第59話 ババ抜き大会 後編
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大和が参加したババ抜き。
華恋は、大ピンチに陥っていた。
ババ以外のカードに触れると「あ……」と声が漏れる大和。
しかし、それは大和の作戦だったようだ。
ようやく勝てる相手が出来たと思っていた華恋だったが、大和の策略に踊らされて、ここまで避け続けられたババをついに持ってしまった。
「くっ……負けたくない……」
華恋は、胸の前にトランプを差し出した。
絶対に表情に出さないぞ……という意思を感じるほどに、華恋はトランプと大和の顔を交互に睨みつけている。
「そんなに睨まないでください……」
「睨んでいないよ?」
大和もその形相に困惑を隠せない。
華恋自身も、そこまで睨んでいるとは思っていないようだ。
「こっちですかね……」
「さぁ、どうでしょうか」
大和は、左のトランプに指を掛けた。
それに答えるかのように、低い声で華恋は返事を返したが、大和の表情は読めない。
「じゃあ、こっちはどうですかね……」
「さぁ、どうでしょうかね」
次は、その流れで右のトランプに指を掛けた。
華恋は、さっきよりも声は低くなった気がしたが、表情は全く変えなかった。
――華恋、上達したな……。
個人的には、右のトランプが当たりにみえる。
しかし、今までは「大体こっちだな……」と予想できたが、今回は確信が持てない。
俺は、ふと大和の表情を確認した。
大和も唇を尖らせて、どちらがババではないかを迷っている。
「こっちだー!」
大和が引いたトランプは、左だった。
そして机に裏面で伏せて、みんなが見えるようにゆっくりと表にした。
(JOKER)
大和が引いたトランプはJOKERだった。
「おぉー! 華恋が、初めてババを引かせた!」
「おめでとうございます」
館山さんと天音さんは、華恋が初めて相手にババを引かせたことを喜んだ。
華恋も嬉しかったのか、ニヤリと笑顔が隠せていない。
大和は「反対でしたか……」と悔しそうにボソッと呟き、自分の持っているトランプ2枚を、裏面にしてシャッフルを始めた。
「さぁ、白原さん! 引いてください!」
「よ、よし……」
華恋は、視線で大和のトランプを吟味した。
そして、その後に右から左とトランプを指で触り、大和の表情を確認する。
「……」
「……」
お互い無言の心理戦が繰り広げられる。
そして、大和の表情も全く変わらない。
大和の強がりの可能性もあると考えたが、声が漏れているのをわざとやっていたとすれば、本当に心理戦に持ち込んでいることが分かった。
「こっちだー!」
「……!」
華恋は、右のトランプを先ほどと同じように天に掲げた。
そして、再び勢いよく机の上にトランプを叩きつけた。
(スペード 2)
華恋が引いたトランプは、『JOKER』ではなかった。
「や、やったー!」
「えぇー! 負けました……」
華恋は初めて心理戦に勝ったことに、小さくガッツポーズをしながら、小刻みにジャンプを繰り返している。
その表情は、無邪気な笑顔に溢れていた。
「おめでとう! 華恋!」
今日何戦も続いたババ抜きで、初めて勝つことのできた華恋。
館山さんと華恋は、ハイタッチを交わした。
「大和……残念だったね」
「は、はい……」
俺は、大和に「ドンマイ」と声を掛けた。
「も、もう一回お願いします」
大和は、ちょっと悔しかったのか、皆に再戦を申し込んだ。
「え? 大和くんの頼みなら、しょうがないなぁ~」
華恋は、初めて勝ったことで、調子に乗っている。
先ほどまでは「もうババ抜きなんてしない……」と涙目で嘆いていたはずなのに。
この現金で分かりやすいところも、昔から変わらない彼女の魅力だ。
大和が再び、机に散らかっているトランプをまとめて、配ろうと準備を進めていると……。
「おい、大和? 悟? 何をしているんだ?」
「……!」
教室の前の入り口から、大和と西川を呼び止める低い男性の声……。
どうやら、バレーボール部の先輩のようだ。
「大和? 悟を呼びに行ったんじゃないのか?」
「ご、ごめんなさい」
「何、呑気にババ抜きしているんだ!」
「は、はい! 今すぐ行きます!」
「す、すいませんでした」
先輩の鬼の形相を見て、大和と西川は、慌てて体育館へ向かった。
「悪いな、楽しい時間を遮ってしまって」
「い、いえ……私が誘ってしまったので、大和くんは怒らないであげてください」
館山さんは、大和だけをかばった。
まるで「西川はいくらでも怒っていいですよ」と言わんばかりに。
先輩は、小さく頭を下げて、教室を出ていった。
「さて、もう1戦だけやって帰るか」
「えっ!」
華恋は、自分をカモにしない大和がいたからもう1試合しようと思っていたようだ。
その彼がいなくなった今、華恋は「もうやらない」と言い、帰り支度を素早くし始めたのだった。
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