↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日曜朝はきみに会えない〜人外×ヒーロー少女〜  作者: 三川七三


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/13

2話・珠弥子の日常

 蛇口を捻る前に袖を捲るのを忘れたと、濡れた手の冷たさに思い出して、今更しょうがないと手を洗う。案の定濡れた袖口を気にしながらお手洗いを出る。


 昔は四つもあった季節が今はもう夏と冬の二つだけだ。四月の初夏の中、制服の中に少し湿気た空気が入っていくる。


「昨日怪獣出たらしいよなー」

「あー緊急速報出てたなー」


 通りすがりに男子生徒の会話が聞こえた。




 怪獣の出現はもはや日常における災害の一つと近い。


 緊急速報が流れ光学パルス銃の影響で近隣には通信障害が出るため、一般の市民にも知られていることだ。


「昨日窓から走ってくトクタイのバイク見たぜ! 片方ちっさいの多分女!」


「まじ? そうなるとガチ戦隊モノじゃん」


 それ透馬くん。


 ちっさいっていっても私より少し高いぐらいだからそんなことないんだけどなあ。やっぱり男性にしては小さめなのかな。




 そう思って聞こえた会話のことを忘れて教室に戻ろうとすると、貝原、と呼び止められた。


「先生」


 休み時間、お手洗いを済ませ教室に戻るところだった私に声をかけてきたのはポロシャツ姿の担任教諭だった。


「進路面談。どう、親御さん……じゃなくて保護者さん来れそうか?」


 私の両親が揃って亡くなっているのをを思い出したのか、担任は丁寧に言い換えた。


「難しいかもしれません」


 現在、書類上の保護者に対策局の大人の名前を借りている。住所でさえその方の自宅ということになっているので、忙しい大人これ以上雑事を伝える気にはならない。首を振った私に、担任は腕を組む。


