第60話 初日を終えて
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「優作! これから、葵とサリィちゃんとご飯食べに行くんだけど、一緒に行かない?」
「駅前のファミレスに行く予定です」
大和不在のババ抜きに見事に負けた華恋は、ちょっと唇を尖らせて不機嫌そうにしながらも、俺を食事に誘ってきた。
そして、天音さんもそれに補足を加える形で話した。
「俺は、今日は大人しく帰るよ……ちょっと疲れちゃったし」
「そ、そっか……」
まさか断ると思わなかったのか、華恋は少しがっかりとした顔を見せた。
俺は「ごめんね」と手を合わせて、後ずさりで別れを告げた。
それに対し、館山さんと天音さんは笑顔で手を振って返してくれた。
「じゃあ、3人で女子会だー」
背後から、元気な館山さんの声が聞こえてくる。
女子3人の方が、ゆっくりと気を遣わずに会話が出来るだろう。
俺は、体に少し疲労を感じながら、帰路に就くこととした。
下駄箱には、すっかり人影もなく、体育館やグラウンドから部活の掛け声が聞こえてくる。
――もうすっかり、部活の時間か。
謎のババ抜き大会を1時間ほど行ったため、いつもの学校の雰囲気とは変わっていた。
「あれ? 優作じゃん」
「ん? その声は……」
あくびを抑えながら校門を出ると、背後から女性の声が聞こえてきた。
「あ、あぁ……。美那子か、なんか久々な気がするな」
「確かにそうだね、同じ学校でも、なかなか会わないよねー」
「それよりも……美那子も髪を上げているんだな」
「あら、気づいてくれたの?」
勉強会以来の美那子と会った。
美那子も華恋と同様に、髪をヘアバンドで上げていた。
「あそこの町内会では、髪をヘアバンドで上げることが流行っているのか?」
「『髪を上げると動きやすい』って華恋が教えてくれたのよ」
「へぇ……そっか」
――美那子は元々ポニテだから、あまり変わらない気がするが……。
俺は、横に並んで歩いている美那子のヘアスタイルを何度かチラッと確認した。
すると、その様子が不自然だったのか、美那子は俺の顔をジロジロと見てきた。
「もしかして優作って、おでこ出している女の子好きなの?」
「えぇ!? 何故、そうなる……」
「優作が、私の顔をジロジロ見るなんて、珍しいから」
そんなことはない。
ただ、いつもと違う雰囲気を出している幼馴染の髪型がちょっと気になっただけだ。
「いや、その髪型も似合っているなと思って」
「な、何を言っているの?」
こんなことを言って、美那子が「照れるかな?」と思い、ちょっと揶揄ったつもりだったが、彼女は予想外の反応を示した。
「誰にでもそんなこと言うもんじゃないよ?」
美那子は、ジト目で俺のことを睨んできた。
「だ、誰にでも言っていないけど……」
「お昼に華恋から聞いたよ? このヘアバンドと髪型を褒められたって」
「き、聞いたのかよ……」
――恐るべき、女子のネットワーク。
少しでも褒めたり、何かしたりすると筒抜けになってしまう。
—―まさか、美那子を褒めたことも華恋に筒抜けになってしまうのか……。
「安心して優作。私を褒めたことは、華恋には特別に内緒にしておいてあげる」
「べ、別に言ってもいいけど……」
俺は、謎のプライドが邪魔をして、美那子に気持ちと反対のことを言ってしまった。
「あら、そう? じゃあ言っちゃうね?」
「えっ……あ、あぁ……」
「嘘だよ? 冗談冗談!」
美那子は「あはは」と笑いながら、隣を歩いていく。
「まぁ、そういうことは、やみくもに色々な人に言わないことだね。優作はモテるんだから、勘違いさせちゃうよ?」
「えぇ、モテてなんていないよ……」
「嘘? バレーボールの時、女子の黄色い声援聞こえなかったの?」
「ま、全く聞こえなかったけど……」
――というか、美那子も試合を見に来ていたのか。
正直、バレーボールの時は、試合に集中をしていた。
華恋にも良いところを見せたいというところもあったが、彼女に「カッコいいところを見せる」と誓った手前、初戦敗退などしたら、恰好がつかないからだ。
「美那子も、あの時に試合見ていたんだね」
「うん、華恋が『見に来てね』って、言っていたからね」
「そっか、全然気づかなかった……」
明日は、余裕がある時に周りを確認しよう。
「明日は、先輩との戦いなんだっけ」
「あぁ、そうだよ」
「無理しない程度に頑張りなさいね」
「ありがとう」
美那子は、地元の病院に移った時に、真っ先にお見舞いに来てくれた人だ。
だから、俺の怪我をして灰になっていた時の苦しみや悲しみをよく知っている。
美那子には弱音を聞かせたこともあるし、彼女の前では変に強がる必要がないから不思議と落ち着くのだ。
「美那子にも、良いところを見せられるように頑張るよ」
「えっ? だ、だから、そういうことは、やみくもに言わないことだよ?」
「そうだったね、絶対に勝つよ」
すっかり日が落ちた帰り道。
夕日に照らされる幼馴染の笑顔に背中を押され、俺は明日の決戦に向けて、静かに闘志を燃やすのだった。
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