第6話 俺の平和な日常はいつ来るのか。
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ベッドに寝転がりながら、俺は暗い部屋の天井を見つめていた。
頭の中では、今日起きた怒涛の出来事がぐるぐると回っている。
華恋が清楚な超絶美少女になって帰ってきたこと。
親友の西川と同じクラスになったことなど……。
今朝の俺に話しても、情報量が多すぎて信じないだろう。
そして、白原家での『華恋の秘密』と、最後の会話。
――お前……何故、イメチェンをしようと思ったんだ?
あの時の、華恋の真っ赤になった顔と、尋常じゃない動揺っぷり。
もし、俺の好みになりたくて変わったのだとしたら……。
「……いやいや、ないない。絶対にない」
俺は暗闇の中で首を横に振った。
そんなラブコメみたいな展開、俺のような平凡な男子高校生に起こるわけがない。
ましてや、転校してから数年もの間、華恋と話していない。
自意識過剰にも程がある……俺と華恋は、幼馴染であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「そんなこと……あるわけない……」
気が付けば、俺は寝落ちをしていた。
◇
「……!」
俺は突然の寝落ちのせいで、目覚まし時計を掛けるのを忘れていた。
しかし、窓から差し込むまぶしい日差しで、俺は飛び起きた。
時計を見ると、昨日家を出た時間を指していた。
「やべー! 寝落ちしたー!」
俺は慌てて洗面所に向かい、顔に冷水をぶっかける。
急いで制服に着替え、カバンを掴み、テーブルに置いてあったクロワッサンを口にくわえ、慌てて家を出た。
「いってきます!」
勢いよく玄関の扉を開け、外に飛び出した。
そして、白原家の前を通り過ぎようとした時……。
「ガチャ」
「じゃあ、いってくるね……って! あぁ」
そこには、シワ1つない綺麗な制服を着こなし、スクールバッグを両手で丁寧に持った華恋が立っていた。
朝の光に照らされたその姿と可憐さに、一瞬見とれてしまった。
「お、おはよう……」
華恋は周囲に人がいないことをサッと確認すると、ズカズカと俺に距離を詰めてきた。
「おはよう……じゃないわよ!」
その顔は、さっきの可憐さとは程遠く、怒りに満ちた形相であった。
「優作! 昨日のアレ、何!? 途中で話を切り上げて、そそくさと帰るなんて……ずっと、モヤモヤしていたんだからね」
朝イチからものすごい剣幕で問い詰められる。
どうやら彼女も、昨日の会話の続きがずっと気になっていたらしい。
しかし、俺にはここで素直に答える勇気も、時間もなかった。
「い、いや……やっぱ別に深い意味はなかったんだよ。俺の気のせいっていうか」
「気のせいってなに!? そこまで言ったなら、最後までちゃんと……っ!」
「ああっ! ヤバい、マジで遅刻する! ほら、華恋も急がないと、遅刻するよ」
「えっ? あ、ちょっと、優作! 逃げるなー、話を逸らすなー」
俺は、抗議する華恋の声を背中に受け流しながら、学校へ向かった。
危ない危ない。あそこで足を止めていたら、完全にペースを握られていた。
「こらー! 優作ー!」
というか、華恋の足が速い。
――俺、結構速く走っているのに、ぴったりと張り付いてくる。
俺は運動靴で、華恋はローファー。
しかも、シワ1つない綺麗な制服姿でブレずに走っている。
やはり運動神経も、昔の華恋と変わりはなかった。
◇
息を切らしながら、なんとか始業のチャイム前に学校へ到着した。
「華恋、はぁはぁ……先にクラスに……行きな……はぁはぁ、変な噂立てられたくないでしょ……」
俺は、その言葉通り変な噂が立たないよう、少し距離を空けて校門をくぐった。
「わ、わかったわ……ありがとう」
俺は息が上がっているのに、華恋は全く息が上がっていない。
――よ、よし……そろそろ、いくか……。
俺が息を整え、1年1組の教室がある廊下へと足を踏み入れると、目の前の光景に思わず立ち止まった。
「……なんだ、これ」
俺たちの教室の入り口付近に、異様な人だかりができていたのだ。
見慣れない顔ばかり。どうやら他のクラスの男子生徒たちらしい。
「おい、あの子か?」
「マジでめっちゃ可愛いじゃん。タレントか何か?」
「1組にすげぇ美少女がいるって噂、本当だったんだな……」
「絶対彼氏いるだろ、あんなの」
ひそひそと、しかし確かな熱量を持った声が飛び交っている。
彼らの視線の先、教室の中心には、数人の女子に囲まれてニコニコと笑う〈白原華恋〉の姿があった。
人だかりを掻き分けて自分の席に着くと、前の席にはすでに西川が座っていた。
「あ、優作。おはよ……って、お前、なんでそんな汗だくなんだよ」
華恋から逃げるように全力疾走したせいで、俺は登校早々汗だくになっていたのだ。
当の本人は、涼しい顔をしているが……。
「……って、なんだ、この人だかりは……」
「俺が来た時から、数人いたんだけど、気が付いたらこんなに人が集まっていたよ……皆、白原さん目当てみたいだよ」
昨日、教室で少し話題になっていたとはいえ、まさか一晩で他クラスにまで噂が広まっているとは。
美少女の噂が広まるスピードは、俺の想像を遥かに超えていたようだ。
チラリと華恋の方を見ると、彼女はこちらの視線に気づき、ほんの一瞬だけ『助けて』とでも言いたげな、困ったような視線を送ってきた。
しかし、すぐにまた完璧な『美少女』の笑顔を取り繕い、女子たちとの談笑に戻っていく。
――あいつ、完全に自分から退路を断ってやがる。
というか、こんな人だかりに突っ込んでいける度胸は、俺にはない。
この熱狂ぶりを見る限り、俺の平和で目立たない高校生活は、当分訪れそうにない。
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