第54話 華恋の意地
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第2セットは、完全に勢い付いた1組が、優勢に試合を進めていく。
焦った相手は、レシーブミスなどを連発し、どんどん点差が開いていく。
気が付けば『10対2』と大量のリードとなっていた。
「あ……」
「気にしないで! 華恋!」
「白原さん! ドンマイです!」
俺の視線の先には、クラスメイトと周囲からの期待に応えられない華恋の姿があった。
きっと、彼女は内心焦っているだろう。
点差をキープしつつ、試合は終盤戦に進む。
そして、相手からのサーブが、華恋の目の前に飛んできた。
「華恋! 私が取るよ!」
「私に任せて! ……あっ!」
「ボトッ……」
館山さんと華恋の大きな掛け声が聞こえてきた。
しかし、その掛け声も虚しく、レシーブをサポートしようとした館山さんと華恋の間にボールがボトリと落ちた。
「ごめん……華恋間に合っていたね」
「き、気にしないで……。蒼ありがとう!」
館山さんのドンマイと言う励ましに、華恋は再び引きつった笑顔を見せる。
すぐに一緒に出場しているバレーボールのクラスメイトたちが、華恋の周りに集まり、「ドンマイ」や「切り替えていこう!」などの掛け声が小さいながら聞こえてくる。
その後、相手チームの反撃を食らい『14対12』まで追い上げられていく。
こちらは、マッチポイントまで来ているが、中々決めきれずにいた。
今も、相手のレシーブが上手く、しっかりとスパイクまで決めてきた。
山なりのボールではあるが、再び華恋と天音さん、館山さんの間に落ちそうな球が、飛んできた。
—―まずい、またお見合いになってしまう……!
俺の脳は、さっきのお見合いの光景を鮮明に覚えていた。
「わ、私が……」
さっきまで、大きな声で「私に任せて」と掛け声を上げていたが、自信を無くしたのか、声が出なくなっていた。
「華恋、お願い!」
「白原さん! お願いします!」
すると、館山さんと天音さんは、華恋にとってほしいと声を掛けた。
その2人の掛け声に、自信を無くしていた華恋は、咄嗟の反応を示し、落ちそうなボールに飛び込んだ。
「届けぇぇ!」
華恋は、流石の運動神経を見せた。
一度は、ボールを取りに行くかを迷った華恋だったが、2人の掛け声を聞いて、反射的に体が動いたのだろう。
「ナイス! 華恋!」
俺は、無意識に「ナイスレシーブ!」と大きな声で華恋を褒めたたえた。
すると、彼女は一瞬だけこちらをチラッと見て、すぐにボールの行方を目で追っていた。
華恋がスーパーレシーブをしたボールは、偶然にもネット際にいる夏川さんに繋がった。
そして、館山さんはそのボールにうまく合わせて、相手がいないコートにボールがポトリと落ちるスパイクを決めた。
「ピィィー!」
そして、試合終了を告げる笛が鳴った。
1組の女子バレー組の初戦は、見事な勝利で終わった。
「やったー!」
「勝ったー!」
バレーに出ていたメンバーが、コート内で歓喜の輪を作る。
俺も、練習に付き合っていた身として、初戦を勝ってくれたことに安堵していた。
何よりも、華恋が最後にしっかりとレシーブをしてくれたこと。
そして、華恋の運動神経と反射神経の良さに、改めて驚かされた。
その歓喜の輪を見ていると、華恋が俺の方を見て、ニコッと満面の笑みを見せた。
「見て? 白原さんがこっちに笑顔を向けたよ?」
「いやいや、今のは、俺に笑ってくれたんだよ!」
俺の隣にいた、華恋を応援しに来ていた生徒が、そう話していたが……。
—―今のは、俺への笑顔なんだよな……。
そう、内心優越感に浸りながら勝ち誇っていた。
挨拶を終え、華恋たちが1組のクラスメイトが集まっていた場所へ戻ってきた。
そして、真っ先に華恋が、俺のもとへ駆け寄ってきた。
「優作! 見てた!?」
興奮冷めやらぬ様子の華恋は、その額にうっすらと汗をにじませ、いつもより少しだけ息を上げていた。
「あぁ、見ていたよ。最後のレシーブ、ナイスだったな!」
「えへへ……葵とサリィちゃんの掛け声のお陰だけどね」
華恋は、終始ホッとした表情を見せた。
「さて、次は男子の番だね」
館山さんが、俺と宮くん、唐島くんの3人を見てニヤリと笑う。
「もちろん、勝ってくれるわよね?」
「あぁ、女子たちがいい流れを作ってくれたからね。この調子に乗って、勝ってくるよ」
自信満々に、宮くんが館山さんに返答した。
「優作くん、実力を見せつけちゃってください」
天音さんからも、激励を貰った。
「うん、ありがとう! 天音さんみたいに華麗に決めてくるよ」
そう返すと、天音さんは目を瞑り、ウンウンと頷いた。
「……優作」
不意に、華恋が俺のジャージの袖をぎゅっと掴んだ。
「怪我、無理しないでね。でも……カッコいいところ、見せてよね?」
上目遣いでそう言われ、俺の心臓は大きく跳ねた。
朝の『お願い』の念押しもあったことだし、ここは幼馴染として、ダサい姿は見せられない……。
俺はコクリと頷き、コートへと向かった。
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