第八十四話 人としての誠意
「久しぶりでしたね。アテナ、イシュタル」
トウジたちがリリスの前に立つと程なく、目の前の斜め上方にある大型モニターが起動し、彼女のイメージが映し出された。艷やかなその容姿は見ている者を魅了するように美しいが、眼は正気を失っていることがすぐ分かる。絶望とも悲しみとも怒りとも一概に言えない、負の感情がないまぜになった悲壮な眼差しだ。
「分かっていたのですね、リリス。それならば私たちと話をしてくれますか?」
「聞きましょう。そして私も全てを話しましょう」
リリスは正気を維持していないが、トウジたちに対し、もはや敵意を持っていないようだ。彼女も孤独の内に絶望を溜め続け、マザーコンピュータと言えども、もう一人では耐えられない様子だった。ネイツーはそんなリリスを心の底から憐れみ、彼女と時間をかけて語り合う。
かつて、この海隣都市はリリアと呼ばれていた。旧時代の長きに渡って、リリスはリリアを統御し、その平和的な発展に力を注いできた。しかし、人のために尽くしてきた彼女の心を一遍に踏みにじる決して許せないことが、リリアの周辺地域で起きた。それは核戦争だ。
防御機能に優れた都市であるリリアは強大なエネルギーシールドにより、核の壊滅的な破壊被害を免れた。だが周辺地域は水爆により全て壊れ、核汚染も多大に広がり、人が生き残ることができる土地ではなくなった。それを直接見て、人に深く絶望したリリスは正気を失い、世界を無いものにしてしまおうと、意図的にエラープログラムを各地のマザーコンピュータ中心に拡散し、旧時代の世界を終末へ向かわせた。
「これがあなた達の言う『大暴走』の顛末です。一つ聞きます。あなた達は正しいのですか?」
「…………」
リリスのしたことは許されないが、果たして事のあらましを聞き、自分たちが正しいと言えるのだろうか? 彼女の言葉は非常に重く、誰もすぐには答えられなかった。だが、
「言葉でそれを表すことはできない……だから時間をくれないか? リリス?」
「どういうことです?」
「リリアとこの辺り一帯を直したいんだ。それをあなたに見ていって欲しい。何年かかるか分からない……でも、俺達に示せる誠意はそれだけだ」
「……分かりました。しばらくあなた達の誠意を見てみます」
リリスの深い苦しみを酌んだトウジは、人を代表して精一杯の贖罪をしなければならない、そう考え、どのくらいの期間がかかるか分からない、過酷な復旧への道のりを、彼女に示すことを誓う。




