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番外編3 山内猛流の場合

僕のことを本当の意味で可哀想とか言ってくれる奴は、いるのだろうか。


「お前さ、北川に振られたんだって?」


「…るせ」


大学の頃の同学科の同期と飲みに行っても、こんな話をされる。


「ってか、なっちゃん、お前にもそんな話したの?」


「いや、北川は何も言ってねーけど、結構有名だぞ?


『北川の方が山内に惚れてたのに、時間が経ったら逆転した』とかよ、ウケるわーとか思って皆広めまくってたぞ」


余計なお世話だ!


「それで?何でお前を振ったんだよ、アイツ」


「…好きな人が出来たんだと」


あの、男の僕から見てもイケメンな人。


なっちゃんのことを愛してるのが、目線だけでわかった。


あれでなっちゃんが気付いてないなんてことはないと思う。


…流石にあの人と戦うのは、無謀ってものだ。


「へぇ、じゃああの誤爆した写真の男か?」


「は?誤爆?」


そんな話、初耳なんだけど。


「北川さ、彼氏に送るつもりだったのかわかんねーけど、すっげーイケメンの男とツーショットの写真を大学のグルチャに載せちまって、すぐ消したんだよな」


そう言って、その時にすぐに保存したと思われる写真をコイツは出す。


「…そうそう、この人」


「お前知ってんだ?」


「…目の前で、カップル誕生するの見たからね…」


「あっ(察し)」


哀れんだ顔で僕のことを見ないでくれるかな?


写真の中で、笑顔のなっちゃんを見てると、昨日のなっちゃんの顔が思い浮かぶ。


と同時に、イラつきも出てくる。


なっちゃんは、僕のことも考えてくれないのか!?!?








「だからさ、たけぽんは私の紹介する子と一度会ってみた方がいいって」


「だから、嫌だって」


なっちゃんに会うたびに、そんな風に言われてて、僕はどんな気持ちでいればいいのか?


フラれた好きだった人に仕事の関係で結構な頻度で会ってて、他の人に会うたびに紹介されるとか、地獄だぞ?


「えーでもさ、たけぽんの好みだよ、間違いなく。


元カノが言うんだから、信じなよ!」


だから!なっちゃんのそういう言葉に僕は傷つくんだって!


…もう、こんなことなら。


「…いつか、会ってみるから、黙って」


「ふーん、ほんと?」


「ホントホント、僕嘘つかない」


「棒読み!」


本当にいつか、その子と無理にも会わせられそうだな、とか思ってたら、それから3ヶ月後に会うことになるなんて、この時の僕は知らなかった。








「では、紹介するね。


こちらは水森沙菜ちゃん。私より学年が一つ下の後輩だよ。


で、こちらはたk…山内猛流。私と大学が同じで、学科も同じだったの」


…遂に、なっちゃんのゴリ押しで、僕とその子の顔合わせが実現した。


「あの、水森沙菜です、よろしくお願いします。」


…確かに、第一印象は僕の好みに近い子ではある。


だからと言って、元カノに紹介されるとかいう訳の分からない事態に納得はしないけど。


「僕は…なっちゃんの紹介があったように、山内猛流です」


僕が『なっちゃん』と呼んだら、なっちゃんは嫌な顔をした。


いつもはいいくせに、この、水森さんに知られたくないのかな?って雰囲気で、


じゃあ僕は『北川さん』とでも言えば良かったのか、なんて考える。


「あの、夏美先輩とはどんな関係で…」


水森さんは、僕の呼び方から何かを察したのか、不安げな顔になった。


「あー、うん、


隠すのもアレだから言っちゃうと、私の元彼なの。


もうとっくに別れて4年?くらいは経ってるし、仕事仲間以外の気持ちないから大丈夫〜」


なっちゃん!?!?


そういう話を僕と初対面の時点で言っていいの!?


「えー…


確かにいい人そうですが、夏美先輩の元彼さんだと思うとちょっと…」


「ごめんて。


でも、二人とも、私の大事な人なのは変わらないし、二人のこと見てるとかなり合いそうな感じだったからさ、


恋のキューピッドにでもなろうかな?とか思っちゃって」


ああ…


ほら、水森さんも気まずそうにしてるよ。


「じ、じゃあ私はこれで邪魔者になっちゃうから、サッサと帰るね〜2人とも、健闘を祈るわ〜」


逃げたな。


…この微妙な状態で置いていくとか、なかなかの鬼畜だ。


「…どうしましょうね」


「なんか夏美先輩が予約してくれた店があるので、そこまで行きますか?」


気まずいまま、2人でその店まで向かった。




なっちゃんが準備してくれてた店は、洒落てるところだった。


…なっちゃんがこんな感じのところを自分で見つけたとは思えないし、もしかしたらなっちゃんの彼氏に連れられたことのある店なのかもしれない。


そう思うと、胃がキリキリする。


「…あの、山内さんは夏美先輩が好きなんですか?」


「え?」


水森さんの僕の顔を窺うようなしぐさに、何だか申し訳なくなった。


なっちゃん…本当に余計なことしてくれたよな!


