閑話②:読者さんに「副音声」まで聞こえてます!?
「先生。また感想、来てますよ」
「えっ!」
先生の手が止まった。
「どれですか!?」
「この前の短編です」
「見せてください!」
「はいはい」
琴波がスマートフォンを差し出した。
先生はすぐに画面を覗き込む。
「…………」
「先生?」
「琴波さん。この方、副音声を聞いてます」
「はい?」
「私、音声なんて入れてないのに」
「小説ですからね」
「そうじゃなくて!」
先生は画面を指差した。
「ここです!」
琴波も画面を覗き込む。
「『娘が邪魔になりました』」
「作中の台詞ですね」
「はい。私が書いたのは、ここまでです」
「そうですね」
「でも、この方には――」
先生が、その先を指差す。
「『娘が家を背負わんとする矜持が、今この時は邪魔になりました』まで聞こえてるんです」
「……なるほど」
「それだけじゃありません」
先生は画面をスクロールする。
「『十年、よく働いてくれました』」
「これも作中の台詞ですね」
「私が書いたのは、ここまで」
「はい」
「でも、『だからその労に対する労いすらない場所へは行かせません』まで、ちゃんと届いてる」
「副音声ですねぇ」
「副音声です!」
先生は嬉しそうに頷いた。
「しかも、この『副音声』って言葉、読者さんの発明ですよ。私が使いたかった!」
「じゃあ、タイトルに使いましょう」
「もう使ってます!」
「早っ!」
先生は、もう一度最初から感想を読み始めた。
「ちゃんと伝わってたんだ……」
「先生?」
「私、全部は書かなかったんです」
「でしょうね」
「お母様に、そこまで説明させたら格好悪いから」
「まあ、あの場面で全部しゃべったら台無しですね」
「だから、言葉は短くしたんです。裏側は作ってあるけど、書かない」
「はい」
「でも、それって読者さんが拾ってくれなかったら、ただの書き足りない文章なんですよ」
「……そうですね」
「だから、私が書いただけじゃ完成してないんです」
先生は画面を見る。
「読んでくださった方が、そこまで拾ってくれて、初めて成立するんです」
「よかったじゃないですか」
「はい!」
先生は続きを読み進める。
「……あ」
「どうしました?」
「私が考えてたところより、さらに先まで読まれてます」
「ほう?」
「王太子は、お母様の言葉を直接聞いてる」
「はい」
「だから、本当は途中で気づけたはずだ、と」
「そう書いてありますね」
「侍女を切るか、侯爵家の手を離すか。まだ選べた。でも選ばなかった。お母様の覚悟を見誤った」
「…………」
「しかも、侯爵様が女性として立ち回ったから醜聞ひとつで済んだけど、王家としては反乱を起こされなかっただけマシなくらいだ、と……」
「先生」
「はい?」
「それ、感想というより、もう考察ですね」
「はい……」
「王太子の立場からも、ちゃんと物語を見てくださってます」
「はい……」
先生は、しばらく画面を見つめた。
「私、あの場面を王太子側から、ここまで見直したことなかったです」
「作者なのに?」
「作者だから、見えないところもあるんですよ……」
先生は、もう一度感想を読む。
「登場人物の一人として、ちゃんと王太子の責任まで考えてくださってるんですよね」
「そうですね」
「それだけ真剣に読んでくださったってことじゃないですか」
「……そうですね」
琴波は少しだけ笑った。
「先生」
「はい?」
「もういっそ、この方に『理系作家』の続き書いてもらったほうが、ブックマーク増えるんじゃないですか?」
「なんでですか!?」
「先生より作品のこと考えてそうです」
「私だって考えてますよ!」
「でも先生、さっきから『なるほど』って顔してますよ」
「読者さんの読みから気づくことだってあるんです!」
「じゃあ、共同執筆で」
「嫌です!」
「ブックマーク増えるかもしれませんよ?」
「…………」
「先生?」
「……それは、増えるかもしれませんけど」
「認めるんですか!?」
「だって、この方、すごく読み込んでくださってますし……」
「じゃあ決まりですね」
「いいえ!」
先生はスマートフォンを両手で持ち直した。
「共同じゃなくていいんです」
「はい?」
「この方が読んでくださるなら、私は、この方の読みに見合うものを書き続けたい」
「…………」
「次の話も、その次の話も、ちゃんと裏側まで作って」
先生は画面を見る。
「書かないところまで、ちゃんと作っておきたいです」
「先生」
「はい?」
「今、ちょっと格好よかったです」
「でしょう!」
「自分で言わなければ、もっと格好よかったです」
「えー」
「でも、返信もずいぶん丁寧に書いてましたよね」
「あれは本心です!」
「知ってますよ」
琴波は頷いた。
「で、ブックマークは?」
「…………」
「先生?」
「ブックマークが増えたら、こういう読者さんに、もっと出会えるかもしれませんし」
「急に動機が綺麗になりましたね」
「…………」
「先生?」
「……八割くらいは、純粋にブックマークが欲しいです!」
「台無しです!」
先生は、にっこり笑った。
「綺麗で最低なオチでしょ!?」
「アンタがそれ言うな!」
※今回のお話は、実際にいただいた感想をもとに書かせていただきました。
「副音声」という素敵な表現までお借りしています。
本当にありがとうございます!




