第七十一話 結び
ザーフェレジアの前身、フューエルタンクのマザーコンピュータ・アマテラスの場合と同様、シンシアーのマザーコンピュータも大暴走の災厄後、徐々に町の統御機能を維持できなくなっていき、いつかは分からないが休眠してしまったらしい。マザーコンピュータの名はガブリエルという。そのガブリエルが最終維持機能で残してくれた居住に適した部屋が、ここというわけだ。
事のあらましと状況は分かった。ただもう一つ少し気になる点がある。赤い目の少年カイのことだ。トウジには「赤い目」の彼について心当たりがあり、トウジの先祖であるバイオノイド「サラ」の特徴をカイに話した。サラも澄んだ赤い眼差しをしていたのだ。
「そうだよ。僕はバイオノイドさ。生まれてきてそんなに年月は経っていない。カプセル内で眠っていた期間を除いてね」
「ガブリエルが最後に残してくれたもう一つが、カイなの。私のお父さんとお母さんは病気で死んじゃったんだけど、眠り続けていたカイを起こすパスワードを残してくれたの。『永遠の架け橋』……これを入力して彼は起きてくれたわ」
「『永遠の架け橋』か……。リナ、これは偶然じゃないよな?」
「そうね。偶然で一致しないわ」
シンシアーとアテナタウンが『永遠の架け橋』というワードで結びつけられた。この言葉はアテナタウンにおいても最重要な意味を持つ。コントロールタワー内にあるアンドロイドのCPUラインに入るため、必要になるパスワードだ。アテナとガブリエルの関連性は、このことから非常に深かったのではないかと窺える。
シンシアーの最後の住民がニーナで、カイは彼女を支えるためにガブリエルが残したバイオノイドであることが分かった。ニーナが両親を亡くして以後、数年、二人は一緒に暮らしてきたようで、お互い惹かれ合い、若年ながら夫婦のように睦まじく寄り添っている。
(いいわね。最後の二人だからそうなれたのかしら)
ニーナには深い悲しみもあっただろうが、さながら手をつなぎ、笑い合って生きてきたこのカップルは、楽園で穏やかに過ごし続けるアダムとイブに見えた。トウジと自分の関係と彼女たちを見比べ、リナはため息をついている。しかし、なぜそんなため息が出たのか、彼女自身もよく分からなかった。
「それで、お願いがあるんだ。無理かもしれないけど、ガブリエルを何とか直して欲しい」
ニーナとカイにとって、今のシンシアーは二人だけの楽園でもあるが、それには当然、限界がある。元よりそのつもりでトウジは来ている。彼らの未来のために、力強く頼みを受けた。




