8話・特対vsフクロウ怪人
負債になった睡眠が瞼を強制的に落とした時、特殊生物発生の警報が鳴った。
こんな時間に、と思ってスマホの時計表示を見るとまだ二十一時にもなっていなかった。
地下の本部に向かってエレベーターに乗って、すぐに着替えて輸送車に乗り込む。
向かう場所は、箱根火山研究所。
大涌谷の観光地から離れた山の中腹にある最新の観測機がある火山研究施設だ。一般人が見学できる展示もあるようで、ロープウェイで行き来も出来るらしい。
私だけを乗せた輸送車が山道を登っていく。
護塔先輩と透馬くんは先にバイクで向かっていた。車が通れない狭い山道を踏破して最短距離で進むと言って。
──私も乗れれば。
アーマーの首元の生体認証に触れる。素肌に吸い付く感覚と共に、ほのかな暖かさを感じる。輸送車の中にいるのがもどかしい。
私だけがバイクに乗らないのは、螺山局長が女の子がバイクに乗るのは、と反対したせいだった。
彼らしくなく時代錯誤で、でもきっと私を父の子だからと可愛がってくれているからと頷いた。
それが今、こんなにももどかしい。
森の中の拓かれた道路を輸送車が走っていく。
ケーブルの半ばにゴンドラが止まっている様が、影絵のように黒く見えた。
モニターで確認されたのは、鳥型の怪獣。
今にも取れそうな皮一枚で繋がった顔をギョロリと動かして施設周辺を飛んでいた。
パソコンの映像で映っている怪獣の姿を確認する。
『鳥型の怪獣です。特徴的には梟かと』
インカムから聞こえた本部からの声に、昔動物園で見た梟の姿を思い出す。つぶらな瞳で、顔をぐるっと回す、警戒心を隠したふわふわの羽毛。
『そして、おそらく』
赤外線画像に切り替わると、建物内部の誰も映っていないはずの場所に、青く、人の輪郭があった。
『怪人がいます』
ふう、と吐いた息が思っていたよりも重たいものになった。護塔先輩、とインカム越しに呼びかける。
「手、大丈夫ですか」
「着いたら腕と銃をテープで巻く。心配いらね、トリガーさえ弾けりゃなんとかなる」
「了解です。無理をしないようにしてください」
そう言ってインカムを切った。パソコンのモニターでヘルメットをつけた護塔先輩と透馬くんの視界を確認すると、建物が目の前に見えていた。
──どうか。
無意識に願いを孕んでしまった心に気付く。どうか? 自分を問いただして眉間を揉む。
怪獣を倒す。怪人を倒す。──それだけだ。
そして輸送車が、研究所の前で止まった。
バイクを降りた二人に合流して、横に広い造りの研究所を見る。
『内部に怪獣は確認できません』
その言葉を裏付けるかのように、研究所の上空を大きな鳥の影が飛来していた。
「外側から撃ち落としてくぞ」
「了解」
「ラジャ」
護塔先輩に返事をして、銃を構える。
鳥怪獣が突然現れた私たちを威嚇するように、研究棟のアンテナ線を引きちぎった。金属片が開始の合図のように夜空に舞う。
「……発射」
私たちが光学パルス弾を放つと夜空が一瞬白に染まった。キイ、と黒板を引っ掻いたような嫌な音が耳について飛んでいた鳥の軌道が乱れる。あっという間に元の暗闇が白を暗闇が貪る。
「外しました」
星の代わりに光る赤い目が、私たちを捕捉した。
「下手くそ」
護塔先輩の呟く間に、鳥の影が迫る。それは近づくほど大きく、大きく──私たちを貫かんとする速度で。
護塔先輩がトリガーに手をかける。
「こうだ」
ぱん、と乾いた音が鳴り響いた。凄まじい速度で迫っていた影が曲がり、音を立てて地に落ちる。衝撃音をたてて落下した体は、吹いた風に崩され灰になっていく。
「これが見本な。狙っていけよ後輩ども」
護塔先輩の言葉に「はい」とした返事は、発砲に合わせたノイズになって消えた。
私たちが敵だと分かったのか、空に浮かぶ赤い目が私たちを捕捉した。耳障りな甲高い悲鳴にも似た鳴き声が耳をつく。