「うーん。とはいえ一度夏休み前に本当にそれでいいのか確認したいところなんだよな」


 とりあえず意見を動かす気はないので黙ってその場にいると、チャイムの音が鳴った。


「ま、また日程組み終わったら言うわ」


 担任はそう言うと片手を掲げる。私が会釈して立ち去ろうとすると「あっ、そうだ貝原」と思い出したように呼びかけた。


「数学の宿題、完璧だったぞ」


 よかったです、と答える。答えが決まっている問題は楽だ。正しい答えが曖昧な現代文や古文、主観が入る倫理などの方が苦手だ。


「お前は子供なんだから無理し続けることないんだからな。真面目だってことはわかってるから、一日くらい忘れたっていいからなー!」


 そう言うと担任は「じゃあ俺次B組の授業だから」と歩き出した。まだ廊下にいる生徒に声をかけながら私が歩いていた廊下を進んでいく。


 無理なんてしていない。与えられたことを行い応えていくのは、生きている者すべての義務だ。 


 学校から特殊生物対策局は遠くない。都内に隠されることなく建っている特殊生物対策局の高層ビルは、正義の味方の象徴だと門の前は撮影スポットの一つだ。


 関係者IDを見せて門を通過する。警備の厳重な自動ドアを潜りエレベーターで本部に上がると、開いたドアに局員の注目が集まる。


「お疲れさまです」


「おかえりー、珠弥子ちゃん!」


 口々に言われる「おかえり」の挨拶に「お疲れ様です」と答えていく。学校の書類上は違うが、現在このビルが実質私の住居で、職場だ。


 引っ越してきて半年。やっと「おかえり」にすんなり答えられるようになった。彼らは仕事でここにいる。正しい返事は「お疲れ様です」だ。


 壁を大きく占めるモニターは分割して街の状況を映している。各デスクに並べられたコンピューターも、すべて最新型のものだ。目が合って手を挙げた研究員に歩み寄った。


「昨日持ち帰ってくれた灰の分析結果がでたよ」


 そう言って研究員は手元のパソコンの画面を切り替えた。


「DNA解析をしたところ、主にマムシの塩基配列ってわかったよ。それと一部に、人間の」


「やっぱり、被害者の?」


「そう、やっぱり被害者のだけじゃなかった。やっぱり妙でね、複数人の……」


 話し始めた研究員に耳を傾けたところで、彼の手元に置かれた紙が目に入る。


『2037/11/2

 青梅気象観測台 呼称:ヒミズ怪獣

 被害 死者15人 重軽傷者3人

 青梅気象観測台全壊 移転後再建築予定


2038/1/3羽田物流倉庫 呼称:ネズミ怪獣

 被害 死者3人 重軽傷者2人

 倉庫一棟破損 


2038/2/7川崎臨海コンビナート 呼称:アライグマ怪獣

 被害 死者1人 重軽症者4人(戦闘員1人を含む)

 工場内一部火災 修理中  


2038/2/13首都高速換気施設 呼称:ヨザル怪獣

 被害 死者0人 軽傷者5人

 高速一部停止 修理後再開予定』


「──が共通点かなあ……って、おーい、珠弥子ちゃん」


 手に取っていた紙の前で手を翳されて、はっと思考の照準を目の前の研究員に向ける。


「すみません」


「いいよ」


 そう言って局員の視線が落ちていた紙を見た。


「ここができてからは死者0人だね」


「え?」


 私が抱いた疑問に、局員はふっと笑った。


「昨日のあの警備員さん、一命を取り留めたって」


 モニターに映った血溜まりで横たわった体を思い出して、よかった、と胸を撫で下ろす。私が救助した男の人も、怪我はなかったようだ。もう日常に帰れただろうか。


「川崎のはねー、通報前だったからねー……」


 紙を見ながら苦々しく呟いて、それからぱっと顔を上げた。


「けど臨場してからの死者はほんと、0だよ。よくやってるよ、みんな、子供なのに」


「護塔先輩は成人してますよ」


「大学生なんて子供と一緒! 戦闘員のみんなは、僕たちより若いんだから」


 そう言うと制服姿の私を見て目を細めた。ここの局員皆、とても優しい。アニメのように漫画のように、子供が身を呈することを本心で是としていないことは知っている。


 けれど、私たちは適応してしまったのだ。──着ることで怪獣と対峙できる、あのアーマーに。


「昨日の事件はマムシ怪獣って呼称にするよ」


 そう言って「死者は0!」と私に向けてウインクした。


「まあ所蔵していたスーパーコンピュータが一台壊れちゃったから、首都圏の災害受信予報の精度が少し下がるかも、って言われてるけど……死人が出なかったのはひとまずホッとするとこだよね」


