第8話 もう一人の幼馴染
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俺は、西川と別れ、下駄箱へ向かっていた。
せっかくの高校生活。
俺が思い描いていた高校生活は、1日目に前後左右の友達と話して、交流を深め、放課後や休憩時間には、友達と談笑するはずだった。
しかし、現実を見ると、正面にはやたらうるさい西川がいて、後ろには掃除ロッカーしかない。
左右を見るも、左は女の子であり、なかなか声を掛けにくい。
そもそも華恋とよく話しているキラキラしたグループの一員だ。
そして右を向けば、ただ無機質な壁が俺を見つめ返してくるだけだった……。
それに、初日に華恋とクラスで話したこともあったからか、俺に視線も集まっている気がする……。
「このままだと、クラスに馴染めないな……」
と、俺の心の声が漏れてしまったその時。
「縦が5で、横が6だから、この下駄箱には靴が30個入るんだね。つまり、1クラス30人だから、ぴったり入る計算……と」
1年1組の下駄箱の前で、何個靴が入るかを数えている不審者がいた。
「な、なにをしているの? 美那子さん……」
「は! って、優作か……」
彼女の名前は、〈高梨 美那子〉だ。
華恋と同様に幼馴染で、小さい頃は良く3人で遊んでいた。
ちなみに、美那子とは中学も一緒であった。
クラスは別ではあったが、美那子がこの学校に入学していることは知っていた。
しかし、初日から下駄箱の前でブツブツと靴の数を数える不審者が、まさか自分の幼馴染だとは思ってもみなかった。
「なんで、下駄箱の数を数えているの?」
「あぁー、華恋がまだ、学校にいるか知りたくてね、出席番号は知っていたから、靴の場所も予想できるしね……5、6、7……」
美那子は、手を止めずに下駄箱を左上から、順番に数えていった。
左上から、出席番号順に下駄箱は配置されているから、出席番号さえわかれば、学校にいるか否かは、判明するだろう。
「それなら、クラスに顔出せばよかったんじゃ」
「でも、トイレ行ってたりとか、どこかフラフラしてたら、いるかいないか分からないでしょ!」
確かにそうであるが、それならクラス内の人に一言聞けば良いのでは……。
そう思ったが、俺が美那子の立場でも、クラスの人に話しかけられない……だって、人見知りだもの。
「ここだ……って、もう帰っているかー」
「ざ、残念だったね」
下駄箱の中は既に上履きのみになっており、ローファーはなくなっていた。
「なにか用事でもあったの?」
「えっ? まぁ大したことじゃないんだけど……」
俺が用事の内容を聞き出そうとすると、美那子はプイッと目を逸らした。
華恋と同様に、俺に何か隠し事がある時は、美那子も目を逸らす癖がある。
「まぁ、なんでもいいけど……じゃあ、俺は帰るね」
「ちょっと待って」
そう言うと、美那子は俺の腕を掴んだ。
「……!」
「ちょっと、あなたにも話さないといけないことがあるから、今日は一緒に帰りましょう」
「ま、まぁそれは構わないけど……」
美那子の家も、俺たち2人の家の近所である。
そのため、下校ルートも被るし、別に問題はない。
「よし、じゃあ、久々に一緒に帰ろう!」
◇
俺と美那子は、2人で歩いて帰ることにしたのだが、既に歩いて5分が経過しているのに、全く会話がない。
何か話すことがあると言っていたが、こっちから聞かないといけないことなのか? ……と、素朴な疑問を抱いた。
「あのさぁ、優作」
「あぁ、何?」
ついに沈黙を破り、美那子が口を開いた。
そして、美那子は周りを確認して、一呼吸置いた。
俺は、この美那子の姿を見て、少しだけ嫌な予感がした。
「てめぇ、しっかりしろや!」
「て、てめぇ?」
急に喋り方が変わり、さっきまでの愛嬌ある表情から、怖いヤンキーのような人相へと変貌した。
「お前、ぼそぼそと友達が出来ないだの、つぶやいていたなー?」
「ぎくっ!」
その心の声、聞かれていたか……。
というか、どんな地獄耳だよ。
「それに比べて、華恋はクラス中の人間と仲良くなり、クラスの外からは、学校一番の人気者になろうとしている……幼馴染として、恥ずかしくないんか?」
「い、痛いところを突いてくる……」
俺だって、高校生活は、友達を沢山……100人作る意気込みだったんだ。
ただ、初日から、夜更かししたり、いろいろとアクシデントが起きただけである。
「私だって、1人友達出来たぞ? お前は、何人できているんだ?」
――ひ、1人だけかい……。
「俺なんて、2人出来たから! 2人!」
何故か見栄を張ってしまった。
美那子に負けていることが、気に入らなかった。
それよりも、1つ気になったことが……。
「美那子! カット!」
「えぇ? なんで、カット?」
「ヤンキーの1人称は、『ウチ』や『あーし』、『俺』とかの方が、いいと思うぞ?」
「な、なるほど……」
美那子は、女優を目指し、劇団に通う金の卵。
演技力は、劇団からもお墨付きを頂いているみたいだが、役を作るまでが苦手のようで、小学生から中学生にかけても、よく巻き込まれ、練習の付き合いをしていた。
この演技練習は、咄嗟に始まることが多い。
こちらも急に始められるうえに、アドリブ力が求められるため、かなり疲れる。
「ありがとう! 優作」
「演技練習も付き合うけど、話したいことって何なの?」
「ま、まだ覚えていたんだね……」
また、視線を逸らしてしまった美那子。
嘘やごまかす演技も練習した方がいいと思う次第なのであった。
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