飛翔を用いた回避に照準が定まらない。今だ、と狙いを定めながら当たれ、と願いを込める。外れ、梟怪獣が突撃してくる。こちらに向かって急降下してくる。
「撃ちます!」
もう一発撃つ。羽を掠めたのか軌道を逸らした怪獣は再び急浮上した。
「撃つ」
そこを護塔先輩が撃ち落とした。宣言と共に白く染まった後に、灰が落ちる。護塔先輩が向かってきた怪獣にもう一撃放ったが、それは器用に避け、また空中に飛来する。赤い目が私たちを見下ろす。
「クソが」
けれどこちらを狙って降りてきてくれるならやりやすい。再び怪獣がこちらに向かってくる。
狙いは、
「透馬くん!」
凄まじいスピードで怪獣が迫る。透馬くんが銃を構えるが間に合わない。
「ってぇい!」
咄嗟に透馬くんは銃を背に回して、怪獣を両腕で受け止めた。そのまま怪獣を掴み、地面に向かって勢いよく叩きつける。
地面が割れて、梟怪獣の体が砕ける。
「この方が僕いいかもです!」
インカムで聞こえた声はハリがあった。
「うわ、脳筋……撃つぞ!」
護塔先輩の声と共に、夜空が白く染まる。嫌な鳴き声が響く。こちらに向かってきた怪獣に、私も狙いを定めた。
「発射します!」
先回りだ。さきほど外した経験から梟怪人の軌道上に照準を合わせて撃った。地に落ちた影に、やった、と短い息を吐く。もう一撃。
僅かに歩み出た私の背後に、何かが落ちた。──いや、降りた。
「おてんばさんなのね」
聞こえた声は低いのに女の媚びをはらんでいる。くねったその声が聞こえた瞬間、手首が打突され銃が落ちた。
「いっ!」
顔を顰めた時には、両腕が捻りあげられていた。無理に曲げられた痛みに耐えながら背後の気配に意識を凝らす。
「捕まえたあ」
横目に見た顔は、突き出るところがバランスよく尖った綺麗な男の顔だった。
「ミャー子ぉ!」
「ミャー子先輩!」
二人の声が、応戦する声と音に掻き消える。私は目元に力を入れる。
「怪人……!」
赤い目に私が映る。リップを塗ったような赤い唇が、にっと笑った。
「そ。あたしもあなたたちが怪人と呼ぶ一人なのよお」
女言葉の割に身長はずいぶん高い。黒髪に派手な金色のメッシュ、首元にファーがあってまた豪華な飾りをつけている姿こそ細身だが──
「フクロウ怪人ってとこかしら」
巨大な羽があった。
『珠弥子さん!』
私の耳元から聞こえた声に反応するように、巨大な翼がばさりと動いた。
私の腕を片手で掴みなおす腕には男の、それ以上の力があった。普通の男の人の腕ならこのアーマーを着ていれば降り解けるはずだ。ご丁寧に付属品まで付いてる、明らかな人外。
「……復讐ですか」
「はあ? なんの話ぃ?」
人外なのは顔の造りもか。見たことのないと思うほど長いまつ毛のついた赤い目を、本当に意外だったようにぱちくりとさせた。
「……ああ、あの子たちのことぉ? いや別に、そんなの思ってないわ」
そうだけどそうじゃない。今まで殺した怪獣から人類への、とか、思ったけれど。合点が言ったように頷く顔は余裕そうだ。
「私は醜いことはしないわぁ。欲しいものはもう取ったしぃ」
そう言うと空いた片手を私の目の前に出した。黒い手袋で包まれた指先には──USBメモリ。
やられた。何かデータを取ったんだ。と思いながらそれぐらいの知性があることに恐怖を覚える。
獣じゃない。獣に不釣り合いな、何か目的がある。
どうするつもりかと聞こうと口を開くより早く、梟怪人の口が開いた。
「あと、あなたね」
「は?」
理解し得ない言葉に口を開いたその時、ぐっと脇の下に手を入れられ体が宙に浮いた。
「な」
なにを。なにが。
「ヘルメットをとりなさい」
疑問だらけの頭に、聞こえた言葉がうまく処理できなかった。
「聞いてるの?」とフクロウ怪人が整った顔に皺を寄せた。
「その頭を包んでる無粋なものを取りなさい」
