第53話 華恋のピンチ
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9時……。
体育館に全生徒が集まり、開会式が行われた。
そして、その開会式を終えた俺たちは、一旦クラスに戻っていた。
「俺たちは、10時からだから、どこの応援に行こうか……」
ふと、華恋の近くにいたクラスメイトが話していた。
「じゃあ、私たちは、9時半から1回戦始まるから、応援よろしくね」
「はい! 白原さん! 応援に行きます」
俺たちの出場の前に、女子バレーボール組の1回戦が組まれていた。
華恋は、そのクラスメイトに「私たちの応援よろしくね」と声を掛けていた。
その声掛けは連鎖するかのように広がり、華恋は天音さんや館山さんも含めた数人の団体を連れて、教室の前の扉から体育館へ向かった。
その際、華恋は俺にアイコンタクトを送り、俺は「優作も応援に来なさい」と言う視線をしっかりと受け取った。
「流石、白原さんだな……」
「た、確かに……団結力が違うね」
いつもの席で話していた俺と西川は、華恋のカリスマ性に感心していた。
「じゃあ、俺たちも応援に行きたいところだけど、10時から試合だから、グラウンドに行くわ」
ソフトボール組は、初戦に負けてしまうと、俺もそうだが、華恋や本命の館山さんも応援に来れない。
何故なら、9時半から10時半は、体育館で男女のバレーボールの試合が組まれているからだ。
「そっか、次会うときは「勝ったよ」と報告できるといいな」
「そうだな、お互いに頑張ろう」
クラスメイトからの応援を貰うためには、初戦は絶対に勝たないといけない。
俺と西川は、改めて互いの健闘を祈った。
「僕も、悟くんが活躍できるように、頑張りますね」
「あ、あぁ~ありがとう!」
大和は、完全に『西川サポートモード』になっている。
とにかく、館山さんの前で西川が活躍できる場が出来ることを祈った。
◇
俺は、宮くんや唐島くんたちと、クラスを後にして体育館に移動をした。
「わぁぁぁー!」
「ピー!」
体育館は、沢山の生徒の歓声と笛の音で溢れていた。
「宮くんのトイレが長かったから、もう試合が始まっちゃってるよ」
「そんなこと言っても、仕方ないだろ?」
唐島くんが宮くんの長いトイレを指摘していた。
「いたいた……あっちだ、喧嘩していないで行くぞー!」
俺は、言い争いをしている二人の背中を押し、華恋たちがいるコートへ向かった。
体育館は四つのコートに分かれており、バレーボールとバスケットボールで二つのコートずつ使われている。
コートに近づくと、そこには白熱した試合を繰り広げている華恋たちの姿があった。
「葵、お願い!」
「任せて! えい!」
華恋の上手いレシーブから、館山さんがアタックで相手コートにボールを叩き込んだ。
しかし、相手クラスもなかなかの強敵で、粘り強くボールを繋いでくる。
得点は、『14対14』のデュースだった。
この球技祭のルールは、2セット先取の15点マッチ。
とにかく、最初のセットを取りたい……。
俺たち、1組のクラスメイト達は、そう願っていた。
そして、相手が何とか繋いだボールがこちらのコートに返ってきた。
ふわりとした返球……俗に言うチャンスボールというやつだ。
「任せて……っ、きゃっ!」
華恋のファーストタッチは、変な方向に逸れていった。
—―まずい!
このままでは、ボールが拾えずに相手の得点になってしまう……!
そう思っていると……。
「任せてください!」
夏川さんが、何とかボールを拾い上げる。
そのボールは、ネットギリギリに上がる、まさしく理想的なトスだった。
そして、そのボールに反応したのが……。
「おりゃぁ!」
力強い声が、コートの奥から聞こえてきた。
声の主は、天音さんだった。
天音さんの経験者らしいアタックが、相手のコートに突き刺さった。
天音さんのアタックで『15対14』とリードした。
—―あと1点!
天音さんの活発な動きが、チームに勢いをつけていた。
彼女自身も、あまりアタックとかは打たないようにすると、試合前に言っていたが、体が反応してしまったのだろう。
そして、天音さんのサーブ……。
「おりゃぁぁ!」
天音さんが力強く放ったサーブは、ネットに引っ掛かり、相手のコートへポトリと落ち、1セット目を先取した。
「やった!」
天音さんのサービスエースで、盛り上がる1年1組のクラスメイト達。
ここだけ切り取ったら、天音さんが躍動していることだけが伝わってくる。
「白原さん……大丈夫かな?」
「ん? かれ……白原がどうしたの?」
別クラスの同級生と思われる男子たちが、やけに白原さんを心配している声が耳に入ってきた。
「白原さん……あまり、上手くレシーブとか出来ていないんだよ」
「そ、そうなのか……教えてくれてありがとう」
確かに、華恋が心なしか元気がないように見える。
無理もない……。
学校の球技祭とはいえど、沢山人がいる。
そして、華恋はあまりバレーボールは上手ではない。
それでも、皆に心配をかけないように、必死に引きつった笑顔を作って、声出しを欠かさずに行っている。
『みんなが憧れる女の子』でいるために、無理をしているようにしか見えなかった。
そんな心配をよそに、第2セットが始まった。
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