第57話 ババ抜き大会 前編
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俺たちは、激闘の球技祭1日目を終えた。
勝ち進んだのは、西川たちが率いるソフトボール。
そして、バレーボールは男女ともに勝ち進み、女子バスケも勝ち進んでいた。
1組は、フットサルとハンドボールの出場はないので、ほとんどの出場チームが勝ち進んでいる。
1組は、運動神経が良い人が沢山いるようだ。
「じゃあな、大和」
「はい! また明日です!」
バレー部は、球技祭の期間ではあるが、部活はあるようだ。
既に、大和は元気に挨拶をして、体育館に向かっていった。
――久々のバレー疲れたな……。
今日は、早く帰って、ゆっくり寝よう。
俺は、1日目のホームルームを終え「さて、帰るか……」と肩掛けのバッグを肩に掛けようとした時だった。
「優作と西川くん! 今から、葵とサリィちゃんとババ抜きするんだけど、やらない?」
「ば、ババ抜き?」
「ババ抜き?」
華恋の不意のババ抜き発言に、俺と西川の頭の中は「?」で埋め尽くされた。
「何故にババ抜き?」
「私たち、3人でよくババ抜きするんだけど、天音さんがすごく強いんだよ」
「天音さんが?」
「そう! だから今からやるんだけど、どうせなら人数多い方が楽しいじゃん?」
どうやら、ババ抜きをしようと言ったのは、天音さんのようだ。
天音さんと館山さんがいる机の方を見ると、既に机の上にトランプが5人分に分けて置かれている。
――俺たちも、自然と人数に入っているのか……。
トランプが配られているなら、数回くらい付き合ってあげるか……。
「西川、せっかくトランプも配られているみたいだし、数回ババ抜きしようか」
「ま、まぁ~数回だけならやる時間あるか」
「よし! それじゃあ決まりだね! さあ、こっちだよ?」
俺と西川が、ババ抜きをやると返事を返すと、華恋は「やったっ!」と嬉しそうに小さくガッツポーズをした。
俺たちが、天音さんたちの元へ歩みを進めると……。
「やっと来たか、優作くん、西川くんよ」
「来ましたね……絶好のカモが……」
館山さんと天音さんの雰囲気がいつもと全く違う。
何よりも、普段は言い回しが優しい天音さんの辞書に、絶好のカモと言う言葉が登録されていることに驚きを隠せない。
「もうトランプ配ってくれているんだね……やるからには、負けないぞ」
「もちろんです」
やるからには、負けたくない。
強いとされている天音さんが、どれだけの実力があるかが、楽しみだ。
天音さん、館山さん、西川、華恋の順番で、トランプを手に取った。
俺も、参加メンバーの中では、最後にトランプを取った。
机の上に、無造作に捨てられていく、ペアのトランプたち。
そして、着々とトランプの枚数は減っていき……。
気が付くと……。
最後に残ったのは、華恋と西川だった。
華恋がババを持っていて、ババ以外を引けば、西川が勝つターン。
西川は、華恋の持つトランプを触り、華恋の顔色を伺う。
「こっちかな?」
「……。」
「こっちかな?」
「……!」
西川は、右から左の順番にトランプを触った。
そして、左のトランプに触れた瞬間、明らかに華恋の表情がピクッと反応を示し、視線までも不自然にそらした。
――こ、これは……。
そうだ、華恋はババ抜きが苦手だった。
小学校の時も、美那子や友達とババ抜きをした時も、表情を隠せない華恋は、高確率で負けていた。
きっと、これを察してほしくて、俺をババ抜きに誘ったのかもしれない。
「こっちだ!」
「そっちはやめてぇぇー!!」
華恋は、西川が引いたトランプから視線を離さずに叫んだ。
清楚なイメージを潰すかのような情けない叫びと、涙目の表情だった。
そんな素の華恋を見るのは久々だったので、俺はちょっと笑いそうになったのと同時に、昔から変わらないその姿がやけに愛おしく感じられた。
「く、悔しい……なんで、すぐに見抜かれるの?」
「だって、華恋……すぐに、表情に出ちゃうんだもん」
館山さんは、華恋の訴えに、笑いながら華恋が表情に直ぐ出てしまうことを伝えている。
「そ、そんなに出てないもん……ねぇ?」
俺に、華恋は潤んだ瞳の上目遣いで、訴えてくる。
――その表情は反則……。
ここは、素直に言うべきなのか……アドバイスを送るべきなのか……。
ふと、館山さんを見ると、小さく首を横に振っていた。
これは、華恋のリアクションを見て、遊んでいるな……?
いや、俺たちも小学校の時に、このリアクションが面白くて「表情に出ていないよ?」って、嘘をついていたっけ……。
「ちょっと表情に出ているかもしれないから、視線を逸らしてみれば?」
流石に可哀想だったので、簡単なアドバイスはした。
その後、5試合ほどババ抜きをした。
運が良く、ババを最後まで残して、西川に引かせた試合以外は、華恋の全敗。
華恋は、俺のアドバイスに忠実に従い、視線を逸らす作戦に出たのだが……。
「こっちかな?」
「……」
あまりにも不自然な視線の外し方で、「私、今ババ持ってます!」と顔に書いてあるようなもので、逆に見抜かれやすくなっていた。
「私、上がったー!」
「私もです」
そして、決まって天音さんと館山さんは、早く上がっている。
確かに、この2人はババ抜きが強い。
強い2人と、恐らくクラス最弱の華恋が、ババ抜きをずっとしていたとしたら……。
――想像するだけで、華恋が可哀そうになってくる。
「もう、ババ抜きなんてしない!」
華恋は、手に持っているババを机に叩き、勢いよく立った。
「華恋、逆に表情に出てしまっているから、もういっそのこと、トランプを伏せてみたら?」
「えっ?」
俺は、表情を見抜かれるなら、トランプを伏せた状態で、華恋もどっちがババか分からない……簡単に言うと、運に身を任せる作戦のくじ引き戦法を提案した。
「そ、それじゃあ……」
「ん? それじゃあ……何?」
「それだと、ババ抜きの良いところなくなっちゃうじゃん! 心理戦なんだよ?」
「は、はぁ……」
「優作は、分からないかな? それだと、ただのくじ引きじゃん!」
華恋は、ムスっとした表情を見せてそっぽを向いてしまった。
俺の真っ当なアドバイスは、華恋のプライドと共に、否決されたのだった。
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