そう言われてやっと、標的の言葉が私だと気が付いた。取るわけない。浮かび上がらせられて、自由を奪われそうな今、|装備品は生命線だ。
「ここから何回も地面にぶつけて頭蓋骨ごと砕いてもいいのだけれど、それじゃあボスの意向を外れるわ」
「ボス?」
「あらやだ。で、どうするの?」
わざとらしく口を塞いでから歪んだ口元。
「あたしはあいつみたいに優しくないわよ」
──あいつ。
それが何を、誰を示しているかすぐに理解した。
同じ赤い目。金色の髪。
黙ってヘルメットを外すと、無遠慮に顔が近づけられて鼻がぶつかりそうになる。
「悪くない顔なのに、いただけない目つきね」
皮肉の一つも返したい気持ちだったが黙る。手に持ったヘルメットを奪われる前に投げる。
「透馬くん!」
「わっ! とっと」
怪獣を投げ飛ばした後の透馬くんが私のヘルメットを受け取る。怪獣の翼が当たった護塔先輩が銃を落とした。
「護塔先輩!」
「女とデートなんてごめんだけどねえ、しょうがないわね。……大人しくしなさいよ」
最後の一言だけ、男の声の太さを孕んでいた。
体が硬くなった瞬間、浮上する。すぐそばで聞こえるはずの羽音が心臓の音に負ける。
高所の風に口の中に髪の毛が入る。湖上にいる。
影は水面の闇に吸い込まれて見えない。
ロープウェイのケーブルが目の前に迫って、フクロウ怪人が笑った。
「ばあい。アタシは後片付け〜」
「なっ!」
一瞬だった。
ぶんっ、と。ロープウェイのゴンドラの中に物のように投げ飛ばされた。
後片付け。それって。
地上に置いてきた二人の状況に思いを馳せる前に、私の体が宙に浮かんで、次に背中に感じた衝撃は存外に柔らかかった。
「うおっ! 飛び込んできたね」
──この声。
「子猫ちゃん」
反射的に離れようとすると、おっと、と言って手を掴まれた。
腰に手が添えられる。冷たいはずだった。
なのに布越しに触れると、それが冷たくても温かいと感じてしまう。
「危ない、落ちるよ……離れないでよ、せっかく会えたのに」
──サソリ怪人。
すぐそばに顔が会った。赤い目を縁取る長いまつ毛、なだらかで高い鼻と、頬の輪郭。その顔は甘い線で構成されていた。
「離れてください」
昂った心臓が飛び出やしないか。やっと体は自分のものになった、地に足がついた。……落ち着け。冷静に。
手を振り払おうとすると、いっそう強く掴まれた。
「えー、つれないなあ」
それからパッと手を離される。身を捩っていた反動そのまま後ろに引き、精一杯距離を取ると、やっぱり笑った顔をしていた。
「踊ろうよ、人間ってこういうとき踊るものでしょ?」
何を言ってる。ふざけたことを。
「あなたは人間じゃないでしょう」
「うーん。どうなんだろう」
考えるような表情は、意外だった。
「まあそうだよね」
そう言うと、私のつま先から頭の先まで品定めするかのように眺めて、それからやっぱり、笑った。
「で? もしも俺が人間だったら踊ってくれた?」
「愚問です」
あなたが人間ではないから。
「……あなたたちの、目的はなんなんですか」
「えー? 俺も薄ぼんやりとしか知らないんだよねえ、ほんと」
「幹部なんじゃないんですか」
「あっ、俺と話したこと覚えててくれてるの? うっれし」
「ふざけないでください」
「ふざけてなんかないよ」
急に声のトーンが下がった。向けられた眼差しは静かなのに、なぜか体が跳ねた。──目の色のせいだ。
この、人外の、赤い目の。
「ほんと、俺、ふざけて話したことなんてないよ。君に言った言葉は全部、本音」
怪人は、だから、と前置きして座った。
組む足が長いことが不服だ。そのまま顎に手を当てる仕草に、金色が踊るようについてくる。
「きみは俺の質問に、何一つ答えてくれてないよ?」
質問。今までされた質問。
──きみのことは誰が守ってくれるの?
