第58話 ババ抜き大会 中編
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「優作は、分からないかな? それだと、ただのくじ引きじゃん!」
俺が、華恋にくじ引き戦法を否決された後、教室に大和が来た。
「西川くん! 早く部活に行きますよ!」
教室のドアから、ひょっこりと顔を出す大和。
そして、集まっている俺たちに「何しているんですか?」と不思議そうに歩いてきた。
「大和くん! 今、みんなでババ抜きしていたんだよ」
「ババ抜き……ですか?」
「そう! 良かったら、大和くんもちょっとだけやって行かない?」
「いいですよ?」
館山さんの提案に、大和は快くOKの返事をした。
「えぇ……でも、大和くん、先輩に怒られたりしないの?」
「そうですね……先輩の目が怖いですが、ミーティングまで20分ほどありますし、1〜2回だけならやります」
「そ、そうなんだね……」
華恋は、ババ抜きで連敗続きで、もう止める雰囲気を醸し出していた。
そのため、彼女は全然乗り気じゃない。
「わ、私は見ていようかな?」
「せっかくですし、華恋さんもやりましょうよ」
「う、うぅ……」
華恋のババ抜きの弱さを全く知らない大和は、純粋な気持ちで、参加を勧める。
素直な気持ちで言われてしまい、華恋も断りきれない。
そして、大和は机の真ん中に置いてある、ババ抜き後の散らかっているトランプを一つにまとめて、華恋の分も含めて、配り始めた。
「じゃあ、自分はここに座りますね」
「あ、あぁ……」
「うん! どうぞー」
そして彼は、館山さんと西川の間に座った。
その瞬間、西川は「おいまじか……そこは俺が座っていたかったのに……」と言いたげなリアクションを大和に向けた。
まぁ悪気がないことはわかる。
手際よく、6人分のトランプを配る大和。
「やる気満々だねぇ」
「はい! ババ抜き、久々にやります」
「あんまりしないかぁ」
何気ない館山さんと大和の会話。
そして、喋りながらも素早くトランプを配り終えた。
「さて、始めましょうか!」
ババ抜き参加メンバーは、自分の目の前に無造作に置いてあるトランプをまとめて、ババ抜きの準備を進めた。
各自が、揃っているトランプを机の真ん中に捨てていく中……。
「あぁ!」
「ん、どうした? 大和?」
「な、なんでもありませんよ?」
大和が急に声を上げた。
西川の問いに、明らかに動揺を隠していない大和。
まさか、大和は、ババを持つと、声を出してしまうタイプか?
そうだとすると、華恋とも争えるぐらいの最弱王筆頭候補になるが……。
「誰にババが行っているかねぇ」
館山さんが、誰がババを持っているか様子を伺う。
正直、ババを持っている時に、彼女に顔色を見られたくない。
全て、見透かされる気がする……。
「私じゃないよ?」
「俺でもないぞ?」
華恋と俺は、ババを持っていないことをみんなに伝えた。
誰もが「持っていないこと」を訴える中、馬鹿正直な人間が、この中にいた。
「自分が持っていますよ?」
その声を上げたのは、大和だった。
しかし、これはババ抜きだ。
心理戦に持ち込んできている可能性もある。
「大和ー? 本当に持っているの?」
「はい、持っていますよ?」
――なんだこの真っ直ぐな目は……。
とても嘘ついているように見えない。
その後、ババは大和の場所から動くことなく、後半戦まで試合は進む。
「上がりました!」
「はい、上がりー!」
「私も上がり!」
最初に上がったのは、天音さん。
その次に、俺が上がり、館山さんもそれに続いた。
残り2枚からなかなか上がれない、華恋と西川。
ババを持っていて、一番焦らないといけない大和は、残り2枚。
「なかなか、上がれませんね……」
大和は、自分の手札を引かれるタイミングでも、素直な性格からか「あ……」と、ババじゃない方に触れられた際に、思わず声が漏れてしまう。
そんな均衡もついに破れるタイミングが来た。
「やりぃ! エースが揃った!」
西川がついに残りのトランプを揃えることに成功する。
俺はその瞬間、華恋が動揺していないか表情を確認したが……。
その顔は、やけに冷静だった。
確かに、焦る必要はない。
大和は、ババ以外のトランプを引かれそうになると「あ……」と声を漏らす。
この声を聞き逃さなければ、華恋が確実に勝利を掴む時が来る。
華恋は、大和が差し出した2枚のトランプに手を掛けた。
「こっちかなぁ?」
「……」
右のトランプを触った時、声は漏れなかった。
つまり、この場にいる全員が、こっちがババということだ。
「こっちかなぁ?」
「あ……」
左で声が漏れた。
「こっちだ!」
華恋は「読み切った」と言わんばかりに、ドヤ顔で左のトランプを引き、机に叩きつけた。
(JOKER)
「……え?」
机に叩きつけたトランプには、何と『JOKER』と書かれていた。
その場にいる全員の頭の中が「?」マークで覆い尽くされた。
「浅はかでしたね! 白原さん!」
「ま、まさか……」
「今頃気付いても遅いですよ。自分は、この瞬間のために、ババ以外のカードを触った時に、声を出すという伏線を張っていたんです」
「な、なんだと?」
「そして、勝負所でいつもと反対のケースで声を漏らしました。それによって、白原さんは、ババを引かされたんです」
大和は、恐ろしいほどに策士だった。
そして、一気に大ピンチに追い詰められる華恋……。
その表情は、いつもより曇っていた。
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