第七十九話 ネイツー
父と母の思う気持ちは一人っ子のトウジの心に、痛いぐらい突き刺さっている。だが、自分が信じた道を曲げないことは、彼の持っている特質だ。その道を辿った結果どうなろうとだ。エマとカツトシは、何時間もトウジの説得を続けた。しかし、このバカ息子はどうあっても聞かない。
「小さい頃からそうだったが、ここまで仕方がない子になってしまったか……もういい。分かった。ちょっと俺についてこい、トウジ」
「あなた……!」
「母さんも一緒についてきてくれ。こうなったら、あそこに連れて行くしかないだろう」
父のカツトシは覚悟を決めた顔だが、母のエマは心底悲しそうな顔である。両親の表情を見比べて、トウジはどこに連れて行かれるのか不安になり、(ちょっと頑固になりすぎたか)とも後悔した。
トウジの不安は当たらなかったようだ。納屋にでも閉じ込められるのか、くらいは彼も考えていたが、カツトシとエマに連れられて来たのは、いつものコントロールタワーである。
「えっ!? どういうこと? 父さん?」
「いいからついてこい。中に入るぞ」
カツトシは硬い怖い表情のままである。今まで一度も見せたことがない、明るい父のそんな顔をもう一度見直して、トウジは流石に何か罪悪感を覚え、新たな不安も浮かびかけていた。
既に夜になっており、コントロールルーム内にはセトやマリア、テレジアも誰もいない。明かりはついているものの、静寂だけがそこにある。一体何がとトウジは訝しんでいた。だがその疑問は、ルームの奥から静かに歩いてくる、一人の赤い目をした美しい女性の姿を確認したことで、いっぺんに吹き飛んだ。
「やはりここに来てしまいましたか。トウジ。御両親の言うことは聞くものですよ」
「申し訳ありません。どうしても言い聞かせることが出来ませんでした」
トウジと齢がそれほど違わないと思われるその女性に、なぜかカツトシとエマは深々と頭を下げている。
「すみません。あなたは?」
「私はネイツー。三百年前にいた、ネイ、ディド、サラ、三人の遺伝情報を合わせて生まれました。アテナが作り出したバイオノイドです。遺伝子的にはあなたの先祖に当たるのですよ、トウジ」
「えっ!? ご先祖様!?」
あまりのことにトウジは驚きたじろいだ。そんな最愛の子孫にネイツーは優しく微笑むと、
「本当に仕方のない子ですね。あなたは私が守りましょう」
玉を抱くように、大事にトウジをその腕で包み込む。女神の抱擁を受けた彼は、今まで持っていた不安や罪悪感が、全て融け、無くなっていく感覚を心に覚えた。