──罪人か何かなの? 贖罪としか思えないんだけど。
腹立たしいことに、思い出せる。
「……前の」
口を開いた私に、怪人が耳を傾けている気配が伝わった。
うん、と聞こえた相槌が優しく感じて──人間だと思ってしまいそうになる。
「前に言ってた、私のことは誰が守ってくれるのかって」
「うん」
「私は」
ゴンドラの中に風が入ってくる。いつもそうだ。その風が私の心をざわめかせる。
「私のことを、自分で守ります」
──だから。
サソリ怪人から目を離さないまま、後ろに下がった。背中に触れている暴れ狂う風の冷たさも感じない。
「え!?」
──私は、連れて行かれるわけにはいかない。
目を開けたまま、後ろ向きに、体をゴンドラの外に宙に放った。
「ちょっと!?」
捕まるより、こうなったほうがマシだ。
連れて行かれるか、落ちるか。
アーマーを着けている体が、水面への落下の衝撃に耐えることに賭けた。
自分から落ちた方がましだ。そう決めたのに、きゅっと体が縮んだ。背中が重力に従う。
スローモーションみたいに見える。
目の前にいるサソリ怪人が駆け寄る。
わざわざ膝を擦って手を伸ばす。届かなくて私の口が笑う。
視界の焦点が合うサソリ怪人の体の輪郭がどろりと溶けて、サソリ怪獣になり──鋏の腕が、私を掴む。
「離し、てっ!」
鋏は牙のようにギザギザしてて痛い。急に現実に引き戻された気になる。
藁にも縋るという言葉がある。頼りないものという例えだ。これが藁なら、どれだけ優しいか。助けられて──こんなに痛くならないのに。
鋏が振り上げらて体が宙に舞う。飛び降りたゴンドラの中に乱暴に戻されて尻餅をついて倒れ込むと、顔の横に腕が置かれた。
「きみ死んじゃうよ!?」
金色の髪がおでこに触れて、吐く息が鼻に掠めた。
「この高さから落ちたら、死んじゃうに決まってるでしょ!」
床に押し倒されると腕の中に閉じ込められた。今まで見たことない必死な顔をしている。
頬に感じた冷たさは多分唾で、ずいぶん人間臭い。綺麗なマントが床についている。どうしてこんな必死に。この怪人は──彼は。
「……人間は、違う生き物は殺すしかないんです」
「違うよ。殺すか、愛するか──だよ」
なにそれ、と思った。
そんな優しい答え。愛を知っているような人間らしい答え。なにそれ。
「そんなに俺のこと嫌いなんだね」
──そんな傷ついたみたいな、顔をして。
そうじゃなくて。そうじゃなくてと思う。そうじゃなくて、って何?
この見た目に絆されそうになっている自分に気がつく。
サソリ怪人がゆっくりと立ち上がる。男の体躯が私の上から退いたのを見て、私も身を起こす。
「おいで」
眉を下げて、手を広げられる。近づくわけがない。警戒を表情に隠さず半歩後ろに下がっても、サソリ怪人は体勢を変えなかった。
「何もしないよ。ほんと」
そんなわけないでしょ。──敵なのだから。
「きみはここから降りられないでしょ? 人間だから」
まるでそれは、降ろしてくれるかのような。──逃してくれるかのような。
閉じ込められたこの空中の箱の中で、確かに私には逃げ場はなかった。このまま時間が経てば梟怪人が戻ってくるだろうか。いやきっと二人が倒してくれている。
……けど、護塔先輩は負傷している。先ほどの外された軌道を思い出す。その腕で戦っている。
──ならば。
目の前の姿を信じるしか、ない。
歯を食いしばって歩み寄ると、少し腰を曲げて、私の膝の後ろに手を入れて抱え込んだ。反射的に肩のあたりを掴んでしまった自分に気が付いて、その顔を見上げる。
目も合わせてくれない。
違う、そんなふうに思っちゃだめだ。私の態度は間違ってなかったのに──いや今まさに間違ってる。
目を合わせてれくれないことに胸が痛むなんて。
ばかだ。私は。間違ってる。この思考を否定して、そもそも、と自分の行動を遡る。絡む思考とは反対に、サソリ怪人の言葉はシンプルだった。
「行くよ。しっかり捕まって」
そう言うと、私が身を投げたゴンドラの開いた扉から飛び降りた。
「わっ!」
落下というよりは、高い跳躍。重力を無視するような曲線。
数秒の滞空時間だったと思う。夜空に舞う金色の毛先が流れ星みたいに見えた。
着地の数秒前、私を包む手が溶けた。それは蠍の鋏の腕になって、私を包んだ。腕に触れる、ざらざらとした硬い攻殻。
強い衝撃音とともに、八本の足で着地した。なんの痛みもない落下と着地。
木々が少し開けたその場に、サソリ怪獣は鋏を下げて私を下ろした。
八つの赤い目が、静かに私を見ている。
「いいんですか」
木々の音の合間に耳を澄ませても、サソリ怪獣は答えない。──ずるい。
「ねえ」
語りかけても、恐ろしいサソリ怪獣の姿のままで、八つの赤い目は答えない。自由に変態できるはずなのに、言葉を交わしてくれる姿にはなってくれない。そのことが、ずるいと思った。
「……あなたの」
けど聞こえているはずだ。
「あなたの、名前は」
──きみは俺たちに名前をつけてくれていたの?
