半だが、俺達といると保護者のようだ。


「ナホーティア様、いよいよ来週は魔法儀ですね! きっと素晴らしいスキルが授かることと存じます。魔法の適正も楽しみですね」


「そうね! 魔法儀が終わってしばらくしたら学園にも通うことになるわね。楽しみだなあっ」


 キングウェル王国では、十五歳になった貴族は魔法とスキルを磨く学園に通うことになっている。


「リミュとリーフェ、ケイブくんがいるから寂しくないしねっ! 神様に、皆とずーっと一緒にいられるようにお祈りしなきゃね」


 でも、きっと神様だって解らなかっただろう。


 こんなに平和な日々が続いているのに。この先も、皆でずーっと楽しく暮らしていけると思っていたのに。


 ナホーティアの魔法儀を境に、俺達四人が過酷な運命を突き進むことになるなんて。

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