 一度暗い顔をして、それから私を励ますように言うと、話題を変えるように「そういえば」と顎に手を当てた。


「局長来てるよ。久しぶりに」


「そうなんですか?」


「うん、そう」頷いて、それから「噂をすれば」と開いた扉の音に振り向いた。


「来ていらっしゃったんですか」


 高校生の私でもわかる仕立てのいいスーツ。自分の父親世代とは思えないほど、若い顔立ちの男の人が、私を見つけて片手を上げた。


「久しぶりだね」


 左右に出す足を一直線に揃えて、美しく歩み寄った男の人に軽く頭を下げる。


「お久しぶりです。螺山(ほらやま)局長」


 今日も、ネクタイ一つ歪んでない。いつも前髪を上げて固めており、清潔感がある髪型の下は甘い顔をしている。


 私の挨拶に続いて、研究員が「お疲れ様です」と軽く首を垂れた。螺山局長はそれににこやかに答えて、それから私と目を合わせる。


「昨日も疲れさまだったね。無事で何よりだ」


「ありがとうございます」


 大丈夫だったかい、と投げられた言葉に大丈夫です、と返すと最近学校はどうかと聞かれた。


「高校三年生だろう、進路の面談とかもあるんじゃないか?」


 亡くなった両親に代わって、現在この螺山局長が、私の名目上の保護者をしてくれている。 


「いつでも相談してくれていいんだからね」


 そう言った表情は、亡くなった父と似た類のものだった。それは、局長には私と歳の近い息子がいたからだろう。もう亡くなっているらしいが。


「いつでも相談受けるからね。やっぱりきみをここに誘った人間として、責任があるから」


 私は螺山局長に声をかけられて高校生でありながらここに入局するに至った。


──初めて出現した怪獣。正式呼称、ヒミズ怪獣。


 モグラ怪獣と呼ばれ、甚大な人的被害を及ぼした怪獣の被害者第一号が、通報を受けて最初に臨場した、警察官の父だった。


──やあ、お母さんによく似てきたね。


 初めましての前に、螺山局長はそう言って私の前に現れたのだ。生前の父や母と旧知の中だったらしい。


「まあ、きみのお父さんとは知らない仲じゃなかったからね。父親だと思って気軽になんでも言ってほしい」


 何かしら目をかけてもらっていると思う。ここに住むことを提案してくれたのも螺山局長だ。


「ありがとうございます」


 母親は幼少期に亡くなっており、父親さえも失い孤独になった私にとって、彼が与えてくれたのはありがたい提案だった。


──一緒に君のお父さんを殺した怪獣を倒さないかい?


 そう言って与えられた私のアーマーは試作品段階で、ベスト部分しかなかった。


 後から入った護塔先輩と透馬くんは全身が特殊なアーマー素材で作られている。一人一人調整があるらしく、その後も私にはベスト部分しかなかった。とはいえ上半身以外の部分も、アーマーほどではないとはいえ、易々とダメージを受けない素材になっている。身体能力強化の恩恵も受けられているので不満はない。


「ただいま帰ってきましたー」


 会話をしていた私たちの間に、新しい声が飛び込んできた。


「透馬くん、おかえりー」


 局員の声に開いたばかりの扉を見ると、制服姿の透馬くんが帰ってきたところだった。




他の局員たちと挨拶をしながら「螺山局長!」と半袖の制服姿で元気よく走り寄ってくる。


「お疲れさまです、局長! お久しぶりです!」


下防(したのぼう)くん。やあ、昨日はお疲れさま」


 螺山局長に労うように言われた透馬くんの制服のワイシャツの裾が汚れていることに気が付いて、透馬くん、と呼びかける。「シャツ汚れてるよ」


 私の指摘に嬉しそうにしていた顔を下げると「あ」と言った。「友だちとテニスしてたんで」


 ぱっぱと手で払われて、服についていた砂が軽く落ちる。螺山局長が面白そうに眉を上げた。


「ほう、そうかい。結果はどうだった?」


「散々でした。アーマー着てれば余裕なんですけどね」


 私たちが戦闘時に着用する特殊生物対抗アーマーは、身体能力を増強する。それだけでなく、受けた攻撃を無効化してくれる。正確には、受けた傷を瞬時に癒してくれる効果を持つ。


