第6話:でっかい蝶はだいぶ気持ち悪い
南の門を抜け、南の草原エリアへ入る。
草原エリアの名の通り、地面は芝生みたいな短い草で埋め尽くされていた。所々に膝丈ほどの長い草むらもある。
爽真が言うには、こういうところにキャタッピが隠れているらしい。
試しに近くの長い草むらにバレットを撃ち込んでみた。
草むらは燃えたしその残骸からキャタッピの糸が出てきた。
「おいおい、急に草むらを燃やしてどうした?」
「“草むらの陰にキャタッピがよく居るよ”は、あの草むらを撃ての合図だろ」
「それはそうかも。俺のフリだったな。反省するわ」
「別に反省はいらんが」
「まぁまぁ。それよりも道中のキャタッピ倒していくならもうパーティ組んでおこうぜ」
「むしろそういうのって最初にやるもんじゃね?」
「忘れてたんだよ」
俺に質問が集まってそれどころじゃなかったからかな。
パーティの承認通知が来たので、許可する。
爽真の名前の上にHPバーが見えるようになった。
パーティを組むと経験値が均等に分配され、ドロップアイテムは攻撃を与えた全員にそれぞれに1個ずつドロップするらしい。
「レベル差による制限とかないの?」
「入る経験値は変わらない。だからパワレベも簡単にできる。ただレベルアップに必要な経験値はレベルが上がるほど高くなるから、いま俺がキャタッピを狩っても経験値の1%分にもならないな」
「ふーん。ならあんまり寄り道しない方がいいのか」
「いや、転職したばっかならまだレベル1だろ?ギルドのクエストにキャタッピの糸集めるのあるよな?」
「熊4匹倒して職業レベルは2になったよ」
「1と2はそんな変わんないって。どうせなら糸集めながら行こーぜ。俺の分もやるよ」
「貰えるなら貰うわ」
序盤で全然ゴールドないから助かる。
今倒したばかりの糸を拾って先に進む。
道中、長い草むらを見つけたらとりあえずファイヤーボールを撃っていった。俺の攻撃で飛び出してきたキャタッピに爽真がトドメを指す。
ファイアーボールの方を使うのはバレットの方だと1撃で死んで爽真が攻撃を入れられないからだ。
なお相手はでっかい芋虫だった。
キャタッピを10匹ほど倒すと、職業レベルは3になって、新たに“バレット-旋”というスキルを覚えた。
炎が風になったバージョンで、威力は炎の方が強いが、旋は魔物をノックバック効果がある。うまく使いこなしたい。
「あんまりプレイヤーいないんだな」
「アルファールは小さいからみんなさっさと次のベータリスに行くんだよ。プレイヤーが店を持てるのもベータリスからだし」
「ふーん。あの遠くの方に走ってる馬に乗った奴は?」
「ライド機能だ。メインストーリー進めたら解放されるぞ」
「オープンワールドならそりゃそういうのも用意されてるか」
「ここら辺は馬くらいしかいないけど、ベータリスならもっといろんなライドがあるんだぜ。そっちは課金だけど」
「課金はいいわ」
なんて話しながら進んでいると、ボスエリアに着いた。
ここは膝下くらいの石?岩かな。とりあえずそこにランキングが刻まれている。ソロの他にパーティのランキングもあった。
《ボス:風纏うパラランモルファのエリアに入りますか?
適正レベル:第1次職Lv.10》
適正レベル、俺は全然足りてないし、爽真は今28レベルと言っていたのでめっちゃオーバーしている。
「全然適正じゃないんだが」
「大丈夫!レベルオーバーした分は調整されるから」
「調整?」
「そう!ノスリの方はそのままだけど、俺のレベルは10になってスキルも装備も制限がかかる」
「へぇ」
つまり俺の方は適正じゃないままなのだが、危なくなったらなんとかすると言われているからたぶん大丈夫だろう。
パラランモルファの特徴を軽く聞いて中に入る。
草が生い茂っているエリアの中に青い羽の蝶がいた。大きさは人ひとり分くらいある。
小さいサイズなら気にならないが、ここまで大きいとなるとなんか、顔と脚がグロい。よく見ると小さい毛が細かく生えているところが特に気持ち悪い。
虫はそんなに苦手じゃなかったけど、これは割と無理かも。
でっかい蝶が風を纏いながらこちらに向かってくる。
「“バレット-旋”」
当たったが、少し動きを緩めた後、すぐにスピードが戻った。
ノックバックしないのかよ。ボスだからか?それとも纏っている風の所為か?
蝶が俺の方へ来る前に、爽真が前に出てて剣で斬りつけ退けた。
上空の高い位置に蝶は移動する。
黄色い粉がふわふわと降ってきた。
「避けろ!」
爽真からの忠告に、走りながら“わかってる”と答える。
事前に聞いた情報では、この蝶は主に4パターンの動きがあるらしい。
こっちに向かってきて、すれ違いざまに風で斬りつけてくる攻撃。
こっちに向かってきて、誰か1人を捕まえて、吸血行為をする攻撃。
上空に上がって、当たったものを痺れさせその場から動けなくさせる鱗粉攻撃。
上空に上がって、いくつもの風の刃を放つ攻撃だ。
風で攻撃する時はキュキュイと鳴くらしく、最初のは吸血、今回は鱗粉とわかる。
蝶が上空に上がってしまった際はなんでもいいから攻撃を当てると高度をしばらく落としてくれるらしい。
爽真は近接職なので俺の番だ。
「“バレット-炎”」
纏っていた風が炎に包まれる。
しかしすぐに火は消えてしまった。だが、さっきと違ってダメージは入っているし、下降してきた。
「“パワースラッシュ!!”」
その隙に爽真が両手剣で横薙ぎの攻撃を与える。
蝶は怯み、纏っていた風が弱まった。
「“ファイヤーボール”」
「こっわ!今俺のスレスレだったんだけど!」
「当たってないだろ」
「え、もしかしてお前補正切ってる?」
「切ってる」
まじかよ、という叫びを聞きながら、キュキュイと鳴いた蝶の突撃攻撃を走って避ける。
命中補正は説明を聞いてすぐに切った。
補正があれば大体の方角が合っていれば勝手に敵に当たるし、自動的にパーティ仲間に当たらないよう軌道を修正してくれる。代わりに当たり方が大雑把になり、弱点を狙えない。
弱点あるって知ったの補正切った後だったけど、とりあえず命中補正がなくても軌道が真っ直ぐって判ってるから自分で当てられるし弱点は狙いたい。
ただ、命中補正を切ると近くのプレイヤーに攻撃が当たる可能性はある。しかしこのゲーム、プレイヤーはプレイヤーをキルできない仕様なので問題ない。
死なないだけでダメージは通るらしいんだけどね。最悪HPが1になるがそこで止まる。
再び上空へ行った蝶に向けてファイヤーボールを撃ち、降りてきたら爽真が剣で攻撃をする。
それの繰り返しだ。
鱗粉攻撃は範囲が広いから避けるのに走らなきゃいけないので大変だ。それ以外の攻撃は避けられるし大体爽真が止めてくれる。
そこまで難しい敵ではない。
HPを残り1割ってところまで削ると、蝶は今までで高い場所まで飛び、その場で大きく羽ばたき始めた。
「やっべ」
「何あれ」
「ノスリ、竜巻くるから死ぬ気で避けろよ!」
「はぁ!?聞いてないが!」
蝶の下には風の渦が2つ発生している。それがこっちに向かってきた。




