第55話 ムキになっちゃった
いつもお読みいただきありがとうございます!
「ピーッ!」
試合開始の笛が鳴り響く。
俺たち1組の初戦の相手は、1年3組だった。
どうやら向こうには、中学時代にバレー部だったヤツが何人かいるらしい。
――この学校、何人元バレーボール部いるんだ?
1クラスに2人ぐらいはいるぞ……。
「宮くん、お願い!」
「おう! ……って、すまーん!」
相手の強烈なサーブを、宮くんが何とか体で受け止めた。
その勢いを殺しきれず、ボールはコートの右端へと大きく逸れていった。
「大丈夫! まかせて!」
俺は、ボールの落下地点になんとか追いつき、ネット際にトスを上げた。
今日は、そんなトスを上げることが多い。
俺は、皆が必死にレシーブするボールの落下地点に向けて、まるで大きなリスの様に、コートを縦横無尽に駆け回る。
――こんなの体力持たないぞ……。
しばらく運動を全くしていなかった者にとって、縦横無尽にボールを追いかけることは、正直きつい……。
ただ、皆が必死に上げたボールを必死に追いかけるだけだ。
「唐島くん、打って!」
「まかせて!」
どんなに乱れたレシーブでも、俺は必ず打ちやすいボールを送り続ける。
怪我のブランクはあるが、ボールの軌道を読む目と、それに追いつく反射神経は、体の芯に染みついていた。
これは、セッターとしての意地なのかもしれない。
「すげぇ……あの人、どんなボールでも、ひたすらトスを上げているよ」
「あの人、バレー部じゃないの?」
「いや、バレー部にはいないよ、あんなに上手い人」
ギャラリーのどよめきがどんどん大きくなっていくのがわかる。
そして、審判をやっているバレー部にも「バレーやっていたのか?」と声をかけられるほどだ。
「ピーッ!」
第1セットが終わった。
点数は『15対12』だった。
ずっと短いシャトルランをやっている気持ちだったので、休憩時間が体に染みる。
「優作……あなたすごいね……」
水筒の水をゴクリと飲んでいると、最前列で応援してくれていた華恋が、「お疲れ様!」と肩を揉みながら話しかけてきた。
「これぐらい朝飯前だよ」
「そっか、流石だね!」
褒められたのが嬉しかったのと、肩から伝わる華恋の体温にドキドキしてしまい、疲れも一瞬で吹き飛んだ気がした。
「第2セットも頑張ってね」
「ありがとう!」
もちろん、クラスメイトも応援してくれているのが嬉しかった。
しかし、華恋の激励が、ちょっと疲れている体に染みた。
――次で決めてやるぞ……!
そう意気込んでいたのだが……。
◇
「ピーッ!」
第2セットは『10対15』で相手が上手だった。
元バレー部が何人かいるからか、アタックのパワーが全く違う。
みんな必死にレシーブをするものの、カバー出来ないほど、ボールが明後日の方向に飛んで行ってしまう。
「ごめん、優作……」
「あんなの取れないよ……」
経験者としての……遠慮というものが、あいつらにはないのか……。
というか、勝手に遠慮していたのは、俺だけだったのか?
そんなことを思っていると……。
「優作」
「どうした? 唐島くん」
「もう、打っちゃわないか?」
「……えっ?」
唐島くんも俺と同じことを考えていたようだ。
いくら、俺がトスを上げても、経験者相手には限界がある。
「経験者の2人には、アタックしてもいいんじゃない?」
そのため、唐島くんが、俺にも「アタックすれば?」と提案をしてきた。
「うーん……俺は……」
唐島くんの提案は真っ当な意見だ。
俺も、向こうだけアタックを打って来て、内心イライラしている。
「ちょっと、軽く打ってみるか……」
――俺はまだ子供だ……。
そう自分に言い聞かせ、俺は軽くアタックすることに決めた。
向こうが経験者としての遠慮がないから、プライドなんてどうでも良い。
「優作くん! えいっ!」
「……!」
経験者ならこちらにもいる。
リベロとしてひたすらボールを拾ってくれた唐島くんからのトスが、ネット前の打ちやすいポジションに上がる。
そして俺は、相手の経験者に向けて、ちゃんと軽い力でアタックを決めた。
「わぁ!」
そのボールを相手は拾えずに、コート外にボールが吹っ飛んでいった。
――この感覚が懐かしい……。
俺はこの後、もう1人の経験者に向けても、1回だけアタックを決めた。
その後はトスを上げることに専念し、勢いを失った1年3組から『15対11』でマッチポイントを奪い、見事勝利を収めることが出来た。
「やったー!」
「ないすう!」
試合終了の笛が鳴ると同時に、俺たちはコートの中心でハイタッチを交わした。
宮くんも唐島くんも、汗だくになりながら満面の笑みを浮かべている。
「優作! お前もムキになるんだな?」
「あはは……ちょっとムキになっちゃったよ……」
宮くんに背中をバンバンと叩かれていると、ギャラリーから華恋と館山さんたちが駆け寄ってきた。
「優作、お疲れ様! すごくかっこよかった!」
華恋は興奮した様子で、目をキラキラと輝かせて話しかけてきた。
「ありがとう……華恋! ちょっとムキになっちゃったけど勝ててよかった」
「そんなところも、優作らしいね」
俺が少し照れくさそうに言うと、華恋は花が咲いたような、とびきりの笑顔を見せてくれた。
登校の気まずさなんて、もうどこにもない。
その後、俺たちは午後の試合にも勝つことが出来た。
そして明日には、因縁の相手、迫水先輩率いるクラスとの戦いだ。
ふと見上げると、体育館の上のギャラリーで手すりにもたれかかりながら、俺たちの試合を見下ろしている迫水先輩の姿があった。
先輩とパチリと視線がぶつかり、熱い火花が散る。
――絶対に負けられない。
俺の心の中で、これまでにないほど強く、熱い闘志が燃え上がっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマーク、感想などをいただけると、執筆の励みになります!