どうして、彼と交わした言葉は思い出せるんだろう。
木々を揺らした風が葉を落とす。
「そんなこと聞かれたら、俺」
サソリの殻が黒く溶けて、人間の姿を形作る。眉を下げて、甘い目を垂らして──言った。
「……俺、きみに嫌われてないって思っちゃうよ」
「あなたのことは」
月を映した金色の髪。煌々と輝く赤い目。
「アンタレス」
名前は存在を定義づける。意味があって背景があって──
「あなたのことは……怪人アンタレスと」
──あるいは願いがある。
「……呼ぶことに、します」
木々の隙間から嫌でも星が見える。躊躇いがちに区切った言葉は、しっかり聞こえていただろう。
「ありがとう」
赤い目を細めて、微笑み一つ残して消える姿に、もうなんの言葉もかけられなかった。
夜空に輝く蠍座の一等星は、赤い星、さそり座の心臓。
姿が変わる、あの冷たい体に、心臓はあるのだろうか。
「ミャー子! 無事か!?」
声と共に、鋭いブレーキ音がして振り返った。護塔先輩はテーピングで手を銃を巻きつけたまま片手で器用にバイクを止めた。
「護塔先輩」
後続のバイク音が聞こえたと同時に、手を振る透馬くんの姿が見えた。「ミャー子せんぱーい!」
その姿に安心して、護塔先輩に迫る。
「梟怪人は!?」
「俺のこと散々おちょくって消えてった。クソむかつく」
ちっ、と護塔先輩が舌打ちをしたところで透馬くんがバイクを降りた。
「僕のことなんか見えないふりしてましたよ!? 目合ったのに!」
そうなんだ、と透馬くんに答えた声は場にそぐわない笑いを含んでしまった。私の様子に、二人は顔を見合わせて、それから透馬くんが歩み寄ってヘルメットを渡してくれる。
「戻るぞ」
護塔先輩の言葉に頷いて、ヘルメットを脇に抱えた。
「そうですね」
その後、本部に戻った報告会議で怪人の呼称が決定した。
サソリ怪人──怪人アンタレス。
もう一体は、局員たちがつけた。
「それに伴って、フクロウ怪人はノクチュアと呼称」
夜に現れる星座。梟座の別名、ノクチュア。
頷いた私たちの前で、局員が告げる。
「怪人ノクチュアの行動を鑑みて、人間側に害をなすことは認められています。……引き続き討伐の対象として、戦闘員各位、よろしくお願いします」
はい、と返事をして本部を後にした。まだ心臓の鼓動が乱れている気がする。眉間を揉んだ。
湖上で波紋を見た気がする。あの腕に抱かれて、落ちながら。
──俺、君に嫌われてないって思っちゃうよ?
嫌いとか好きとかそんな問題じゃない。どうして。悲しそうな顔して笑ったの。
人間は、違う生き物を殺すしかないのに。私はあなたを、あなたたちを倒すことが義務なのに。なのにどうして思い出す。
どうして私を守ったのと、疑問を感じてしまえば抜け出せなくなりそうで、オパールのネックレスを握って、掠めた息の熱さを忘れようとした。