「ははっ、それは面白いことになりそうだ」 螺山局長が喉の奥で笑う。


 初めての怪獣来襲から、三回目の来襲までにこのアーマーを開発した環境適応工学の第一人者だ。螺山局長の時間は誰より高価なので、改めて面談の話などできないと思う。


「それにしても、なかなか来られなくて悪いね。新型武器の開発だけでなく、他の省庁や政治家との付き合いもあるから……」


 申し訳なさそうな口ぶりに「気にしないでください」と言うと、透馬くんが前のめりになる。


「そうですよ! 螺山局長には螺山局長しかできないことがあるんです! 僕ら支えてもらってるの実感してますから」


 透馬くんに言われて、螺山局長は精悍な顔立ちに甘く垂れた目尻を下げて「ありがとう」と言った。


「悪いね。じゃあそろそろ行かないと」


 それから腕時計を見て「貝原くん」と私を呼んだ。


「何かあったら気兼ねなく連絡してくれていいからね」


「ありがとうございます」


 透馬くんと共に頭を下げて、他の局員たちに挨拶をしながら螺山局長は本部を出て行った。


「僕がテニスとかできるのも、螺山局長のおかげだからなぁ」


 頑張らなきゃ。と透馬くんは言った。──螺山局長は、環境工学の第一人者でもあるけれど、医学博士でもある。


「怪獣とは戦うって聞いた時はビックリしたけど……僕ヒーローに憧れてたんで、怖いけど、今楽しいです」


 私の一つ下、高校二年生の透馬くんは、生まれつき心臓病を患っており、高校生になるまでベッドの上で過ごす時間が一番長かったらしい。そんな彼の日々が、螺山局長が開発した人工心臓で大きく変わった。


「やっと普通の高校生になれた気がします」


「怪獣退治してるけど」


「それは」透馬くんが一度考える素振りをする。「ラノベなら普通の高校生の範囲です」


 透馬くんの言葉に「そうなんだ」と少し笑う。


「ミャー子先輩も冗談言うんですね」


 そう言われて、私は肩をすくめた。


「冗談っていうか、事実、かな?」


 私の言葉に、透馬くんは難しそうにうーんと唸って、「二ヶ月顔を合わせてきて、やっとミャー子先輩がわかってきた気がします」 腕組みをしてそう言った。


「うーっす。ただいま」


 扉を開けて入ってきたのは、護塔先輩だった。私服姿で、綺麗な髪をぼさぼさにしながら入ってくると重そうな足取りで歩を進めてきた。


「護塔先輩。今日は遅かったですね」


 私の言葉に、護塔先輩はあくびをして答える。


「あー。大学の図書室でレポートやってるうちに寝ちゃってよ」


「優人先輩、もう少し早け来てれば螺山局長に会えたんですよー?」


「俺はいいや、あのおっさん」


「護塔先輩」


 透馬くんの言葉に頭を掻きながら答えた護塔先輩を諌めると、はいはい、と言って、街の様子を映すモニターに視線を投げた。


「そろそろ夜だな」


 モニターに映る街には夕陽が差し込み始めていた。


 怪獣は、いつも夜に出現する。


「なんで夜だけなんですかね。学生としては嬉しくないんですけど」


「そこ嬉しいじゃないんだね」


 私の言葉に透馬くんはえへへと笑った。


「……遺伝子情報の大半を占める生物が夜行性の生物だからな。それに由来してるってことだろ」


 そう言うと「多分な」と言った。



 珍しく真面目なトーンの護塔先輩に、私と透馬くんがキョトンとしていると、近くの研究員が椅子を回した。


「その通りだね。まだ断定できるほどのサンプル数ではないけど、今までの怪獣は分析の結果呼称された生き物に大きく似通っていると思うよ」


 そう言って研究員がモニターに向き直り椅子を戻すと、護塔先輩はほらな、と言う顔をした。


「じゃああの時のネズミ怪獣はチーズとかあげたら手懐けられてたんですかね……」


「おもれーじゃん」


 護塔先輩はそう言いながらも透馬くんの冗談にまったく笑わなかった。ひらりと片手を挙げる。


「じゃ、俺は飯食い行くわ。お前らも社食行く?」


「行きます!」


「私は宿題やってからにします」


 元気よく答えた透馬くんと反対に答えると、護塔先輩は軽く手を上げた。


「ま、ゆるくやれよ」


 護塔先輩が上げた手をひらりと振る。


「僕今日豚カツデラックス定食にします」

「お前人の金だと遠慮ねえな……」


 歩き出した二人の会話を聞きながら、次々と切り替わるモニターに目を向ける。


 守ることが私の役目だから、手を抜ける時なんてあるわけがないのに。








 対策局の資料室で宿題を済ませ、食堂に着いた時には護塔先輩と透馬くんの姿はなかった。いつもと同じ日替わり定食を食べ、自室に戻る。戦闘員のために与えてくれた部屋はワンルームマンションのようで不足はない。


