閑話①:先生、レビュー来てますよ!
「先生」
「はい?」
「レビュー来てますよ」
「…………」
先生の手が止まった。
「先生?」
「今、なんて?」
「レビューです。先生の短編に」
「…………」
「聞こえてます?」
「琴波さん」
「はい」
「もう一回言ってください」
「レ・ビ・ュー! 来てますよ」
「レビュー来たぁっ!」
「うるさい!」
先生は机に置いてあったスマートフォンをひったくった。
「どれですか!? どの作品ですか!?」
「『娘が邪魔になったので、三十四歳の私が王太子妃になります』です」
「あれか!」
「あれです」
「どこ!? どこにレビュー!?」
「落ち着いてください!」
「無理です!」
「十万部作家でしょうが!」
「それとこれとは別腹です!」
「もう聞き飽きましたよ、その言葉!」
先生は慌ただしく画面を操作した。
「あった!」
「逃げませんから、ゆっくり読んでください」
「…………」
先生が黙った。
画面を見つめる。
「『娘の婚約者を奪おうとする母親』」
「タイトルですね」
「…………」
先生はそのまま読み進めた。
「『王太子でも聖女でも義妹でもなく、母親が? なんで?』」
「はい」
「…………」
「先生?」
「ちゃんと『なんで?』って思ってくれてる……」
「そこですか?」
「そこですよ!」
先生が勢いよく顔を上げた。
「そこが一番大事なんです!」
「はい?」
「話の内容が分からない『なんで?』じゃないんです。お母さんが娘の婚約者を奪おうとしてる。それは分かる」
「まあ、タイトルの時点で分かりますね」
「でも、なんで母親がそんなことするのか分からない!」
「なるほど」
「状況は分かる。でも行動の理由が分からない。だから続きが気になる!」
「先生」
「はい?」
「急に分析を始めないでください」
「あ」
「レビューですよ。喜んでたんでしょう?」
「喜びながら分析してます!」
「忙しい人ですねぇ」
先生は再びレビューへ目を落とした。
「……『意味が分からなくて、冒頭から引き込まれてしまう』」
「褒められてますね」
「はい!」
「よかったじゃないですか」
「はい!」
「…………」
「…………」
「先生?」
「まだあります」
「読めばいいでしょう」
「…………」
先生が続きを読んだ。
そして、止まった。
「……琴波さん」
「なんですか?」
「『発想の勝利ですね』って」
「書いてありますね」
「発想の勝利……」
先生はしみじみと呟いた。
「嬉しいなぁ……」
「そこまで喜びます?」
「喜びますよ!」
先生はスマートフォンを胸元に抱えた。
「だって、この人、読んでくれたんですよ」
「ええ」
「最後まで読んで」
「たぶんそうでしょうね」
「それで、面白かったって思って」
「はい」
「わざわざレビューまで書いてくれたんですよ?」
「そうですね」
「…………」
先生はもう一度、レビューを開いた。
「ありがたいなぁ……」
琴波は小さく笑った。
「よかったですね、先生」
「はい」
「…………」
「…………」
「先生?」
「はい?」
「何回読むんですか?」
「まだ四回目です」
「数えてるんですか!?」
「レビューなんて、何回読んでもいいでしょう!」
「いいですけど!」
「永久保存します!」
「消えませんよ!」
「スクショも撮ります!」
「好きにしてください!」
先生は嬉しそうにスクリーンショットを撮った。
そして――。
「…………」
「先生?」
「ちょっと気になることが」
「嫌な予感がします」
「このレビューなんですけど」
「はい」
「『発想の勝利』って書いてありますよね」
「書いてありますね」
「…………」
「なんです?」
「文章は褒められてませんよね?」
「そこ気にするな!」
「いや、だって!」
「『とても面白かったです。おすすめです』まで書いてあるでしょうが!」
「でも、『発想の勝利』ってことは、発想以外は――」
「余計なこと考えるな!」
「気になるじゃないですか!」
「さっきまであんなに喜んでたでしょう!」
「喜んでますよ!」
「だったら素直に喜んどきなさい!」
「はい!」
「返事だけはいいですね!」
先生は、もう一度レビューを開いた。
「……琴波さん」
「今度はなんです?」
「もう一回読んでいいですか?」
「好きなだけ読みなさい」
「はい!」
先生は満面の笑みで、五回目のレビューを読み始めた。