「…まだ、振られて半年経ってないんだ」


「え!夏美先輩鬼畜…」


「やっぱりそうだよね?僕が変って訳じゃないよね?」


「まあ、でも夏美先輩の性格的に、山内さんのことも気にかけたつもり、なんだと思います」


水森さん、こんなことをされてもなっちゃんのことを悪く言わないあたり、心からなっちゃんのことを信頼してるんだな。


「僕もそう思うけど、あの人はどこかズレてるから…」


「でも、そんあ夏美先輩のこと、好きなんですよね?」


水森さんはニコッと笑う。


「私、本当は夏美先輩からの紹介って聞いて、まだ元彼のことを引きずってるから男の人はちょっと…とか思ってたんですけど」


出されたワインを、水森さんは慣れた手つきで飲む。


「山内さんのこと、まだ私はあんまり知りませんけど、仲良くなれる気がします。


私にもうタメ口使ってますもんね、それだけ心地よく思ってくれてるのかと感じて、嬉しいですよ」


あれ、本当だ…


僕、あんまり初対面でタメ口使うことないんだけどな…


「気分悪くした?」


「全然!だから、私、嬉しいんですよ、これでも」


酔ったからなのか、ちょっと顔を赤くしてる水森さんが、どこかなっちゃんと被って見えた。


…なっちゃんのこと、本当の意味で忘れることは出来るのか?


いや、忘れないといけない。


『ただの友達』に、戻って、お互い笑っていられるようにも。


「僕にも、タメ口でいいからね?」


「え!いいんですか?」


「だからいいから、敬語なんて、使わないで」


僕はそう言って、水森さんに手を差し出した。









「や〜、私って本当に最高のキューピッドだと思わない?」


それから2回目のデートで、僕は水森さんに告白した。


…というより、お互いが合いそうだと思って、自然の流れで付き合い始めた、と言った方が正しいと思う。


こう言ったら言い方が…とか言われかねないけど、なっちゃんは流石に僕の元カノなだけあって、よくわかってると思う。


悔しいけど、認めるしかない。


好きだとお互いに言わなかったからって、僕らの間に別に愛がないわけではない。


好感を持って、一緒に居たいと思ったからだ。


水森さんの、好きなものを食べてる時のあの顔が、本当に可愛かったから。


『これ、山内さんも食べてみて!めっちゃ美味しいの!』


そう言って差し出されたフォーク。


自分が食べたフォークで、間接キスになるとか、そんなことなんて気にしないみたいな様子で、興奮しながら料理を差し出す水森さん。


なっちゃんに似てる、とかじゃない、オリジナルの可愛い部分があっただけでも、他の女の子と違うんだ。


「ね?ね?私に感謝しなよ」


会う度に水森さんのネタで弄られるのが、なんとも言えないというか。


段々、なっちゃんと居ても、あの頃みたいに苦しいと感じなくなった。


…そうだよ、僕はなっちゃんの『ただの男友達』だ。


もう、辛くない。


「…うん、感謝してる」


「あれ?たけぽんが素直なんてホント怪しい〜」


なっちゃんのそんな言葉にも、僕は笑っていられた。








______あれから、4年。


「たけぽん、結婚おめでとう」


息子と旦那を連れて、結婚式に参加したなっちゃんは、またお腹が大きくなりかけていた。


「なっちゃん、ありがとう。あと旦那さんまで来てもらえるなんて」


「どうも」


少し妬いてる様子のなっちゃんの旦那に、僕はコッソリ心の中で笑う。


僕に嫉妬しても、本当になっちゃんとの間には何もないのに。


だからだよ、旦那さんにも招待状を送ったのは。


「ああ、パパがママのこと心配だからって、文哉も連れて行こうって言ったからよね〜文哉〜


…それにしてもたけぽんったら、結婚するまで結構時間かけたよね、私と龍也さんの2倍は付き合ってたよね?」


「まあ、お互いが落ち着いたらとか思ってるうちに今までかかっただけで」


沙菜ちゃんが何だかんだなっちゃんみたいにバリバリ働きたいとか言って、社畜になっていったのを、僕の力じゃ止められなかった結果なんだけどね…。


僕は早く結婚したかったんだけどね。


なっちゃんの子どもに何度も会ったことあって、見るたびに欲しくなったんだぞ。


そんなことをなっちゃんに話したら、『子どもは大変だけどそれを凌駕する可愛さだよ〜!喉元過ぎれば熱さを忘れるとかいう状態だからなのかもしれないけどね』とか言ってたっけ。


何気になっちゃんには『早く結婚しやがれ』コールされまくったよな。


「わっ!文哉がうんちした!オムツ換えないと…」


「俺が行くよ。新婦とも話したいんだろ?」


「そうだけど…いいの、本当に」


「いいよ、行ってきな」


その言葉を聞いたなっちゃんは、「じゃね、沙菜ちゃんに会いに行くね」と言い残して去っていった。


沙菜ちゃんの綺麗なウェディングドレスを一緒に選んだのを思い出す。


____これから隣にいるのが沙菜ちゃんでよかったって、思える日がこれからも続きますように。


僕はそんなことを思いながら、もうすぐ始まる式の準備をした。




fin.

次回の更新は8月28日です。

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