 机の上に置いてある写真立てを眺める。 四歳ぐらいの幼い私と、母と父の若い姿。背景の緑豊かな場所は、今まで住んでいた家の近くの公園だと知っている。


 これが母が生きていた頃に撮った写真だ。家族三人揃った最後の写真。私の肩を抱いて微笑む母の胸元には白いネックレスがある。 写真から視線を外して、シャワーを浴びるため脱衣所に入る。


 ブラウスのボタンを外していくと、着けていたネックレスが暖色の照明の下で鈍く光った。写真の中で母が着けていたネックレス。乳白色の中に、緑とオレンジが光る。


 オパールのネックレスは衝撃と水分に弱いので、首の後ろの金具を外し、洗面台に置くと、また内包する違う色が瞬く。


 長袖のブラウスを脱いだ自分の姿が鏡に映る。


 ネックレスがあった場所の少し下に傷跡がある。


 小さい頃受けた手術だ。よく覚えていない。母が亡くなってすぐだった気がする。


私は体が弱くて、よく熱を出す子だった。けれどその手術を受けてからは体調を崩したことはない。


 シャワーを浴びて、透馬くんと交わした会話を思い出す。


 もう二ヶ月か。


──なんで俺を庇った! 頭の中で護塔先輩の大きな声が反響した。


 人間より一回りは大きな、アライグマ怪獣の振るった一撃だった。それは特殊生物対策局が発足して、三人で向かった初の現場だった。電気設備が破壊されたのか、火が上がり始めて、煙臭い現場。


 怪獣が複数体出たのは初めてだった。護塔先輩は三体いたアライグマ怪獣の一体の相手をしていて、その背後を襲うように現れたその一体が骨のむき出た腕を振るった。


──護塔先輩!


 突き飛ばすように庇って、特殊アーマーではない腕部分に鋭い爪が当たった。血の流れる私に、護塔先輩はもう下がれと言った。


──下がりません!


 特殊アーマーの身体機動増幅機能がなかったら、庇えなかったかもしれない。 血を流す程度の裂傷で止まったことは体の治癒能力を上げるベストの恩恵だろう。私たちは燃え始めた工場で怪獣を倒し、そして混乱する現場の鎮静に努めた。


──死んだらなんもなんねえって分かってんのか!


 わかっています、と答えた。舞い飛ぶ火の粉の中で、護塔先輩の喉仏が一度上下したのを覚えている。


 死んだら何もならない。なれない。だからこそ。


 生きてる者は、死んでる者の分まで背負うべきなのだ。


 生きてる者は皆願いを掛けられている。だからこそ私は戦っているのだ。


 シャワーを浴び終え、テレビを点けてドライヤーで髪を乾かす。字幕でニュースを見ながら、胸元まである髪の毛が乾いていく。


 誰に言われたわけではないが、戦闘向きではなくとも髪を伸ばすことは続けたかった。伸ばし続けて胸元まで届いたけれど、どこまで伸ばせば私は十分だと感じるだろうか。


 ドライヤーのコードを束ねていたところで、見ていたニュース番組が終わると、この春始まったらしい戦隊ヒーローのCMが流れた。全身アーマーが私たちと被る。むしろ私たちの方がそれを模しているのに。


『日曜朝、放送中!』


 みんな見てくれよな、とウインクした俳優の顔立ちに、ふと、ヘビ怪獣の現場で見た男の人を思い出した。


 綺麗だったと、思う。いや、それは月の色みたいな髪の色のせいだ。


 見たと言っていいかわからない。だってきっと気のせいだった。現に映像データには何もなかった。


 考えを肩に垂れる髪ごと振り落として、時計を見上げる。ちょうど八時になっていた。


 きっと私たちくらいの年代がターゲットであろうバラエティ番組が始まる。雛壇に立つ芸能人を誰一人知らなかった。


 そう、ヒーロー番組は朝にやるもの。


 ヒーローは、夜には会えない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。