3話・特対の日常
『2037/11/2青梅気象観測台 呼称:ヒミズ怪獣
被害 死者15人 重軽傷者3人
青梅気象観測台全壊 移転後再建築
2038/1/3羽田物流倉庫 呼称:ネズミ怪獣
被害 死者3人 重軽傷者2人
倉庫一棟破損
2038/2/7川崎臨海コンビナート 呼称:アライグマ怪獣
被害 死者1人 重軽症者4人(戦闘員1人を含む)
工場内一部火災 修理中
2038/2/13首都高速換気施設 呼称:ヨザル怪獣
被害 死者0人 軽傷者5人
高速一部停止 修理中
2038/4/26新東京電気協会 呼称:マムシ怪獣
被害 死者0人 重軽傷者2人
スーパーコンピューター一台破損
2038/4/31横須賀湾燃料基地 呼称:ハクビシン怪獣 被害 死者0人 重軽傷者12人
燃料備蓄タンク三基破損 アメリカ軍への補填対応中』
──生身で発砲する銃の反動にまだ慣れない。
「命中率82.7%。お疲れさまです、珠弥子さん」
ガラスの向こうで見ていた局員の声がインカムから聞こえて、弾が当たった的を見ながらゴーグルを外した。
練習用の銃を置き狙撃シュミレーション室から出た私に「そういえば」と先ほど声をかけてくれた局員が言った。
「珠弥子さん、高三ですよね。どこに進学するの?」
「あー、それは」
言いかけたところで、シュミレーションモニター室に護塔先輩が入って来る。
「おっ、護塔くんも狙撃の練習? 偉いね」
「だるいけど、練習もしろって言われて」
そうですよ。と過去の自分を肯定するように言おうとしたところで、護塔先輩が呟くように言った。
「俺の大学」
「え?」
視線も投げられずいきなり言われて首を傾げる私の前で、護塔先輩が「進路」と続けた。私の話か。
昔からわりと決まってまして、と言おうとしたところで、局員が頷きながら手を叩いた。
「護塔先輩くんの大学いいよ。僕は火山研究室に入っててね。教授がその道の第一人者で、すごい勉強になったよ」
「え、あ、ああ……」
護塔先輩の大学どこだったっけ、と思っていると、局員が近くの都立大の名前をあげた。確か春に先生から勧められた大学のリストに入っていた気がする。
護塔先輩は、あくびをしながら狙撃練習用のベストを着用する。
「オーキャンあるぞ。昼も夜も」
「夜も?」
「おう。ナイトオープンキャンパスっつって、授業外の学生の活動見れるやつ」
私の疑問に答えてくれた護塔先輩の言葉に、そうなんですか、と答えながら、でも夜は怪獣出現に備えて待機しなきゃいけないしなあ、と考えていると、局員が身を乗り出した。
「それいいねー! 大学生が授業がない時間何してるのかってイメージ湧くし。ありのままを見られるからね」
「まー、自由過ぎますけどね」
護塔先輩が喉の奥で笑って、それから肩を回す。
「昼のオーキャンも行きつつ、そっちもいいんじゃね?」
「けど夜は、待機していないと……」
それに私、大学には、と続けようとしたところで、護塔先輩がやれやれと大袈裟に頭を振る。
「あーあー。出たよ。出るとは限んねぇだろ。実際五月入ってから出てねぇしよう」
「今出るかもしれないじゃないですか」
「おま……」
私の言葉に、護塔先輩が引き攣った顔をした。
「そんなこと言ってたら出るだろ」
一瞬、間があった。
『警告、警告。特殊生物発生』
皆が作った沈黙を、警報音が破壊した。
『戦闘員は至急出動してください。繰り返します──』
「あー、だり」
さっきよりも大きな仕草で、護塔先輩は頭をかいた。黒髪は乱暴な仕草をされた割に、するりと重力とキューティクルに屈して戻っていく。
「フラグ回収はや」
起きた事態にフラグ回収も何もない。ただの事実で、出現だ。
「行きましょう」
「はいはい。わあってるよ」
護塔先輩が、せっかく着たのに、と言わんばかりの大仰な手つきでベストを脱ぐと、局員がすかさず受け取った。
「護塔くんは命中率シックスナインだからね。今日もみんなが信じてるよ、ヒーローたち」
はいはいと言わんばかりの仕草で護塔先輩が手を挙げる。私は会釈をして、警報音が鳴る廊下を護塔先輩を急かしながら進みだす。
「怖くねぇの」
エレベーターの中で、護塔先輩が言った。
「こんな話をしたあとに」
こんな、とは、未来、ということだろうか。落ちていく感覚に体を預けながら答える。
「……怖くありませんよ」
女といえど、私も役割はヒーローだ。
「信じてもらってますし。信じてますから」
私が背負っている、大多数の正義。




