第56話 西川はいいところを見せたい
いつもお読みいただきありがとうございます!
バレーボール組が激闘の初戦を勝った後、俺と華恋と館山さんは急いでソフトボールをしているグラウンドへ向かった。
天音さんとその他のクラスメイトは、10時半ごろから体育館で行われるバスケットボールの応援のため、残っていた。
「西川くんたち、勝っているかな?」
「そうだね、『絶対に勝つ!』と意気込んでいたけど……」
俺の少し前を、華恋と館山さんは並走しながら廊下を歩いている。
そして2人は、ソフトボールの試合状況について予想をしていた。
グラウンドに到着すると、ソフトボールの試合はちょうど最終回を迎えていた。
得点板を見ると、『3対4』で1組が負けている。
しかし、1組は2アウト満塁という絶好のチャンス。
そして、バッターボックスには、西川が立っていた。
これは、館山さんにいいところを見せる絶好の舞台だった。
「あっ! 西川くんだ! 頑張れー!」
館山さんは、大きな声で西川に声援を送る。
そして、俺たちは1組のベンチ付近に移動した。
「西川ー! かっとばせー!」
「西川くん! いっけぇー!」
俺と華恋も西川に声援を送る。
俺たちの存在に気づいたのか、西川はバッターボックスでコクリと頷いた。
「よっしゃぁぁ! 任せとけ~!」
……いや、俺たちに頷いたのではない。
これは完全に、館山さんを意識している。
――あいつ……わかりやすすぎるだろ。
西川は、バットを大きく構え、鼻息を荒くする。
いいところを見せようと、全身がガチガチに力んでいることが丸わかりだった。
俺は心の中で、西川に「リラックスしてー」と念を押した。
いや、俺でもこの場面で力まないことは無理だ……。
相手ピッチャーが、第1球目を投げ込んできた。
「うおおおお!」
西川は、バットに体が持っていかれるぐらいのフルスイングをかました。
「パンッ!」
「ストライク!」
まぁまぁ。初球は仕方がない。
2球目は、もっとリラックスしろよ……。
「パンッ!」
「ストライク!」
まるでさっきのリプレイを見ているかのようだった。
このままだと三振する……。
嫌な予感しかしなかった。
「西川くん! 落ち着いてー! リラックス!」
「り、リラックス?」
「そう! リラックス」
ベンチで応援する館山さんが、バッターボックスでガチガチになっている西川にアドバイスを送る。
そして西川は、大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。
相手クラスの声援も次第に大きくなる中、相手のピッチャーが第3球目を投げた。
――ど真ん中だ!
これなら当てられるぞ……西川、かっとばせ!
西川がさっきよりも抑えたスイングで、バットを振りぬいた。
すると「カキィィン」という快音が、響く……はずだったのだが……。
「カーン……コロコロ……」
西川が振りぬいた打球は、サードの正面にコロコロと力なく転がる。
あまりにも打球がしょぼかったからか、西川はバッターボックスで立ち尽くしていた。
「あぁ……走れ! 西川」
俺がバッターボックスで立ち尽くす西川に慌てて声を掛けると、あいつは我に返ったように走り出した。
もう、誰もが試合終了……そう思った。
しかし、サードが一塁に送球した……次の瞬間だった。
「……!」
サードが投げたボールが、大きく逸れた。
それはもう……とんでもない方向に。
その隙に、3塁ランナーと2塁ランナーが帰還した。
「ゲームセットォ!」
まさに棚から牡丹餅のような展開で、『5対4』で1組が勝利した。
相手のエラーによるサヨナラ勝ちという、なんとも言えない劇的な幕切れだった。
――試合の終わり方も、西川らしいっちゃらしいか……。
「やったー!」
「うぉぉおお!」
グラウンドに、クラスメイトたちの歓声が響き渡る。
しかし、打った本人はあまり納得がいっていないようだ。
「西川くん、綺麗なサヨナラヒットだったね!」
「え、えぇ……あれは、エラーじゃないのか? なぁ、優作」
館山さんは、西川に少し皮肉交じりの言い方をしていた。
締まらない結果に終わってしまった西川は、俺に話を振ってきた。
――きっと、カッコよく決めきれなかったことが、恥ずかしかったのだろう。
確かに、プロの試合でも、この決着のつき方は、ファンとしては複雑な心境になってしまう。
「ま、まぁ……当てたことで、相手のエラーを誘ったんだから」
俺は、納得のいっていない西川に精一杯のフォローを返した。
そして俺は、西川の耳元でこう言った。
「次は、カッコよく決めればいいんだよ」
「そ、そうだな……次は、もっとカッコつくようなヒット打つよ」
西川は、苦笑いが収まらなかったが、「次こそは絶対に……!」と、もっとカッコよく活躍することを心に誓ったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマーク、感想などをいただけると、執筆の励みになります!




